第10話〜お前えぇぇぇぇぇぇッッッ!?!?!?~

「ふぅ、着いた〜」



 僕は事情聴取も終わり、S級(仮)ゲートが現れた場所から自宅のアパートの2階へと帰ってきていた。家賃は五万円で1DK。


 ちなみに服は替えのに着替えてある。服に付いた血を見られると騒ぎになる可能性もあるからな。


 探索者の存在が認知された今は探索者としての身分を示す証明書を見せれば基本的に大丈夫だが、普通探索者は常に替えの着替えを準備してあるのだ。



「エフィー、もう出てきて良いよ……って、寝てるし」



 迷宮から出てからずっと胸ポケットに入っていたエフィーは、遊び疲れてしまった子供のように涎を垂らして寝ていた。


 僕はそっと、優し〜くエフィーを水を掬うように両手で持ち、枕元の横に寝かせる。……そういえばこいつ、まだシャワーも浴びてないし風呂も入ってない!?


 ……まぁ、今回だけは許してやるか。でも、明日からは風呂に入ってからじゃないと布団にあげないからな!


 ……それにしても、本当にお人形みたいだ。僕の寝返りで潰れないように願っておこう。僕はその後シャワーを浴びて乾いた血を落とす。


 裸になってみて体を見渡す。……ふむ、怪我の跡もないし、なんなら筋肉が少し付いてる? 契約の効果か?


 ちなみにD級探索者以上の人は服の汚れを無料で落としてくれる組合の機関がある。またシャワーも無料だが、今の僕には縁のない話だ。


 その後、僕は軽くレトルトの食事を取り、そのまま睡魔に襲われて寝た。この時にちゃんとエフィーを踏んでないことは確認済みだ。起きて潰れてたらごめんな。



***



「う、ん?」



 ゆっくりと徐々に意識が覚醒していく。体と腕が重たい……やはり昨日の出来事が疲れていたのだろうな……いや、違う!



「……っ!」


 急いで目を覚まし前を見る。そこには妖精サイズではなく、幼女サイズになったエフィーがいた。しかも、僕の上に乗り掛かるように。


 こいつ! 昨日お前を潰さないように考えていた僕が馬鹿みたいじゃないか! しかも足を腹の上に、頭はちゃっかり僕の腕枕に乗せてぐっすり寝てやがる。


 あぁぁぁっ!? しかもよだれも僕のパジャマに付けてやがるぞこいつっ!


 深呼吸で怒りを抑え、ふと時計を見ると11時だった。思ったりよりも結構寝てたらしい。発現者は体の作りが強くなるから、必要な睡眠も短くなるけど、これほど眠っていたのは久しぶりだ。


 やはりエフィーと契約を結んだからだろうか? それとも怪我を治してもらったからか? もしくは両方……いや、そんなことはどうでも良いか。とりあえず朝……いや、今は昼か? うん、朝昼兼用ご飯でも作るか。


 ピンポーン。


 突如、玄関のピンポンを押す音が聞こえる。誰か来たらしい。宅配便は何も頼んで無いし多分違う。でも僕、友達いないし来るやついない。……じゃあ誰だっ!?



「空、いないのか?」


「あ、いるいる翔馬しょうま



 僕の家に訪ねてきたのは同い年の翔馬だった。翔馬は中学高校までは一緒だったんだが、あいつは大学に進み、僕は大学に行かず探索者となった。


 それでもたまに訪ねてきては僕の心配をしてくれたりする、唯一の親友だ。あと親が金持ちだから、探索者としての稼ぎも少ない僕に差し入れを持ってきてくれる。



「とりあえず差し入れ持ってきたから中入れてくれ」


「あぁ分かっ……すまん! ちょっと1分だけ待ってて!」



 翔馬がこの部屋に入る。つまりエフィーを見られる。エフィーは見た目外国人。翔馬に色々聞かれる。答えられる自信はない。僕が怪しまれる。犯罪臭がするので警察に通報される。僕、逮捕される。人生詰む……よし、徹底的に隠し切るぞっ!!!!!



