第47話~直球ど真ん中~

「取り乱してしまいすみません。お恥ずかしいところを見せてしまいました」


「気にしないでください。嬉しいならそれを押さえつける必要性は無いですから」



 琴香さんが泣き止むとすぐに頭を下げて謝ってきたが、俺は本当に気にしてない。むしろエフィーや琴香さんの新しい一面が知れて良かったと思ってるし。



「それでですね、結局私はエフィーちゃんと同じ精霊として生まれ変わったーー」


「エフィーちゃんと呼ぶんじゃな〜い!」


「……生まれ変わっただけで何も問題はないって事ですよね?」


「無視じゃと!? 我一応お主のこと生き返られた命の恩人じゃぞ!?」



 琴香さん強いな。



「琴香さんが今までの説明でそう思えるならそうなりすね。ですが何か問題があればおっしゃってください。俺たちで力になりますから」


「主人までも我を無視!?」


「明後日もハンバーグにしてやるからエフィーお座り」


「ワン!」



 …………良いのかそれで? お前、一応は元なんちゃら王なのに……。



「あ、あ〜やってしまいました〜」


「何がです?」



 急に琴香さんが変な発音で頭を抱え出した。言っちゃ悪いが、どう考えても下手な演技にしか見えない。



「空君、時計を見てください」


「ん?」



 見ると時計の針は11時を過ぎていた。



「これはそのまま空君の家に泊めてもらうしかないですね〜」


「いや、普通に電車ありますよ?」



 確か終電は12過ぎぐらいまではあったはず……。



「そ、空君、友達以上恋人未満の深い関係の私を、まさかこんな遅くに帰らせるつもりですか?」


「送っていきますよ! 任せてください!」



 琴香さんが心配していたので、当然俺は安心させようとそう告げる。



「で、でもそれだと空君がこっちに帰って来られなくなりますよ?」


「一人ならどこかの安いホテルでも取ります。安心してください」



 今日の出来事で懐もあったかくなったしな! ……そういえば、S級迷宮で取れた魔石のお金って振り込まれてたっけ? 今度確認しよう。



「……空君、良いから泊めてください」



 もう直球ど真ん中だな。脅しに近いぞ? そうまでして帰りたくないのか!? 泊まりたいか!?



「……分かりました」



 もう面倒なので折れた。だがなぁ! 絶対に手は出さんからな? こうして琴香さんが俺の家にお泊まりをすることになった。



***



 私、大本おおもとは全国に存在する探索者組合、その近畿支部の長として今日も働いている。だが最近、少し気になる人物を発見した。


 F級探索者の篠崎空。こちらのミスで推定S級迷宮に送られてしまうものの、なんとそのゲートを消滅させるという偉業を成し遂げた人だ。


 それだけではなく、最近はE級迷宮などを探索者たちの合同とは言え、自身もモンスターを討伐するといった功績も上げている。


 彼には我々にも知らせていない何かがある。私はそう確信している。無論、己の武器を隠すのは重要だと理解している。


 だが、篠崎さんの場合は別だ。どのような物を手に入れたかは不明だが、大きすぎる力は身を滅ぼす。本来なら使わせないようにもしたい。しかしそれでは彼がどの程度の力を隠しているかを知ることもできない。


 最善としては私自身が目の前で観察をしたい所だが……立場上それはできない。いや、できるといえばできるが、確実に他の者に不自然に思われる。


 彼もそれは避けたいだろう。ともかく、人は簡単に死ぬ。だが、私は彼にそうなってほしくなかったのだ。



「大本近畿支部長、こちらが今回の迷宮攻略の記録となります」


「そうか、助かる」



 篠崎さんの迷宮攻略について纏められた資料を秘書から受け取り、パラパラとページをめくっていく。



「……む?」



 私はこの記録資料が所々おかしいことに気づく。むしろ気づかない方がおかしいだろう。



「この、C級探索者たちが裏切り、篠崎さんに倒された……と言うのは?」

 

「明記されている通り、藤森という探索者を主犯として、一部の探索者たちが利益を独占しようとしたそうです。それに反抗した他の探索者たちでなんとか撃退したそうです」



 ふむ……最近はゲートの数も多くなっていると言うのに、身内同士のいざこざとは笑えない冗談だ。……C級探索者を含む3人をD級、E級たちだけで処理したのか……。本当に……?


 いや、もしかしたら篠崎さんがやった可能性も……。確かこの藤森と言う名の探索者、篠崎さんと一緒にS級迷宮に潜っていた男だったはずだ。


 力を持っている篠崎さんが倒した可能性も……。それにもし仮に彼らが命を救われ、彼に黙っているように言われた場合、我々には話さない可能性も高い……。



「…………はぁ、この件に関わるのはもうやめるべきか?」



 今考えたことは全て憶測に過ぎない。最悪を仮定しているものだ。この件に関わっていることで、本来やるべき仕事も少し遅れている。私のような上の立場が真実かどうかも分からないことにまで、一々関わる方がおかしいのだ。


 ……しかし、これが本当だった場合は面倒だ。事前に察知できた可能性もあるのにと、さらに上から責められる可能性もある。


 ……あぁくそ、可能性ばかり考えていても仕方がない。……決めた。



「感謝する。これからも引き続き定時報告を頼む」


「かしこまりました」



 私は彼の監視を続行することに決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る