第19話~包囲網~

 クソっ、なるほど罠か!


 僕は内心で舌打ちをする。これが大牙狼の罠だったからだ。まず広場で僕らを油断させ、その後内と外から探索者たちを仕留めるつもりだろう。



「全員、お互いを援護できる位置まで固まれ! その後一点突破する!」



 北垣さんがそう指示を出す。内と外の両方を防ぐことは難しい。だから薄く弱い外を目指すつもりなんだろう。



「っ!? 初芝さん、伏せて!」



 先ほど倒されたE級探索者を回復させている初芝さんに、一匹の牙狼が襲いかかった。僕はとっさに短剣を投げつける。


 短剣は牙狼の前足から胸部にかけて突き刺さった。キャウンッ、と鳴き声を漏らしながら、倒れる牙狼。僕はそれを見ながらも、初芝さんの元に向けて走っていた。


 武器を持たない僕は今、一番格好の獲物だ! とにかく武器を取るためにも、初芝さんをまた守るためにも、数で僅かながらでも牽制を行うためにも、一刻も早くに駆けつけなければ!


 僕は初芝さんの元にたどり着くと、すぐに牙狼に刺さった短剣を抜き取り、初芝さんを守るように構えた。


 そして今、大牙狼は北垣さんとタンク系のE級探索者、それに強化系の探索者が強化して対処出来ている。でも、あまり時間を取れそうにないな。


 くそっ、今このパーティには魔法系がいないのが痛いな。周りにいる牙狼に放てばすぐに活路が開かれるはずなんだけど….…。



「初芝さん、動けますよね?」


「は、はい! F級探索者の篠崎さんよりは身体能力も高いはずです! そんな篠崎さんが頑張るんです! 私も頑張りますっ!」



 う〜ん、地味に傷つくけどまぁ良い! とりあえず近くにいる人と合流だ。僕はそう考えて、もう一つの塊であるE級探索者が3人集まっている所へと向かって走り出した。


 うん、ちゃんと初芝さんもついてくれてる。でも、牙狼も付いてきている!


 僕は追いつきそうだった1匹の牙狼を見つけると、わざと走る速度を落とす。


 そしてタイミングを見計らい、牙狼が一撃を加えようとした瞬間に力を入れて避ける。そしてすぐに振り返り、遠心力を利用した短剣でのカウンターを決めた。


 ちっ、殺せはしなかったか……。でも牙狼の体に大きな傷を合わせることには成功したし、ほぼ戦闘不能と言っても過言ではないだろう。


 急いで僕はその場を離れ、初芝さんの元に追いつく。



「えぇ!? 篠崎さん速くないですか!? F級なのに……」


「そうですか?」



 やっぱり、身体能力はおそらくD級まで上がっていると言うことだろう。だが、初芝さんでも違和感は覚えるのか……。


 これは、やっぱり他人に力を見せすぎるのは良くないな。この迷宮攻略が無事に終わったら、何か考えないと、いずれボロが出る。


 そんな事を考えていると、3人のE級探索者たちと合流を果たすことに成功した。



「誰か怪我してませんか?」



 初芝さんが尋ねると、2人が申し出た。初芝さんが急いで回復させるために近づく。



「北垣さん、全員揃いました! 突破しましょう!」


「了解した! 2人とも、少しだけ時間を稼いでくれ!」



 僕が合図をすると、北垣さんがタンク系探索者の後ろに隠れて大技を放つための溜めに入る。



「準備オッケーだ!」



 北垣さんの言葉にタンク系探索者の2人が道を開ける。それと同時に飛び出した北垣さんが大きく飛び上がり、大牙狼に斬りかかる。


 大牙狼もあの一撃を喰らっては堪らないのか、全速力で後ろに飛んだ。北垣さんの一撃は虚しくも、空を斬った。


 しかし、それで終わりではない。地面に叩きつけた勢いで剣先を大牙狼の方へと向け直し、そのままを突きの攻撃を放つ。


ギャイィンッ!!!


 大牙狼の鳴き声と同時に僕らは固まって走り出し、僕らを囲む牙狼の薄い部分から無事突破することに成功する。


 既に包囲する意味を失ったためか、牙狼たちは大牙狼の元へと駆け寄る。



「さぁ、もう一踏ん張りです! 一気に片付けましょう!」


「おお!」



 北垣さんの掛け声と共に、僕らは大牙狼たちへと向けて走り出した。この迷宮を無事攻略できるかは、この一戦に掛かっている。


 ……頑張るぞ!

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