第66話~敵討ち~
俺と最上のおっさんが咄嗟に考えた作戦はこうだ。下半身を凍らされた最上のおっさんが俺を掴み、上に放り投げる。自分は大剣を盾にして、《氷塊》を何とか凌ぐ。
《吹雪》のおかげで綾辻さんからも視界は結構遮られているし、その行動は《氷塊》で隠れて見えない。バレるかどうかは一か八かだったが、上手くいった。それだけは……。
しかし、結果としては俺と最上のおっさんは、綾辻さんに負けた。最後の作戦の失敗の原因は簡単。……近接戦でも彼女の強さが異常だったことだ。
綾辻さん、魔法系なのに……。どう考えても圧倒的に実力差があった。まぁ挑んだだけでもすごいと褒めてくれると傷は浅くなるな。
その後、綾辻さんは俺が降参したのを確認し、氷から出してくれた。氷像になるのは勘弁だからな!
「ねぇ……さっきのって、どうやったの?」
「さっきの? ……あぁ、俺が現れたの?」
「(コクリ)。……一応、聞いておきたい」
綾辻さんが少しだけ目を細めて、グイグイと近づきながら尋ねてくる。……顔、近くね?
「別にそんな難しいことはしてないよ?」
そう前置きをする。彼女自身も一応と言っているから、想像はついているだろう。
「良い。ちゃんと、確かめたい……」
なるほど、結構しっかりしているな。
「それは試験が終わってからにしよう。最上のおっさんとか、琴香さんや北垣さんは、まだリタイアしていないからね」
彼女としてもそっちの方がいいだろう。まぁ、確実に受かると思うが試験を放り投げてまですることじゃないしな。
「ん。分かった……」
綾辻さんはそう言い残して最上のおっさんの方へと向かう。……大丈夫だよな? 生きてるよな?
「……あの、すみません。あの人の、説得をして、欲しいのですが……」
戻ってきた綾辻さんが困った表情で俺にお願いしてきた。何があった?
「……篠崎てめぇこの野郎、何負けてんだよ」
最上のおっさんのところに向かい、彼の姿を視界に捉える。彼は血を多少流しながら仰向けに倒れていた。そして俺は早々に非難された……。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ? みりゃ分かんだろ? ピンピンしてるわ」
どこがだよ!? 指先ぐらいしか動かせなさそうな格好しやがって!
「……棄権ですね」
「断る!」
「さっきの仕返しかなっ? 今この状況で?」
どう考えても棄権しか手はないだろう。今の彼ならエフィーと契約する前の俺ですら倒せそうだ。
「そうだ、お前んところに回復系のやついたよな? そいつ連れてきて俺を回復させるってのはどうよ?」
琴香さんの事だよな? 琴香さん自身がこちらに来れば良いと思うけど……。
「させると、思う……?」
綾辻さんが首を横に捻りながら尋ねる。ですよね〜。
「ちっ……わ〜ったよ。降参だ降参!」
最上のおっさんも渋々リタイアし、彼のチームはここで脱落となった。俺のチームは2人が頑張ってくれているだろうか……? なんとか綾辻さんから逃げ延びれば……いけるかなぁ?
***
「はっ!」
「うわぁっ!」
北垣さんの一撃が、タンク系探索者さんの盾ごと吹き飛ばす。そのまま北垣さんは私を守りながら、綾辻さんのチーム二人に勝利を収めた。
「あ、すぐに治しますね」
「助かるよ。それよりも、先ほどからすごい音だ」
「そうですね。心配です……」
私は北垣さんの怪我を《回復》しながら、北垣さんと空君の心配をする。
「でも、私たちが行ったところで空君の足手纏いにしかならない気がします……」
「なら、彼が勝って帰ってくると信じて待とうか」
そう決断してからあまり時間も経ってないうちに、その人は現れました。
「綾辻さん……」
現れた彼女を見て、私は空君が負けた事を悟った。北垣さんが私を守るように剣を構える。でも、勝てるとは思っていないだろう。
「……そう。二人は、負けたの……」
綾辻さんは私たちが立ち、自身のチームメンバーがいない事を知り、小さく呟いた。それでも動揺は見られない。空君を倒すほどの強さなら、それも納得はいく。
「なら、敵討ちぐらいは、してあげる……」
綾辻さんが襲いかかってきた。そして……私たちは負けた。
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