第7話~脱出~

「うぅ、主人よ許しておくれ〜」



 エフィーはシクシクと涙を流しながら魔石を掘り出していく。と言ってもカバン同様すぐにドシドシと出てくるので、僕はカバンに詰めているだけだけど。


 先ほど僕はエフィーが魔石を自動的に掘り出せる事を知った。つまり僕が時間をかけて掘ってきたことが無駄だったのだ。エフィーには悪いが、気持ち的に納得いかない……。



「……別に怒ってないんだけど?」



 それとは別に、本当にエフィーに対して怒ってないよ? ただエフィーをポンコツみたいに考えておきながら、自分も十分そうだったと自覚させられたのがなんか悔しいだけだ。



「よし、これで最後っと」



 僕はエフィーの掘り出した魔石を全てカバンに詰め込む事を完了する。多すぎて入らない分は、価値の低い物を捨ててスペースをできる限り増やした。



「主人主人! その、褒めて欲しいのじゃが……? やはりだめかの? 我がポンコツなのは結構他の奴にも言われていたが、主人だとこう、心に来るものが……」



 エフィーが人差し指をクニクニとさせ、落ち込みしょんぼりしながら上目遣いで見てくる。……なんだこの可愛い生き物は? お金ちょうだいっ、ておねだりされたら財布ごと渡してしまいそうな破壊力だ。



「だから怒ってないって」


「ほ、本当か? 本当なのじゃな?」



 パーっと顔を綻ばせるエフィーを見ていると、僕はふと妹を思い出した。未だにとある病気で目を覚さない、水葉のことを……。



「当たり前だろっ?」


「ふあぁっ……」



 エフィーに笑顔を向けながら頭を撫でる。……今更だけどエフィーの髪、めっちゃサラサラしてる。これで何百年も手入れしてなかったのか。精霊ってすげぇな。



「そうだ、一つエフィーに聞きたい方があるんだ。僕の世界のことって分かる?」



 こっちで常識知らずな事をしてしまい下手に目立ってしまうのは危険だからな。ただでさえ、エフィーは可愛いから目立ちそうなんだ。こう言った打ち合わせは必要だろう。



「分かるぞ! 人が繁栄しているのだろう? それがどうかしたのか?」



 うん、ほぼ最低限すぎる回答だ。教えるのも良いが、時間も残り少ないし一気に詰め込みすぎるのも良くない。家に帰るまでに必要な情報だけ教えることにしよう。



「他の人にエフィーの正体がバレるとまずいからね。エフィーは……知り合いの子供ってことにしよう。そして僕が預かってる。良い?」


「むぅ、主人の建前とはいえ、我を子供扱いとは……」



 僕の提案に、エフィーは若干納得のいかないような顔をする。でもその姿だとそうとしか言えないんだからしょうがないだろ。



「う〜ん、大人だと恋人って説明しかできなくなるんだよな〜」


「こいびと? つがいのことじゃな! 我は別に構わんが、すまぬがそれは出来ぬ」


「どうしてだ? あ、別に恋人設定にしたいから聞いてる訳じゃないからな?」



 今は見た目幼女だけど、確か最初見たときにみたいに大人の姿にもなれたよな? なんで今は幼女姿にしてるんだ?



「長い事封印されておったのでな。力が戻りきっておらぬのじゃ。体が大きい分、魔力の消費も激しい。維持するのは今はこのサイズが限度じゃ」



 なるほど。エフィーの体は魔力で出来ているのか? 詳しくは知らないがそう言うことなんだろう。



「で、その魔力自体はどこから来てるの?」



 幼女姿にしか維持できていないってことは、今のエフィーは魔力を出していない状態だ。それでも魔力も当然減っていくだろう。


 それなら供給はどこからされてるんだ? まさか本当はずっと無理してて、今にも魔力が欲しい……とかじゃないよな? そうならクソ少ないけど俺のやるぞ?



「今、我は仮にも迷宮主じゃからの。最低限、何もしなければ維持できる程度の魔力は自動供給されておるのじゃ!」



 それは良かった。魔力供給もされるとか、迷宮主って結構便利だね。通りで他の迷宮主たちも強いわけだ。



「それじゃあゲートから出たら?」


「うむ、定期的に魔法石が欲しいのじゃ!」



 エフィーが魔法石を所望する。なるほど、魔法石には魔力がこもっている。それを利用するわけか。


 ちなみに魔石は迷宮に自然と生える、魔力のこもった石。魔法石はモンスターから取れる、魔力のこもった石だ。


 何故エフィーが魔法石限定にしたのかは謎だ。……多分、モンスターから取れる事が食事に近いのかもしれない。



「分かったよ、これも契約の対価だね?」


「その通りじゃな!」



 やはりか。契約するのに必要な代償は最低限だと言っていたが、これのことだろう。他にもあるかもしれないが。


 それはそうと、家に戻ったらちゃんと契約の報酬と対価についてしっかりと聞かないとな。



「じゃあエフィー、手のひらサイズまで小さくなって、僕の中に着てる服の内ポケットに隠れておいて」


「了解じゃ……おおっ、あったかいのじゃ!」



 手のひらサイズの人形、いや妖精と表現する方が正しいな。それになったエフィーが胸ポケットに入ってそんな感想を述べる。よし、これで外に出てもエフィーの存在がバレにくい。


 そして魔石でパンパンに詰まったカバンを持ち、僕達は迷宮を出る準備が完了した。おう、結構重たいわ……。



「それじゃ、ゲートの入り口まで転移で」


「任せるのじゃ!」



 今までカバンが現れた時同様、魔法陣が現れ僕とエフィーを包み込む。そして瞬きをする間もない一瞬で、僕はゲートの入り口にいた。


 最初に使った時には無我夢中だったから分からなかったけど、転移魔法陣を使う時って軽く引っ張られるような感覚がある。変な感覚だ。


 それよりも帰ろう、僕の家へ。……あと、藤森の奴は絶対に許さない! いずれ俺を陥れたことを謝らせてやる。


 僕たちはそう考えながらゲートを通り、迷宮から脱出した。それは迷宮が消えるまで、残り1分の時だった。

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