第11話~翔馬~

「ーーと、言うわけなんだ」


 僕はそれはもう必死に説明した。むしろ勢いが凄すぎて怪しく見えたかもしれないが知らん! エフィーは両親が新婚旅行の際、海外で親しくなった家族の子供。


 だがエフィーの両親は亡くなってしまい引き取り手もいないので、何故か知り合いだった両親のツテを頼ってここまで来たらしいと言うことにした。


 僕自身も混乱しているが放り出すわけにはいかない。あと詳しく事情も聞きたいけど、事情が事情なだけに聞きにくいからとりあえず泊めてる……と。


 口調とかはジャパニーズアニメが好きなお陰って言っておいた。よし、何も矛盾とか無いよな? 頭の中で考えながら喋ってたから色々やばい設定だけど……。



「なるほど。すごい漫画みたいな展開だが、現実は小説より奇なり、だな」



 翔馬がはえ〜っと感心したような顔で納得した様子だった。あれ? 納得しちゃってるよ。それならこのままで良いや!



「それはそうと、エフィーちゃんだったっけ?」


「むっ、我を愛称で呼んで良いのは主人だけじゃ!」



 翔馬が優しそうに話しかけるも、エフィーが僕の腕をギュッと引き寄せるように掴んで離さない。それどころか、頬をプクッと膨らませて反論までする始末だった。



「え、それはごめん。……空、この子の名前なんて言うの?」



 翔馬も戸惑いながら、僕に助けを求めてくる。おいぃぃぃっ!!! エフィーがそんなこと言うから仮名まで考えないといけないじゃないかっ! ……もうそのままエフィ……なんだっけ?



「ごめん、僕も知らない」



 うん、嘘はついてない。本当だぜ? 聞いたは聞いたけど覚えてないんだから仕方がない。

 


「我の名前はエフィタルシュタインじゃ! 主人には2回も伝えたではないか! 酷いのじゃ!」



 プルプルと震えて涙を流しそうな顔をしてそう言ってくる。ごめんエフィー、でも服を引っ張るのは伸びるからやめてくれ。



「……エフィタルしゅ……なんだとよ、空。お前だけ縮めて呼んで良いなんて良かったな」


「……うん」



 ほら、翔馬も一回じゃ覚えられて無いじゃん!? もう、どうにでもなれ! 



***



「おぉ! これがちゅうがくいちねんせーの時の主人か? 今よりも小さいの〜。可愛いのじゃ! 主人にもこんな時期があったんじゃな!」


「そりゃそうだろ……」



 僕はキッチンで翔馬から渡された食材で朝昼兼用ご飯を作っていた。エフィーは翔馬のカメラに保存された写真を眺めてそんな感想を呟く。


 見た目幼女に可愛いとか言われるのはなんか複雑な気持ちだ。あとちなみに翔馬の大学は今日休みらしい。だからこんな時間にも来れたのか。



「あ、こっちは中学生2年生の時の空。隣にいる子は空のことが好きだった人」


「ほほぅ、主人は意外とモテるのじゃな」


「ちょっと待って、それ初耳なんだけど!?」



 誰誰!? て言うかなんでそんな写真持ってるの!? 後で見せてもらうからな! まずはご飯だけどね!



「我は満足じゃ! 褒美としてエフィー様と呼ぶことを許すぞ」



 フフンと言いたげな顔で腕を組み、尊大な態度で翔馬にそんなことを言っていた。あんなんで偉そうだけど一応元精霊王なんだよ〜。



「ありがとうエフィーちゃん」


「ちゃん付けは許しておらんのじゃ! エフィー様と呼ぶが良い!」



 ……あれ? いつの間にあんな仲良くなったんだ? ……まぁ良いか。



「翔馬、できたぞ。あとエフィーの分も」



 僕はそう言って机に出来立ての料理を並べていく。味噌汁、肉巻き野菜やベーコンエッグと和洋折衷だ。ご飯は時間なかったからレンチンだけどね。



「おぉ、やっばり空の料理は美味そうだな」


「別にこれぐらい普通だよ」


「なぁ、主人よ」


 翔馬がいつも通り食事を褒めてくれる。軽く謙遜をする。本当にこれぐらいは普通なんだ。本気で取り組みさえすれば……。そういえば最後になんか今聞こえた? 空耳だよな?