「おい、エフィー起きろ。頼むからまた小さくなってくれ」


「むにゃむにゃ〜」



 僕がエフィーの肩を掴み揺らすが起きる様子はない……ていっ。僕はエフィーにデコピンを食らわす。時間がないんだ許してくれ。



「うぅっ……い、痛いのじゃ主人」



 エフィーがおでこを押さえて起き上がる。よし目が覚めたな。



「エフィー、悪いけど知り合いが来てるんだっ。決して見つからないように小さくなって隠れてくれ」


「……空よ、飯はまだなのか?」


「話聞いてた!?」



 こいつまだ寝ぼけてんのか? もう一回食らわして……。


 僕がデコピンの真似をすると、エフィーはすぐに小さくなって部屋の奥に隠れた。その後、布団を片付けたりしてなんとか金持ちの翔馬が入れるような形にはなる。



「わ、悪い翔馬。入ってくれ」



 扉を開けてそう告げる。翔馬は両手に食材を持ちながら待っていてくれたようだ。て言うかその格好、どう見ても近所の買い物帰りのおばちゃんぽいな……。



「おう、また血の付いた服でも隠してたんだろ?」


「あははは、まぁね」



 翔馬は歯を見せて笑いながらしょうがなさそうに尋ねてくる。僕は笑って誤魔化した。前回血のついた服を見られた時には誤解を解くのに結構時間がかかったんだよな……。



「その手どうした?」


「あ、これ? ……タトゥー入れてみた。発現者だから彫った傷も自然と消えるらしいし、期間限定だけどね」



 翔馬が部屋に入ってすぐ、僕とエフィーの契約した際にできた紋について尋ねてきた。やはり目立つか……今度から手袋でもしよう。




「それより、前来たのって確か1週間前だよね? いつもは2週間ペースだったのに、何かあったの?」


「当たり前だろ! お前S級迷宮から帰還したらしいじゃん」


「え、なんで知ってるの?」



 僕は別に話してないんだけど……。知り合いに見られてた? いや、流石にそんなすごい確率は無いだろう……。じゃあなんで? 大本さんもできる限り規制するって言ってたのに……。



「ほら、このネットニュースでちょっと話題になってた。名前と顔は伏せてあったけど、これ空だろ?」


「うわ、僕だ……」



 そこにはS級迷宮からF級探索者帰還すると言う見出しの記事があった。大本さんは出来る限り情報統制するって言ってたけど、野次馬全員の口を封じることはできなかったらしい。


 ちなみに顔はモザイク。目だけ黒塗りの棒で隠してある。まるで犯罪者のようだ。後から調べてみたら3分ぐらいで消された記事のだった。


 ……え? 翔馬、この記事は偶然見つけたんだよね? 日々僕を探してたとかじゃないよね?



「んで、一応様子見に来たわけよ。写真でも血が付いてるし。入院してるかもしれないけど、一応先にこっちに来たんだ。いるとは思わなかったけど。怪我ないの?」


「うん。使い切りのアイテムで無事完治してる」



 すっと肩の部分を見せる。ちゃんと傷がないことは昨日確認したから大丈夫!



「おぉ、そりゃ良かったな。あとこれ差し入れ」


「あ、いつもサンキュー」



 そう言って翔馬から貰ったのは日持ちの良いレトルト食品などが大半だが、残りは肉や野菜などの食材だ。翔馬は毎回、僕に料理をリクエストしてくる。レトルトはそのお礼だそうだ。



「今日も頼む」


「おぉ、任せーー」


「ご飯〜〜〜っ!!!」



 そう叫びながら部屋から飛び出して少女姿になり、涎を垂らしたエフィーが乱入してきた。お前えぇぇぇぇぇぇッッッ!?!?!?



「おぉ! 主人、主人よ! これで我のご飯を作るのだな?」


「エフィー、隠れてろって言っただろ! あと、これは翔馬の分!」



 この馬鹿! ご飯欲しさに飛び出してきやがった!? お前なんてインスタントラーメンでも食ってろ!



「そ、空、その子は一体……?」



 翔馬がエフィーの存在に動揺して僕に尋ねてくる。そうだ、それより翔馬をどうするっ? 説明できる余裕はあるけど、設定はまだぐちゃぐちゃで固まってないし……あぁもう行くしかない!



「じ、実はーー」



 僕は高校受験よりも緊張しながら翔馬に説明を始めた。

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