第17話~順調な滑り出し~
「はぁっ!」
E級探索者の1人が牙狼の体を斬り裂き、この迷宮での初陣は勝利に終わった。死者は0人。怪我人は僕も含めて大半の人がそうだ。
怪我をしてないのは……北垣さん、それと初芝さんたちサポーターだけだな。それにさすがはD級探索者だ。
この前一瞬で狼のモンスターに咬み殺された松原さんもパワー系だったけど、それと遜色ない……いや、むしろ北垣さんの方が少しだけ強いと思う。
……多分、年季の差かな? 松原さんは二十代前半だったけど、北垣さんは30歳ほどで、実戦での場数が違う。
発現者は基本的に死ぬまで能力が衰えることはない。無論病気にもかかりにくい。と言っても、全くと言うわけではない。
それに魔法などの能力は衰えなくても、身体能力は低下する。老衰で亡くなった発現者もいたはずだ。
「篠崎さん、今すぐ《回復》しますね」
そんな事を考えていると、戦闘が終了し安全になった初芝さんが寄ってきて、牙狼に噛まれた腕の治療を始めた。
白色のキラキラとしたオーラが舞い散りながら、僕の腕にできた噛み跡によって失われた部分の肉が治っていく。
回復というよりも、まるで時間が元に戻っているかのようだ。
「それにしてもすごかったですねぇ。篠崎さん、F級探索者なのに牙狼を2匹も倒すなんて」
「あはは、運が良かっただけですよ。もしかしたら死んでいたかもしれませんし……」
実際油断していた。もしあれがもっと強いモンスターだったなら、初見殺しのような攻撃をしてくる敵だったなら……僕は死んでいたかもしれない。
確実に強くはなっているだろう。だが、E級迷宮で気を抜けるほど強くはない。……切り替えるぞ。
「はい、終わりました。他にも怪我したらいつでも言ってくださいね?」
「ありがとうございます初芝さん」
初芝さんにお礼を告げ、僕は気持ちを改めて作りなおした。
「エフィー、ありがとうな」
「ふふん、もっと褒めるがよいぞ主人」
それと僕の命を助けたと言っても過言ではないエフィーにも、小さいながらもお礼を告げた。エフィーも誇らしげな声で機嫌が良さそうだ。
「皆さん、ひとまずの危険は去ったようです。牙狼が出てくたところを見ると、おそらく迷宮主は大牙狼などでしょう」
北垣さんの言葉に僕を含めた大半が頷くなどの反応を見せる。初芝さんもそうだったが、目をパチパチさせているところを見ると、名前と姿が一致してないとかだろう。
「それでは進みましょう」
あらかた準備などを終えた所で、北垣さんからの指示に従い僕らは前進する。進行方向としては、ひとまず牙狼が向かってきた方向に進んでいた。
その後は順調だ。E級探索者が何回も負傷を繰り返すが、その度にサポーターの人たちがその傷を治していた。
あと僕も何匹か倒していた。油断せず警戒していたが、前のような奇襲は無かった。
エフィーが心配して『我も本気で索敵して事前に教えようか?』と言ってきたが断った。そこまでエフィーに頼れない。
さらに進んでいくと、芝生の生えた広場が広がっていた。
「ひとまずここら辺で休憩を挟みましょうか」
北垣さんの言葉に他の人たちも緊張を解き、座って休息し始める。
「篠崎さ〜ん」
初芝さんが僕の名前を伸びながら近づいてくる。なんでこの人こんなに僕に構うんだ?
「なんですか?」
「えへへ、実はあの時のお礼を言おうと思いまして。ほら、先ほど再会した時はちょっとそんなことを言い出せる雰囲気じゃなかったので、今更ですが……」
お礼? 再会? あれ、初対面のはずだけど……。
「……もしかして、覚えてませんか? ほら、探索者組合で一度会ってますよ? 思い出してみてください!」
と言われましても……。あ、そう言えば……。
僕は探索者組合に探索者登録をしに行ったこと時のことを思い出していった。
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