「頂きますっ。……ん〜、やっぱ美味いって」


「主人〜?」



 翔馬が僕の作った肉巻き野菜などを口に入れていく。頬を抑えて美味しいと言ってくれる。まるで女子みたいな反応だな。でも、こいつは男だ。断言しよう。あとなんかおかしい。さっきから幻聴が聞こえる。



「む〜〜〜っ! 主人〜っ! 無視をするでない! なぜ我の方はラーメンなのじゃ!」



 エフィーが痺れを切らしたのか、目の前に置かれたラーメンと翔馬の前に置かれた料理を見比べて不満を述べる。


 あとエフィー、なんでお前はラーメンなのかって? 部屋から出てこないって言っておいたのに破ったからだけどなにか?



「空、意地悪してないでそっちに作ったエフィーちゃん用のやつ持ってきなよ。あとラーメンは自分用じゃん」


「え、本当かの? なら許すぞ」



 翔馬がエフィーに助け舟を出す。するとエフィーがパァッと顔を明るくする。僕はすぐにネタバラシをした翔馬に不満げな顔をしつつも、すぐにエフィー用の料理を改めて机に並べた。


 まぁ、これで勝手に出てきたことと、ヨダレの件はチャラにしよう。あと、ラーメンもちゃんと美味いからな?



「主人よ、最初から出しておれば良いのだ。良くやった翔馬よ」



 エフィーが全くしょうがないやつじゃの〜、みたいな顔でこちらを見てくる。うん、こいつの今日の夜ご飯は白米だけにしてやろう。



「ふふ、ありがとうエフィーちゃん。ところで本当に日本語上手なんだね」


「ふっ、我にかかれば言語取得ぐらい屁でもないわ。それはそうと主人」


「どうした?」


「主人のご飯は本当においしいのだ!」



 ……はっ、今日の夕飯は唐揚げでもするか。


***



 その後料理を食べ終わった翔馬は、午後からは予定があるそうで先程帰る用意を終わらせた。そのあと翔馬は僕に少しだけ話があるんだと言い、一緒に部屋の外から出る。


 ここは2階だから、柵や手すりで囲まれているので翔馬はそこに前のめりにもたれ掛かる。僕も同様にそうする。あと、エフィーは家の中で待ってもらっている。



「……なぁ空。お前エフィーちゃんのこと、自分と水葉ちゃんに重ねてるんだろ?」


「……バレてた?」



 翔馬の指摘が図星だったので、僕は簡単に肯定する。



「そりゃあ、エフィーちゃんの境遇と同じだからな。いやでも気づくよ」



 翔馬は一息つきながら、そう教えてくれた。……僕に両親はいない。5年前、ある迷宮崩壊が起こった際、両親は僕と妹の水葉を守って死んだ。妹も病気でベッドに寝たきりになっている。


 確かこの事件がきっかけで、僕は発現者に目覚めたんだ。中学を卒業し、平凡な高校に入学。そこを卒業すると同時に、探索者となった。


 水葉の病気には定期的に治療費が必要で、そのためには莫大なお金が掛かるのだ。だから僕は、一攫千金の可能性のある探索者を職に選んだ。


 ……あとエフィーの背景は、ほぼ僕自身の背景と変わらないのだ。なぜそうしたのか? 理屈で言えばその方が説明しやすいからだろう。でも、説明している時の僕はそんなことを考えてなかった。


 僕は、一人ぼっちで共に裏切られた過去を持つ自分とエフィーを、そして年齢的に近い見た目をしている水葉とエフィーを、同時に重ねてしまっていたんだ。



「……お前がその選択をしたんなら、最後まで頑張れよ……?」



 翔馬が真剣な表情で僕の方に手を置き、はっきりと目を見てそう告げた。やるからにはきちんと責任を取れと、そう言いたいのだ。



「うん」


「……そうか。なら大丈夫だな。僕もそろそろ帰るよ」



 僕の言葉を聞き、翔馬は満足そうな笑みを浮かべる。最後に言い残して去っていった。



***



 翔馬がどこかへと行ってしまってすぐ、僕は自分の部屋へと戻った。いや普通ならその行動は当然なんだけどね? 今はちょっと緊張してる。



「む、どうした主人よ」



 エフィーはゴロゴロと寝転び、まるで何年も住み着いている住人のようにして部屋にある漫画を読んでいた。……なんかエフィー見たら緊張とかどうでも良くなったわ!



「……エフィー、向こうじゃ出来なかったけど、今ここで契約内容について詳しく話し合おう」



 僕は覚悟を決めて、エフィーにそう告げた。

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