第2話~裏切り~
アァォォォーーーーンッ!!!
その後も進んでいると、突如モンスターの叫び声が頭の中にまで響く。曲がり角から姿を見せたのは、体長5メートルを超える狼のモンスターだった。
「や、やばいですよ松原さん! あのモンスター、どう考えてもA級はありそうですよ」
「くそっ、どうなってるんだ!?」
松原さんがそんな動揺した声を出すのも無理はない。ここはE級迷宮。最高でもD級のモンスターしか出ないはずなんだ。
つまりA級モンスターが出るここは、E級迷宮に偽装されたS級迷宮の可能性が高い……!
「《
藤森さんがお得意の《炎槍》を放つ。だが、狼のモンスターはそれを軽く回避。それでも続けて藤森さんが放ついくつもの《炎槍》は、ついにひとつも掠りもしない……。
「そんな! 藤森さんの《炎槍》が一発も当たらないなんて!」
松原さんがそう叫びながら、絶望の表情で狼のモンスターを見つめる。次の瞬間、一番前に立っていた松原さんが消えた。それと同時に強い風が発生し、僕たちの前を何かが通り過ぎる。
「え?」
急いで後ろを振り返ると、そこには狼のモンスターに咥えられ、体を真っ二つに噛み砕かれた松原さんの最後が見えた。
松原さんは最後まで何が起こったかわからないと言った顔をしていた。でも圧倒的な実力差ゆえに一瞬で終わったので、死ぬ痛みや苦しみはほとんどなかったことが幸いだろう。
「う、うわぁぁぁあっ! 藤森さん、どうしましょう!?」
激しく飛び散った松原さんの血が自分の顔にベチャリと掛かり、そこから意識は覚醒。慌てた僕は急いで尋ねるが、藤森さんは口元に手を当ててブツブツと何かを言っていた。
ほんの少しの思考時間。そこから彼は思いついたかのようにポンと手を叩き、僕の方にパァッと効果音がつきそうな笑みを浮かべる。
「……篠崎さん、あなた囮になりなさい」
「え? うわっ!?」
藤森さんはそう言って等級差のせいで存在する圧倒的な身体能力を使い、僕を無理やり押し倒した。
僕はとっさの出来事に対応できず、地面を転がるように倒れる。訳がわからないが、すぐに顔を上げた。すると目の前には狼のモンスターが、その圧倒的な存在感と眼力からの殺意を放ちながら立っていた。
「あ、ぁぁ……」
「《
ションベンでも漏らしそうな怖さを体験していると、不意に藤森さんの声が聞こえた。
「篠崎さん! あぁ、君の家族にはちゃんと伝えておきますよ。私を守った末の殉職だったと、ねっ」
藤森さんは僕の後ろに《炎壁》を創り出し、そんな事を告げて足音を響かせながら走り去っていった。
「そんなっ、待って藤森さん! ……てめぇふざけるなよ藤森ぃぃぃぃっ!!!」
僕は自分が囮として置き去りにされると理解した瞬間、そんな暴言を、人生で一番大きく叫んだと思う。しかしその声は反響するばかりで、誰かが助けてくれる……そんな奇跡は起こることはなかった。
僕が諦めて絶望の表情を浮かべながら振り返ると、ほんの目の前にまで狼のモンスターが顔を近づけていた。ギラリと光る金色の瞳孔が僕を見つめていた。
松原さんの血肉が狼のモンスターの牙に付いており、口から放たれる血肉の異臭が僕の吐き気を増長させる。
狼のモンスターはスンスンと、僕の臭いを嗅いでいた。今動いたら殺される。最弱故の危険本能がそう告げていた。
「はっ……はっ……」
いくつもの汗の滴が僕の顔をつたる。極度の緊張から自然と呼吸が乱れ、そんな声を漏らしていた。
そして一筋の汗が地面に落ちた瞬間、狼のモンスターの口が大きく開かれる。
「ぐ、あぁぁぁぁぁっっっ!!!」
ほとんど反応することもできず、僕は肩を噛み砕かれた。仮にもF級探索者とは言え、自動車と衝突しても軽症で済む程度の肉体は持っているのだ。
だが、目の前の狼のモンスターはまるでマシュマロでも食べるかのようにいとも簡単に噛み砕いた。
子供でも分かる圧倒的な実力差だった。殺されるっ!? だが次の瞬間、狼のモンスターは肩からスッと牙を抜き去る。
「うわぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?」
僕は痛みに耐えながらも、それ以上の恐怖心からその場を逃げ出した。後ろを振り返ると、狼のモンスターが凄まじい速度で僕を追いかけてきていた。
だが、狼のモンスターが本気を出せば僕ぐらい一瞬で追い付いて殺すことぐらいできるはずなのだ。なのに追いついていない。その理由は一つしかない。
……僕は、遊ばれているんだ。傷を負った獲物をなぶるように……。
僕は必死に逃げた。肩の痛みと出血で大した速度で走れてはおらず、息もすぐに切れる。虚な瞳でただ、前に向かって走った。
「はっ、はっ……え……?」
息も絶え絶えで走っていると、突如足が強制的に止まる。慌てて下の地面を見ると、眩い紫色の光の魔法陣が現れていた。
罠。しかも無作為転移の
「あがっ、ぎぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
僕はとっさに逃げようとするが、魔法陣から出ることはできず、片足を喰い千切られた。
想像もできないような痛みが僕を襲い、それと同時に僕はどこかへと転移してしまった。
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