第8話~屈辱2~

 ゲートを潜り抜ける。この際には変な感じがするんだが、一瞬だけ水に浸かるような感覚があるのだ。迷宮から戻ってきて周りを見渡す。目の前には高等級の探索者と思わしき人たちがいた。


 それと警察がゲートを囲み、その周りに野次馬たちも少しばかりいる。藤森が探索者組合に連絡したんだろう。僕が死んじゃうかも〜って、泣きながら演技をしたんだろうな。



「見ろ、人が出てきたぞ!」



 野次馬の1人が僕を見て叫ぶ。この場にいる全ての人間の注目が集まってしまう。僕がこの状況をどう切り抜けようか考えて固まっていると、高そうなスーツを着た1人の男の人がこちらに近づいてきた。


 180センチを超える長身。それに細身の体型でこの凄まじい圧。間違いなく、A級スピード系の発現者だ。



「もしかして、君は篠崎空さんで間違い無いかな? 私は探索者組合の近畿支部から来た大本おおもとです。お怪我をなさっている所悪いのですが、中で何があったか、詳しく聞かせてもらいたいんです。傷はもちろんついて来てくださればすぐに無料で治療いたしますので」



 大本さんがまるで殺気のような圧力で僕にそうお願いをしてくる。いや、どう考えても脅しに近いんですけどね……。


 探索者組合。発現者となり、その中でも迷宮を攻略する探索者たちをまとめる、国が定めた正式な組織だ。


 日本で発生するゲートを管理しており、地方、その中の都道府県ごとに支部が存在している。ゲートに入るためには、独立した民間の組合と言えども彼らに申請をして許可を得なければならない。


 理由としては一般人が興味本位で入ることを禁止する、不当に迷宮内で利益を得ることを禁止とするためなどがある。


 そして、当然身の丈に合わないゲートに入ろうとすれば申請は却下される。発現者、そして探索者の人数は少ないので貴重なのだ。



「もちろんです。それと今すぐ聞いてほしーー」


「篠崎さんっ! 無事だったんだ、良かったよ!」



 僕が藤森のことを大本さんに急いで告げようとした時、向こうからすごい勢いで僕に飛びつき、そのまま地面に押し倒してまで心配の声をかける男がいた。藤森だった。



「おい、もし喋ってみろ。この場の人も含めて出来る限り全てを燃やし尽くしてやる」



 藤森は僕の耳元に口元を近づけ、小さな声で僕にそんな脅しをかけてくる。もし喋られたら、藤森は犯罪者として捕まるからな。


 その脅しはおそらく嘘だろう……そう思いたい。わざわざ罪を重ねるなんて普通はしないだろう。でも、もし本当だったら……。


 僕の脳裏に藤森が暴れて、目の前の大本さんたちが止めに入るも、流れ弾が野次馬にでも当たったら……くそっ、僕にもっと力があれば……っ!



「藤森さん、篠崎さんが怪我をなさっていることぐらい分かるでしょう! 今すぐ離れてください」


「すみません、嬉しくてつい……」



 大本さんは僕の肩と脚の血を見て、僕が何かしらすごい怪我をしていると判断したんだろう。


 何も事情を知らない人からすれば、仲間が帰ってきた嬉しさのあまり、飛びついてしまっただけの人だ。大本さんもそう考えているのか、藤森を軽く注意する。


 注意をされた藤森の方も僕から離れてすぐに立ち上がり、僕に手を伸ばす。僕は嫌々ながらもその手を取って起き上がる。


 藤森はその後、さきほど飛び出してきた事情聴取の部屋へと戻っていった。絶対に途中だったけど無理を言って抜け出してきたのか。


 ちなみに部屋に帰る際、僕の方を怖い目つきで睨みつけるようにこちらを眺めていた。



「なんじゃ先ほどの雑魚は? 我の主人に向かって良い度胸じゃな。ぶち殺そうかの?」


「だめだ」



 内ポケットに入っているエフィーが藤森が離れると同時に小声で愚痴りだす。エフィーもさっきの藤森の態度が気に入らないようだった。と言うかC級探索者の藤森を雑魚扱いって……。


 それと僕はエフィーの愚痴に小声で呟き返した。ここであいつを殺せる保証はない。エフィーがS級迷宮の迷宮主だとしてもだ。それに、さすがに殺すのは嫌だ……なんて考えを持ってしまっているからだ。



「篠崎さん、お怪我は大丈夫でしょうか?」


「あ、はい……」


「……お辛かったでしょう。まさか巧妙に偽装されたS級迷宮だったとは、我々の測定ミスのせいで……」



 大本さんが僕に頭を下げる。組合にはA級迷宮以上から取れる魔石を使い、ゲートから発せられる魔力を測り等級を決めることのできる魔道具があるのだ。


 今回も同様に測っていたようだが、魔石が故障したのか魔力が強すぎてバグってしまったのか、今回のような事がたまにある。本当にたまにだぞ?



「いえ、僕は見ての通り元気ですので!」



 僕は声高に、明るく振る舞って大本さんにそう告げる。



「本当に……そう、ですね。ではその血は一体……?」


大本さんは不思議そうな顔で僕を見てくる。



「あ、これはーー」


「お、おい! ゲートが消えるぞ!?」



 僕が服に付着した血について詳しく説明しようとすると、野次馬の声でちょうどタイミング良くゲートが消えていくことが判明した。僕、あと少しでもいたらやばかったんだ……。



「……えっと……」


「篠崎さん、大変お詳しい説明を期待していますよ」


「は、はい……」



 大本さんはギラリと鋭い目つきで僕を見つめながら、事情聴取などをする部屋に案内した。

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