第9話~事情聴取~

 大本さんに誘導される形で取調室? みたいな部屋に入ると、そこには回復系の発現者と思わしき人がいた。


 彼も僕とは違い探索者にはならず、大本さんと同じように組合に属した職員の人だ。探索者組合は探索者たちをまとめる民間組織。


 そこで探索者組合に正式に所属して働いている人たちは、あくまで探索者組合の職員であって、探索者として働いているわけではない。


 藤森との関係も終わった僕は、多分だが探索者組合所属の探索者として生きていくだろう。大本さんたちとは所属する組織が一緒であっても、立場が違う……そんな感じだ。



「あれ? 大本さん、その人怪我をしてませんよ?」


「何?」


「あはは……」



 さすがは回復系の発現者。一目見て既に治っている傷であることを直感で理解したのだろうか? 大本さんは「じゃあその血はなんなんだよ!?」みたいな目で見てくる。


 回復系発現者の人は、自分が呼ばれた要件に己が必要ないとすぐに悟り、大本さんに挨拶、俺に顔を背けてどこかへと行ってしまった。……彼も、日本じゃ数少ないA級発現者なんだよな〜。


 その後、僕は大本さんに促される形で席に着く。向かい合わせなんだが、大本さんの顔が怖くてまともに顔を合わせられない。



「……お怪我がないようで何よりです」


「どうも」



 大本さんはそんな言葉を言ってくるが、顔は全くそんなことを思っているような状態ではない。と言うかさっきからずっと鋭い目を向けてくる。


 ……いや、もしかして。……これが、この人のデフォルトなのかもしれない。なら顔が怖いですとか言ったら失礼だな。やめておこう。



「では、迷宮に入った時の事から教えてもらえますか?」


「分かりました。……あの、藤森……さんはどう言ってました?」



 大本さんに質問をされて答えようとするが、僕はそこで大事なことに気づく。藤森と異なる事実を述べた場合、藤森が何をするか分からない。


 探索者は貴重だから、殺人未遂とかじゃすぐに出てくる可能性がある。その後に妹を狙われでもしたらたまらない。話を合わせるためにも、聞いておかねば……。


 それに本当はさん付けするのも嫌だけど、不審に思われたくない。人前では藤森にさん付けもしなければ……。



「彼、ですか? 詳しくは知りませんが確か……いきなりA級モンスターに襲われ、D級探索者の松原さんがやられ、その後2人で逃げたがあなたは逃げ遅れてしまった。彼はその後このことを伝えるために逃げることを選択した……ですね。ここまで合ってます?」



 大本さんは僕が一々同じことを説明するのが面倒くさく、藤森の証言と合っていれば軽く肯定をするだけにしてしまおう、そんなことを考えていると誤解している顔だった。


 まぁ、それもあるがひとまず口裏を合わせなければならないからな。情報は必須だ。とりあえず僕を囮にしたのではなく、逃げきれなかったと変更したようだな。



「合ってます」



 ひとまず肯定しておく。さぁ、ここから不自然にならないように答えなければ……。



「僕からはその後についてですね。まず、僕はーー」



 僕はそう話を切り出した。だがエフィーの事を伝える気は一切無いので、真実の中からエフィーの存在だけを取り除き、不自然にならないように整合性を取らなければいけない。


 結果、こうなった。簡単に説明すると、モンスターに追いかけられ怪我を負ったが、偶然転移魔法陣の罠を踏み逃げることができた。


 その後迷宮主の部屋にたどり着き、あたりを探すがどこにも迷宮主はおらず、仕方がなく宝箱を取ると回復するアイテムがあったので使った。


 そうすると迷宮が消える前兆が現れたので、僕は急いで奥にあった魔石を掘り出して後にした。運良くモンスターにも出会わず、奇跡的にここにいる……と。



「……なるほど、それは本当に大変運が良かったですね」



 大本さんはそう笑いながら言う。だが、その瞳は笑っていなかった。どう考えてもそんな偶然あるのか? みたいな疑いの目だった。


 そう思うのも当然だ。僕が聞いても「?」となるし、他の探索者たちに聞いても嘘だと思われるだろう。だが僕がこうして証言をし、結果に不自然な点はない。


 向こうとしても突っ込みづらいだろう。まぁ、実際はエフィー関連でそれ以上に偶然が重なっているが、必要がないので黙っておこう。


 その後、簡単な質疑応答があったが全て自然に答えられたと思う。



「事情聴取は以上で終わりです。篠崎さんが採掘してきた魔石についてですが、一度こちらで預からせてもらいます。所有権は採掘者である篠崎さんが7割、我々組合が3割となりますので、ご了承ください」



 大本さんが魔石の換金などの扱いについて軽く説明をする。僕が掘ってきた魔石についてだが、現代ではとっても使用用途が多い。


 探索者自身で魔道具に使用するための乾電池みたいに使うこともある。またそれは国も同様だ。現在は石炭石油などの化石燃料の代わりとなるかもと研究が進められている。


 あと魔石の換金取り分については組合の貴重な収入源ともなっている。他の収入は探索者としての初回、年間登録料とかだが、微々たるものなんだよね。



「分かりました。これら全てを換金した場合、いつ頃に入金されますかね?」


「……専門家では無いので詳しくは。ですが残念ですが、即日入金は絶対に不可能かと。査定に時間が掛かりそうですので……」


「いえ、ありがとうございます」



 なるほど、でも簡単に値段が出せるような代物では無いと言うことだな。つまり莫大なお金が期待できる! むしろそっちの方がありがたいわ!



「ご協力ありがとうございました。後日謝礼金と魔石の鑑定金額は口座に振り込まれます。気をつけて帰ってくださいね」


「はい。こちらこそありがとうございました」



 僕は大本さんにお礼を告げてその場を後にした。家に帰ろう!



***



 私は先ほど迷宮から無事帰還し、事情聴取などを終えた篠崎さんを見送り、自分の秘書のうち1人を呼び出す。



「お呼びでしょうか、大本近畿支部長」



 呼び出された秘書の1人が私の役職を呼びながら用件を尋ねる。



「……1人、先ほど話していた篠崎空という人ですが、何か臭います。……今後の活動を監視するようにしてください」


「かしこまりました」



 秘書は私の発言にピクリと眉を動かし、しかしそれだけで全てを理解したように一言だけ残して部屋から退出した。


 ……ふぅ、あの青年は何かある。私の勘がそう告げている。なにか特別な魔道具か何かを拾ったのだろうか?


 何しろS級迷宮だ。致命傷を回復するアイテムは稀にだがB級迷宮でも取れるが、S級迷宮は格が違う。……警戒を怠らないようにしないと。


 私はそう心に決めた。

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