第18話~傘~

 あれはそう、確か探索者組合で探索者登録をした日だった。僕は藤森さんのパーティに誘われたことが嬉しくて舞い上がっていたっけ? 消し去りたい過去だけど……。



***



 探索者組合の外に出ると、雨が降っていた。おのれ天気予報めっ! 何が快晴だこの野郎!



「……だかしかーし、ここにちゃ〜んと傘があるんだな、これが」



 僕はそう言いながらカバンに詰めておいた折り畳み傘を取り出す。



「ふえぇ、雨降ってます〜! どうしましょうか?」



 そう言って出てきたのは中学生ぐらいの女の子だ。ここにいると言うことは、おそらくだが発現者になって登録を済ませたばかりの子だろう。


 いや、それよりもさっきの独り言聞こえてなかったよな? あれは周りに人がいないのと雨の音があったからであって、聞かれてたら恥ずいんだけど?



「あ、すみません。どこまで行きますか?」



 何この子、いきなり話しかけてきたんだけど!? 最近の中学生のコミュ力すごい!?



「え、ちょっと向こうにある駅の方まで」


「あ……そう、ですか。反対方向ですね、残念です」



 彼女が悲しそうな顔をする。発現者になったばかりの子だ。その帰りに雨に濡れるなんて……。



「はい、これ使って」


「え? でも」


「僕はもう一本持ち歩いてるから大丈夫。安物だし使って」



 僕はそう言って取り出したばかりの折り畳み傘を差し出す。まぁ、もう一本はないんだけど……。


 でも、せっかくの記念日なんだ。彼女の思い出を雨なんかで汚したくない。僕は登録もできてパーティも組めたし、雨ぐらいならへっちゃらだ。


 それに……なんだか水葉に重なるんだよな。と言うか、前から年下の女の子全員が水葉に見えて仕方がない。あ、ロリコンじゃないぞ! 違うからな!



「えっと、それなら……あ、ありがとうございますっ! この御恩は決して忘れませんっ!」



 さすがに大袈裟すぎるでしょ!? その子はそう言って僕から傘を受け取り、その場を去っていった。



「さて、駅まで走るか」



 その日、僕は雨に濡れて帰ったが、不思議と気分は晴れやかだった。



***



「そう言えばそんな事もありましたね」


「やっぱり覚えてなかったんですね!? 私これでも結構あなたのこと、探してたんですよ?」



 え、まじで? ……そうだったんだ。あ、だから結構僕に話しかけたりしてたんだ。納得した。



「一応傘、保管してあるんです。今度また会った時にお渡ししたいんで、連絡先教えてください!」


「良いですよ」



 ……あれ、僕いつの間にか女の人の連絡先ゲットしてるんだけど!?



「あ、それではまた」


「はい」



 初芝さんはそう言ってまたどこかへと去っていった。



「主人は本当にモテるのじゃな。我も鼻が高いぞ?」


「エフィーうるさい。と言うかあれはお礼であって、モテてるわけじゃない。……そう言えば中学の時僕のこと好きだった人いたらしいじゃん。誰だったかまた教えてよ」



 まぁ翔馬の嘘かもしれないし、第一今更だろう。



「それはーー。っ!? 主人よ、強い魔力の反応がある。気をつけよ、死ぬぞ!」


「っ!?」



 エフィーの危機迫る勢いに、僕は反射的に短剣を手に待ち構える。



「皆さん、敵が来ます!」


「「「っ!?」」」



 僕は大声をあげて皆に知らせる。ほぼ全員がピクリと反応を見せ、辺りを警戒する。



「おいおい、F級が何を馬鹿なことを言ってごふっ!?」



 しかし、1人だけ警戒をしなかったE級探索者の男がそんな反応を見せていると、その首に何かが飛びつき、次の瞬間にはあたりに鮮血を散らして倒れていた。



「大牙狼だ! みんな気をつけて……嘘、だろ……?」



 広場の真ん中に陣取る大牙狼。それを囲み指示を出す北垣さんの口からそんな声が漏れた。それも仕方がない。僕たちの周りを牙狼が囲んでいたのだから……。

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