第67話~数時間前の敵は今の友~
俺や最上のおっさんが負けた後、試験は予想通り綾辻さんチームが勝利を迎えていた。北垣さんと琴香さんの2人が綾辻さんチームの2人を何とか倒したらしいが、綾辻さんが現れて負けたそうだ。
「うぅ〜、負けてしまいました〜」
「綾辻さんでは仕方がないよ。なんと言ってもA級で、S級探索者の妹なんだからね」
琴香さんが悔しそうに地面に腰を下ろして唸っていると、北垣さんがフォローする。まぁ、等級に二つ以上差があれば勝てることは絶対に無いと言われるほどだからな。
一番体力や身体能力の低いサポーターですら、一個下の等級のアタッカーと同程度と言われるほどなのだ。等級がいかに重要かがよく分かるだろう。
「ところで……」
北垣さんが気まずそうに、チラリと横目で俺の左側を見る。
「はっ、篠崎てめぇがあそこで決めてりゃ勝てたかもしんねぇけどな」
俺の左側に座る最上のおっさんがそう言った。うるせぇしつこい! 俺だってそう思ってたんだよっ!
「なんでいるんですか?」
「は? そりゃおめぇ、一緒に戦ったんだからもう知り合いどころかダチだろ?」
……今気づいた。この人、陽キャとかパリピとかそっち系の人だ!
「あ、2人には自己紹介をしてませんでしたね。さっきまで戦ってましたけど、一応綾辻さんと戦う際に手を組んで気づいたらこうなってました。名前は
俺は慌てて琴香さんと北垣さんにそんな説明をする。最上のおっさんはもう離れる気なさそうだし、こっち側を最低限フォローしようって考えだ。
「紹介された最上だ。あと、俺はおっさんじゃねぇぞ篠崎てめぇ。そう呼べって許可した覚えもねぇぞ?」
あ、気にしてたんだそこ。て言うか俺、結構呼んでた記憶が……あ、ごめん心の中だけだったわ!
「じゃあ最上さん……はなんか嫌ですね」
「んだとぉ、こいつ〜」
「ぐぎゃぁ〜」
最上のおっさんが俺にヘッドロックをかけながら、そんな会話をする。
「空君、私はそれよりも……こっちの方が気になるんですけど……(チラッ)」
琴香さんが俺の右側をチラリと睨みながら、不満げに頬を膨らませてそう言ってくる。
「む? ……心外」
俺の右側に座っていた綾辻さんが、琴香さんにそう言い返す。
「私は、彼に興味が、ある……。だから、そばにいるだけ……」
綾辻さん、一体俺のどこに興味を示したのかな? そう言えば試験の時から俺を狙っていたような……。はっ、もしかして最初に会った時の言葉で傷つけられたとか……?
「はっ、せっかくの勝負に横入りしやがるどころか、俺たちの居場所にズカズカと入り込んでくるとは良い度胸じゃねぇか!」
と最上のおっさんが綾辻さんに反論するが、思いっきりブーメランだと思う。
「そういえば、合否の判定っていつでるんでしたっけ?」
「3時間後だね」
北垣さんが答える。今の時間は3時。ちょうどおやつの時間だ。……エフィー、どうしてるかな? そういえば翔馬もこっちに来ないけど、なにかあったのか……?
「ところで、綾辻さんはなんで空君に興味とか持ったんですか? ……ま、まさか気になるとかじゃないですよね? ねっ?」
おぉっと、ここで琴香さんが意を決したように問い詰める。
「……」
「おいおい綾辻、黙ってるってことはマジで篠崎に惚れたのか〜?」
綾辻さんはボーッと考え事をするように黙りこくる。最上のおっさんが勝負に負けた腹いせから、少しだけいじるような言葉を放つ。
……もうやめてくれ、これを間に挟まっている俺が一番恥ずかしいんだ。あと違うと言われたら、自意識過剰かもしれんがちょっと泣く……。
「好意だとか……そんなんじゃ、ない」
考えがまとまったのか、綾辻さんが一言目にそう告げる。ちょっと泣いて良い? ダメです。
そう自問自答しながらも若干俺の心は傷つき、じゃあなんの興味が? と疑問が膨らむ。
「ただ……あ、名前……なんて、呼べば良い?」
その理由を告げようとして、綾辻さんの言葉が止まる。俺のことをなんて呼べば良いか分からなかったかららしい。キョトンとした表情で尋ねてくる。
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。
「ん……なら、空で」
「いやいや、ちょっと待って下さいよ空君!」
綾辻さんが俺を空と呼ぶと、琴香さんが慌てて止めに入る。
「あ、綾辻さん! もっとこう、距離感とかあるじゃないですか! いきなり名前呼びなんて、私でもしたことないですよ! ずるいです!」
琴香さんが頬を少しだけ赤らめて強気に言い聞かせるように告げる。あと最後に本音が漏れていた気がするがスルーしてあげよう。
「ずる、い……? 私は、一番短い呼び方を、選んだ……それだけ、だよ?」
あ、そうなんだ……。
「む、むむぅ……。それなら、仕方がない……です?」
おっと、琴香さんがまさかの敗北! 俺は何度も負かされているが、相性の問題か? いや、俺が弱すぎるだけか。
「あ、空君。あれって翔馬さんとエフィーちゃんじゃないですか?」
琴香さんの言葉で指差す方を見ると、確かにその通りだった。心なしか、翔馬は喜んだ顔をしている。反面エフィーは残念そうだ。お菓子を食べ足りなかったのか?
そんなことを考えていると、後ろにいる人物に俺は目を見開く。
「……大本さん?」
何故かこの場に大本さんがいたのだ。
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