第6話~魔石採掘~
僕はエフィーに手を引かれる形でゲート内を歩き、元の世界へと繋がるゲートの入り口に戻っている最中だった。
でも何も手に入れずに戻るのもあれかと思い、ここに来るまでの途中で見つけたS級迷宮の魔石群を採掘しようとしていた。しかし……。
「採掘道具が、ないっ!」
そう、解体や採掘に必要な道具は全て、転移魔法陣の罠の所に置いてきてしまったのだ。荷物持って逃げるなんて愚行を犯すわけにはいかんからな。
まぁ結局はあのモンスターに遊ばれ、転移魔法陣を踏む所で追いつかれるんだから、転移魔法陣がなければ結果は同じだっただろう。
転移魔法陣に感謝を捧げた方が良いのかな? ……いや、あれ死人も出るらしいしやめておこう。
それよりもやっぱり採掘道具は欲しいなぁ。でもあそこには推定A級の狼のモンスターがいるだろう。行ったら確実に殺される。と言うかそれ以前に……。
「魔石を取る取らない以前に……道が分からないんだけど……」
だってしょうがないじゃん。転移してすぐ最下層まで来てるんだから。ここに来るまでの道順なんて分かるはずがない。魔石で気を紛らわしていたが、そっちの方が重要だ。
やばいやばい! 魔石は勿体無いけど仕方がない! でも、一時間以内に迷宮を抜けられないのはやばすぎる!
僕が焦っているのにはちゃんとした理由がある。ゲートは消えると、中に入っていた人たちは出られなくなる。これは初めて攻略できたゲートに突入した自衛隊の人たちが、誰1人帰ってくることもなくゲートが消滅したからだ。
以降、攻略後に留まれる時間は一時間と言う制約ができた。ちなみにゲートが消滅する時間はゲートごとに差異があるが、最短でも1時間ちょっと。つまりは安全を期するための制約だ。
あと、消えた自衛隊員の人たちがどこかに行ったかは依然として誰も分からない。
つまりこのままだと、せっかく生き延びたのに死ぬ可能性がぐっと高くなってしまう! どうする? ……そうだ!
「エフィー、ここの迷宮の出口までの道のりって分かる?」
一応この迷宮の迷宮主だったエフィーに、一途の希望を託してキラキラとした眼差しで見つめる。て言うかエフィーが分からなかったら僕たちは仲良くおしまい。一蓮托生だぜ、相棒?
「ふっふっふっ、空よ。我を誰と心得る? 元精霊王じゃぞ? そんな物分かるに決まって……決まって……おる、じゃろう……?」
「お前絶対わかんねぇんだろ!?」
「し、仕方なかろう! ここを通ったのは何百年も前じゃぞ!? 我とて忘れたりするわ!」
エフィーが涙を出しながら反論してくる。神は死んだ。僕の命はここまでだ。……短い人生だったなぁ。
「……お前、仮にも迷宮主なんだろ!? 主が迷宮の構造把握してないってどう言う事だよ!?」
「我に言われても困る! それに本当にわからんの……じゃ……ぞ?」
「おい、今の反応なんだ?」
変な期待させる反応しやがって。これで何でもなかったら……何でもなかったらなにしよう? ……よし、こちょこちょの刑にしよう。
「……わ、分かるようになった」
「エフィーマジ愛してる!」
僕はそう言ってエフィーの脇下に手を伸ばし、クルクルと回りながら高い高いをした。お、結構軽いな。精霊って体を自由自在に変えたりしてたし、もしかして魔力とかで構成してるのか? なら納得。
……それよりもこれ、街中でやったら確実に事案だな。だって今のエフィー、可愛いし銀髪幼女だし……。
「はっはっはーっ! 我は元精霊王にして、迷宮主ぞ? この迷宮に訴えかければ何でもできるわ!」
エフィーは高笑いを続けて僕に告げてきた。こいつはあんまそこらへん意識してなさそうだから助かるわ。それよりもすげぇ、迷宮内の事なら何でもできるんだ……待て待て、迷宮主だから何でも……?
「エフィー、僕の置いてきたカバン取り寄せられる?」
「任せよ!」
僕の頼みを聞き、エフィーが指を少し離れた地面に指して一声。すると僕の目の前に狼のモンスターの近くに置いてきてしまった、採掘道具や食料など色々入ったカバンが現れる。
す、すごい! 僕の普通じゃできない要望に、エフィーはいとも簡単に応えることが出来るんだ! さすが元精霊王の名は伊達じゃねぇな!
「それなら……エフィー、もしかして迷宮の入り口まで転移とかできる?」
カバンを取り寄せられたんだから、人が移動できる可能性も……どうだ? て言うかもし出来るなら、さっき分かった道順とかも意味無くなるけど些細な問題だよなっ?
「あ、主人、天才か……?」
よしっ、できるらしい! 時間を気にせず、いつでも迷宮を出ることが出来る。つまり……魔石の採掘し放題だぁぁぁっ!!!
「エフィー、迷宮が消える10分前になったら教えてくれ」
「任されよ!」
僕はアレ◯サに言う感じでそう言って、カバンに入っていた採掘道具で次々と魔石を掘り出していく。はっはっはっー! これで僕も大金持ちだ! これで……
僕はそう考えながら、一心不乱に魔石を掘り続ける。いやマジでエフィーと契約してよかったぜ!
「……あれ?」
僕は必死に魔石を採掘していると、ある違和感に気づく。……全然疲れない。腰や腕も痛くならないし、肝心の採掘速度も前より断然速くなっている。
「エフィー」
「なんじゃ?」
僕が掘り出していく魔石をまるで宝石でも見るかのように目をキラキラと輝かして感嘆していたエフィーが、何でもなかったかのように返事をする。
あ、こっそりポケットに入れた欠片については不問にしてあげるよ。
「エフィーと契約したら、身体能力って上がるの?」
この身体能力の向上の理由なんて、そのこと以外考え付かない。そしてもしその通りなら……これは凄すぎる事だ。
普通、僕たち発現者は発現が起こった時点で等級が決まる。つまり基本的に変更はしない。それでも己の力をうまく使いこなしたり、使い方や技術が上がる事でワンランク上がることが稀にあるくらいだ。
だが、エフィーとの契約はそれを無視している。なんせエフィーとの契約で得た力は、まだ10分の1と聞いている。つまり僕はあと9回、身体能力が上がる可能性があるのだ!
「上がるぞ」
僕の予想通りの回答だ。
「……エフィー、ありがとうな!」
僕は笑顔でエフィーにお礼を告げる。これ以降も強くなれるってことは、水葉を救う手助けになるってことだからな……。
「な、なんじゃいきなりっ? 空は我の主人じゃぞ? 我が力を授けるのは当然のことじゃ」
エフィーは照れるような仕草をして顔を赤くしていたが、それを僕に見せないように後ろを向いた。まぁ、白銀の髪から覗く耳まで真っ赤だったから意味ないけどね……可愛い!
「……所でエフィー」
「何じゃ主人よっ」
僕は一つ、気になったことを尋ねたかった。エフィーは顔の熱もおさまってきたのか、クルリと僕の方を向いて問いかけ返してくる。
その言葉は先程のことで機嫌が良いのか、声からも浮かれている感じがハッキリとわかった。だが、今はそれよりも重要なことを聞きたかった。
「……もしかして、ここにある魔石を直接掘り出すことって出来る……?」
「〜〜〜〜っ!?」
うん、分かったエフィー。君のその驚き顔と声にならない悲鳴だけで、全てが理解できた。僕の魔石を掘る努力はほとんど無駄だったと言うことが……!
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