第12話~契約について~

「ふ、ふむ、そそ、そう言えば主人には話しておらんかったの! よかろう、何が知りたいのじゃ?」



 エフィーはパタンと漫画を閉じて僕の方に体を向けて尋ねてくる。でも今の反応を見て確信する。こいつ絶対に忘れていただろ!?



「いや、僕にそんなこと選択できるほどの知識ないからとりま全部で」



 これは絶対に知らないといけないことだからな。契約は精霊とのじゃなくても色々面倒臭いんだ。本当に、色々……。



「ふむ……。ではまず、主人は我と契約している状態じゃ。その紋がその印となっておる」



 エフィーが僕の手に浮かび上がる紋章を指差して話し始める。これがエフィーとの契約の証と言うわけか。



「うん、この紋って手袋か何かで隠しても良いよね?」


「今は良いぞ」



 翔馬みたいに変な反応をされても困るからな。指抜きグローブでも買っちゃおっかなぁ〜。……それよりも、この紋もいつか必要になる時があるのか。



「まず、精霊王である我と契約を維持するためには魔法石が必要じゃ。これは我と契約している力の量に比例して、大きく変わってくる」



 それが代償……いや、契約を維持するのに必要な対価と言うわけか。魔法石は迷宮で獲れるし楽で良かったと思うべきかな?



「確か、今でエフィーの力の1割だったよね?」


「うむ、正確には細かな割合などは違ったりもするが、別に関係ないことじゃ。契約を更新できる回数は10回。契約を交わすのに一度使ってあるから、残りはあと9回じゃ」



 俺はあと、9回も強くなることが可能なのか……。すごい、としか言いようがないな。



「あ、魔法石に関して言えば、今は大した量ではない。主人はいつも通り過ごしておれば良い。主人ならばそれで十分なほど稼げておる」



 了解。今のところ魔法石の燃費は全然大丈夫と……。あまり心配する必要がなくて助かったよ。



「この契約で得られる力って、僕の体が耐えられるようになったとしても意図的にとらないようにすることってできる?」



 力を上げることは重要だし、できる限り早く上げたいとは思う。なんでこんな事を聞いたのかって言われれば……多分、急激な変化を恐れたんだろうな。



「できるかできないかで言えばできるのじゃ。あと、一度上げてしまえば一生下げることはできん」



 うん、超重要じゃん。……下げる必要性が見つからない可能性もある。でも急激な身体能力の変化が僕にどんな作用をもたらすのか不安だ。だから契約の上書きは、きちんと冷静に己と向き合いながら考えなければいけないだろう。



「じゃ、今してある契約で僕が新しくできるようになったこと、強くなったことって挙げられる?」



 これを知ることが一番重要だ。自分自身をきちんと見つめ直して、自分の戦闘パターンに組み込む……。



「ゆうても1割じゃからな。まず主人も感じていると思うが、身体能力が上がりおる」



 うん、それは発掘の時に知ってる。あれはすごい。発現者は基本的に能力の伸びは著しく低い。もう無いに等しいぐらいだ。


 強化系と呼ばれる系統の探索者もいる。しかしそれは一時的な物が多い。たとえば十秒間だけ力を1.1倍にする、とか……。


 だが、エフィーとの契約は違う。エフィーの契約は永続効果。これを国が知れば、世界の価値観が根本的にひっくり返るぞ。エフィーの価値は無限大だ。


 そしてもし今、エフィーの精霊という本質的な価値を知られた場合、エフィー自身に危険が及ぶかもしれない。国がどんな手を使っても手に入れようとしてくるだろうし、他国からの干渉も……あるかもしれない。



「エフィー、絶対に僕から離れないでね?」


「う、うむ! 我も主人から離れたりはしないぞ? 契約によって繋がれているからの」



 僕は真剣な表情で、本気で心配しながら告げる。するとエフィーが照れながらも、僕の手の甲にある紋を指差して笑顔を見せる。あぁもう可愛すぎだろっ!



「は、話がズレたね。それで、身体能力以外は何かあるの?」


「そうじゃの〜、特にこれと言って…………あ、もう一つだけあるぞ!」


「なになに?」



 最初は悩んでいたエフィーだったが、パッと思い出したような仕草をしたのち、凄い勢いでこちらへと近づいてきた。なんだなんだ? 精霊王だったエフィーとの契約なんだ。1割とは言え、めっちゃすごい能力なんだろうな〜!



「ーーじゃ!」


「…………おけ」



 エフィーが自信満々にその能力を告げてくる。対して僕の反応は鈍い。……多分、僕はその能力を使わない。いや、絶対に使いたくない。普通に考えて僕の精神的にも無理! ……そんな能力だった。



「あ、あとエフィー、僕がさらなる契約をするためには、何をすればいい? もしかしてもうできない? もしそうだったら……契約を解除することも視野に入れるべきだと思う……」



 露骨に話を逸らしにいく。でもこれが一番重要だ。もし出来ないなら、エフィーの力を1割しか引き出せないなんて宝の持ち腐れだろう。


 ……もしこれ以上見込みがないなら……僕はエフィーとの契約を違えないといけないかもしれない。そっちの方が世界にとって貢献出来る。


 ……分かってる。できればそんなことはしたくない。エフィーと出会って1日も経ってないが、彼女と離れたくない……。


 いや、そんな事を考えても仕方がないな。どっちみち最後はエフィーの気持ちの問題なんだ。エフィーが僕の元を離れたいと言うのなら、僕は笑顔で見送ろう……。



「主人よ、我を馬鹿にしてあるのか? 主人と契約を違えるなど絶対にするはずがなかろう!」



 エフィーが初めて本気で僕を睨みつけて怒った。……やってしまった。僕はエフィーの何かに触れたんだ。



「……ご、ごめん。二度とそんなこと言わない」


「……全く、しょうがないから許してやるのじゃ。じゃが……二度とそんなこと言うでないぞ?」



 僕がすぐに頭を下げて謝ると、エフィーは全くもう、と言いたげな表情で警告をしてきた。すぐにコクコクと首を縦に何度も振る。



「それとさっきの質問じゃが、やはりたくさんモンスターと戦い、体を慣らすのが一番じゃな! 契約の上書きについては我の力がより体に馴染めば恐らくいけるはずじゃ!」



 エフィーはさっきまでの雰囲気を微塵も感じさせず答えてくれた。……なるほど、つまり結局のところモンスターと戦えば全て解決するってことか。……単純で良いね。


 モンスターとの戦闘はまだ怖いけど、それもきっと慣れる。今の僕はもう、F級探索者だった僕じゃない。エフィーという、大切な仲間と契約した力があるんだ。



「主人! そういえば今日は何をするのじゃ?」



 そう考えていると、エフィーが予定を尋ねてきた。う〜ん、別に迷宮に潜る予定も無いしな……。モンスターを倒すのが効率良いらしいけど、普通に運動でもある程度効果はあるんじゃ無いかな?



「……そうだ、病院にいこう。エフィーに会わせたい人がいるんだ」



 僕はエフィーにそう告げて、妹の水葉が入院している病院に向かった。当然走ってだ。運動でも効果あるかもしれないしな!

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