第48話~黙っていたこと~

 ふぅ、疲れた〜!


 風呂から上がった俺は床に寝転び、今日の出来事を思い出しながらそう自分の考えを締めくくった。



「あの、空君……こっちにきませんか?」


「お断りします!」



 いつも俺が使っている布団に入った琴香さんが、毛布からモグラのように顔と両指だけを出しながらお誘いしてくるが、自分を抑える余裕がないので遠慮しておく。



「ふっふっふっ、主人はいつも我と一緒に寝ておるぞ? 悔しかろう琴香〜!」



 しれっと琴香さんと同じ布団に潜っているエフィーが、ここぞとばかりに煽っていく。


 しかしエフィー、あえて言っておこう! 俺はお前のことを意識してないから一緒になれるだけで、琴香さんの方が意識してるから寝れないんだぞ? まぁ口には出さんけどな!



「もう〜、こんな時にだけマウント取ってくるエフィーちゃん可愛いです〜!」


「ひにぁっ!? やっ、抱きつくでなっ……ってそこは……やめ……ふわぁっ!?」



 エフィーにナニしてんの琴香さん……? 想像することも憚られるような声を出しているエフィーに、俺は顔を逸らした。


 ちなみにお風呂でなにがあったかは知らないが、一緒に入った琴香さんとエフィーは仲良くなっていた。


 エフィーが『あ、主人……琴香の見た目を信用するでないぞ……』と言い残していたが、なにがあった……? 



「すぅ……すぅ……」



 しばらくすると、琴香さんは眠りについた。状況的にテンションも昂っていたが、さすがに死んだり精霊になったりと色々あり過ぎて疲れていたのだろう。……さて、それじゃ決行するか。


 俺はそう考えて床から起き上がり、琴香さんが眠る布団へと近づいていく。おっと、勘違いするなよ? 琴香さんを襲ったりなんてしないぜ?



「……エフィー、起きてる?」


「む、なんじゃ……?」



 あ、エフィーでもないからな! 



「……話をしようか。今日の出来事について……」



 真剣な表情をして、エフィーに話を持ちかけた。



***



「それで……話とは一体なんじゃ?」



 エフィーはニヤリと妖艶な笑みを浮かべて尋ねてくる。



「お前も分かってんだろ?」


「……さて、なんのことじゃ?」



 俺もにこりと柔らかな笑顔で、目は一切笑わずに確認するように問いかける。しかしエフィーは少しの間を開けてとぼけることにしたようだ。



「なら俺から言おう。……エフィーには魔力を吸い取る能力があるよな?」


「その通りじゃ。琴香を精霊にする前に主人も思い出していたの」


「あぁ」



 これは肯定するのか……。いや、直前に話した内容だから俺が正確に覚えていると判断したんだろう。



「あれ、藤森に使ったよな?」


「…………」


「沈黙は肯定ととるよ?」


「……ふぅ、主人の言う通りじゃ」



 肯定したか。



「迷宮に入ってすぐ、エフィーは俺に確認を取ったよな? 自分を信じてくれ……って。あれは俺が使ってほしくないと言っていたことをすることを許して欲しい……そう言う意味なんだろ?」


「……主人は頭が良いの。正解じゃ」



 降参じゃ、と息を吐きながらエフィーが頷く。



「賢くねぇよ。そう考えるための布石はあった」



 藤森の魔法が弱かったのは魔力を残しておきたかったから……それももちろんあるだろう。しかし、いくらなんでも俺に近づかれて……死ぬ可能性もあるのに残しておくほど、あいつは馬鹿じゃない。



「それで……主人は怒りたいのかの?」



 エフィーが少しだけしょんぼりとした様子を見せる。



「んなわけねぇだろ? ……ありがとうって、お礼を言いたいだけだよ。……出会った時から、俺はエフィーに助けられてばっかりなんだぞ?」



 出会って最初に傷を治してもらい、契約して強くしてもらった。危険な時には知らせてくれるし、藤森に仕返しすることもできた。そして何より、琴香さんを生き返らせてくれた……。



「色々あったけど……エフィー、ありがとう。これかもよろしくなっ!」



 そうお礼を言いながら笑いかけた。



「……はっ! 当然じゃろ主人。主人は我と契約しておるじゃからな!」



 エフィーが歯を見せてにししっ、と笑い返した。



「……それじゃあお休みエフィー」


「主人もな! ……明日はハンバーグ……約束じゃぞ?」


「分かってるって」



 エフィーは布団に、俺は床に寝転がり目を閉じた。……意識が薄れていく。こうして、俺の長い1日が終わった。

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