第83話~探索者組合京都支部~
「ここに来るのも久しぶりだなぁ」
俺が探索者組合京都支部の建物を見てそう呟く。ちなみに建物についてだが、看板に組合の文字があるので分かりやすいが、文字がなければ多分ただの建物扱いで、誰もそうだと気付かないような影の薄さだ。
それでも中に入れば冷暖房は完備してあるし、食堂やシャワールーム、お風呂などの日常で使える設備も常設されている。
当然だが発現者登録をするための受付や、再鑑定を行う場所もあるし、模擬戦を行えるように体育館のような施設もある。
「私は結構来てましたよ? 空君を探したりとかしてました!」
何それ初耳なんだけど? そんなに傘返そうと思ってたのか? 結構義理堅いと言うかなんというか……。
おっと、説明を忘れていたな。なぜ俺たちが探索者組合にいるのかというと、大本さんからの連絡で琴香さんの再鑑定の準備が整ったからだ。
別に再鑑定自体に準備は要らない。再鑑定を申請する人は結構いるからな。まぁいるだけで、本当に再発現の人なんてほんのひと握りしか現れないが……。
ならなんの準備かというと、大本さんが直接その場に居合わせるための日程調整が主な理由だ。本当に再発現の場合、支部長が直接話をしに行ったりなどがあるらしいが、琴香さんは確定しているのでもう居合わせた方が良いだろうと考えたらしい。
デートと同じに被ったのは偶然だろう。琴香さんが過去最高に怒りを覚えていたが、俺も再鑑定について行くと伝えると笑顔になったので本当に良かった!
そんなことを考えながら、俺たちは探索者組合の建物内へと入っていった。
建物内の雰囲気は結構静かだった。市役所や病院とかに似てるな。白色の綺麗な床や、指紋ひとつない窓など、丁寧な清掃が行き届いている。
なんか初めて来た時は緊張からかそんな余裕などなかったが、今は細かいところにまで目が行くな。とりあえず再鑑定の受付に行くか。
「あの、すみません、再鑑定をお願いしたいんですが……」
「再鑑定ですね。この番号のついた札を持ってあちらの列にお並びください」
琴香さんが結果の人に話しかけ、そんな説明でしてあの場所へと促される。渡された札は青色だった。これは再鑑定者の証で、探索者登録の際は赤色。発現者申請は黄色だ。色分けに特に意味はない。
並んでいる列を見ると、若干黄色の札が多かった。最近は発現者が増えているのかな?
「それじゃあ、俺はこれで」
「はい! 待っていてくださいね!」
俺がついて行く必要はないので、琴香さんにそう告げてその場から離れた。……さて、何をしようか? 待っている間暇なんだけどなぁ……。
「なぁエフィー」
「なんじゃ主人よ?」
暇なのでエフィーに話しかける。周りに人はいないし、そんなに響くほど無人でも無いから問題はないか。一応スマホでも出しておけば……多分問題はない、はず!
「A級探索者、綾辻氷花さん……実力についてどう思う?」
俺は先日戦った氷花さんの実力を、元精霊王であるエフィーの見解で知りたかった。
「ふむ、そうじゃな……ちょこっと強い、じゃな」
A級をちょこっと強い程度かよ。C級の藤森を雑魚呼ばわりしていたし納得かも。ならS級である烈火さんはそこそこ強い……かもな。そう考えると、元のエフィーがどれだけ強かったのさ想像もつかないな。
「こんにちわ篠崎さん、試験以来ですね」
そう考えていると、大本さんが現れた。エフィーはサッと隠れてくれた。助かる。
「こんにちわ大本さん……あ、琴香さんなら向こうの列に並んで行きましたよ?」
「そうですか。それなら後ですぐに向かうとします。それよりも、今は篠崎さんについてです」
琴香さんたちが並び、魔力を鑑定してくれる魔導具がある方を指さすが、大本さんは首を横に振る。俺について……?
「何か問題でもありましたか?」
「問題と言いますか、その……篠崎さんはF級探索者……ですよね?」
大本さんが言いにくそうに尋ねてきた。この場でわざわざF級だけど実際はもっと強いという必要はないな。
「えぇ。それが何か?」
普通にそう返すと、大本さんは口元を俺の耳に近づけてくる。何か言いにくいことでもあったのか?
「篠崎さんはS級迷宮で採掘された魔石を換金したおかげで大量の資金がありますよね? それなら、ここいらで新しい武器でも購入してみるのはどうですか? F級の稼ぎでは失礼ですが、大した武器も買えていないと思うので……」
大本さんがそう耳元で囁いた。なるほど、つまり実力が上がったんだから、F級時代に使っていた武器を買い替えた方が良いと忠告してくれたのか。
「いえ、ありがたいですがそれは辞退します」
「なぜですか? より自分に合った武器を買った方が良いかと思うのですが?」
大本さんが親切心からそう言ってくる。確かに普通なら買い換えるだろう。だが、俺は色々と例外だからな。
「俺が今使っているのはこれです」
「これは……!」
そう言って、普段から使っている短剣を取り出す。大本さんが何も思わずに受け取るが、俺の獲物を見た瞬間に目の色が変わる。
「どうです? 中々なもんだと思いますが。師匠からの贈り物です」
「……なるほど、これほどの武器ならば買い換える必要性は無さそうですね。あなたの師匠も相当な実力者だったと見受けられます。A級探索者の誰かでしょうか? あ、詮索するつもりは無いので悪しからず」
大本さんも俺の短剣を見て納得したのか、そんな事を言いながらすぐに返却してきた。そして少しばかり時間が経ち、琴香さんが並んでいた列の方からザワザワと声が漏れ始める。
「大変です、大本近畿支部長! い、今D級探索者の再鑑定を行ったんですが、A級探索者が誕生しました!」
慌てて現れた組合の職員が、大本さんにそう告げた。
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