第65話~共闘、VS綾辻さん《後編》~
俺たちがやろうとしている作戦。それは簡単に説明すれば、最上のおっさんを盾にして俺が倒す……だ。
勝てた場合、最上のおっさんと力を合わせてなので、もし彼が退場したとしても企業の目に留まることは間違いないだろう。
どっちみちこのままじゃ勝てない。俺たちは内心で綾辻さんに対してそう評価を下し、一時的な協力関係を作り上げたのだ。
無論、自分だけが残りたいなら逃げて他の探索者たちを狩れば良いが、俺たちは意地になっていた。先ほどまで倒す相手と手を組むほどに……。
「あぁ、終わりにしよう……俺たち2人の勝ちで」
そう言い切ると同時に前へと踏み出す。放たれる氷弾を自分と最上のおっさんが当たらない程度に短剣で弾く……つまり全部をだ。
「っ! ……なるほど。でも、《氷弾》だけが私の魔法じゃ……ない。《
綾辻さんが唱えた直後、幾重もの小さな氷の粒が嵐のように吹き荒れる。体温の低下……。それと視界と俺の一番使える機動力を奪いにきたのか。……いや、普通にまずいぞ?
「俺が突っ込む。お前はトドメだけ任せる」
「了解……!」
最上のおっさんが俺の前に立ち、風除けとなって進む。
「いけ……!」
先ほどまでグルグルと綾辻さんの周りを回っていた氷弾も攻撃に参加することになった。最上のおっさんは的として大きく、動きは俺より遅い。
向こうも《吹雪》の影響で多少の命中率は下がっているが、それを考慮しても先ほどよりも鋭い一撃だ。
それでも必死に大剣を振り回して破壊したり、盾にしたりする最上のおっさんだが、長くは続かなかった。
「ぐっ! はぁっ!」
氷弾をその身に受けてうめき声をあげながらも、最上のおっさんは着実に前へと歩みを進める。
「む……。なら……《
綾辻さんがそう唱えた次の瞬間、白い光が彼女の指先から発せられ、その向きに氷河のような先の鋭く尖った氷が生成されていく。
それらが一直線にこちらへと向かって進軍。もぐらの掘ったトンネル跡のように、地面を真っ直ぐ凍らせていく。
そして最上のおっさんの足が止まった。……最上のおっさんの下半身が、凍りついていたからだ。避ける間も無かった。
「なっ! これは……あんときの!」
おそらく、初めて会った時に腕を凍らせたのと同じ魔法だろう。あまり見えなかったが、《吹雪》は視界を遮り、動きを封じて当てやすくするための布石だったのか。
「これで、決める……《
そのまま綾辻さんは俺たちに追撃をする。車……いや、トラックとまでは言わないでも、それに匹敵するほどの巨大な氷の塊が綾辻さんの頭上に出現。氷弾の何十倍も大きい。
「……使うつもりは、なかった。でも、あなた達なら大丈夫な気が、する……。だから……死なないで、ね……?」
彼女は悔しげな、しかし心配の表情を浮かべて《氷塊》を放ってきた。《氷弾》よりも速度ははるかに劣るが、動けない今ではその質量の前には無意味としか言いようがない。
グングンとこちらに迫ってくる《氷塊》。近くに来るほど、その大きさに絶望の2文字が似合う。そして……《氷塊》が最上のおっさんにぶつかり、激しく音を立てて止まった。
「……終わった。……無事を、確認しないと……」
綾辻さんが《吹雪》の発動をやめ、すたすたと俺たちの無事を確かめようと近づいてくる。
「俺に関しちゃ、その必要はないよ」
「っ? ……っ!」
空から降り立った俺はそう言いながら、綾辻さんに短剣での突きを放った。でも、その絶好の一撃は惜しくも空を切った。今の避けるとかやっぱ反則だろ!?
だが、俺の攻撃がそれだけで終わるわけがない。続けて二撃目も放つが、それは氷剣に防がれる。魔法系ってなんだっけ……?
「なんでっ? ……ううん、今は関係ない。《氷柱》」
彼女は足元に向かって《氷柱》の魔法を唱える。俺はとっさに足を見やり、今度は食らわないように回避に成功する。同じ攻撃に2度は引っかかってたまるか!
「残念……おしかった、ね……」
「がっ!」
だが、彼女は俺以上に上手だった。俺が注意を一瞬下に向けた時を狙い、自分の背後に向かって《氷柱》を発動させる。
現れた氷柱が綾辻さんの背中を押して、彼女の速度を加速させる。予想外の速さで接近してくる綾辻さんの氷剣の一撃が俺の胸にモロに入り、結構な勢いで吹っ飛ぶ。
「《氷結光》」
体勢の崩れた俺を凍らせてから氷剣を俺に向けて構える。
「……負けました」
俺の……俺たちの敗北だった。すみません、琴香さんと北垣さん……それと、最上のおっさんもついでに。
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