1章

第1話~屈辱~

「《炎槍えんそう》」



 1人の男のその一声で、突如激しく燃え上がる炎が現れ、槍の形へと変貌する。《炎槍》はまっすぐに目の前にいるモンスターへと放たれる。


 《炎槍》はモンスターへと直撃。そのままその体を貫通し、先にある壁へとぶつかり小規模な爆発を起こした。



「すごいなぁ……いたっ!?」



 その光景に目を奪われそんなことを呟いていた僕の背中に衝撃が走る。



「ほら新人、ボケっとしてんじゃねーぞ! さっさと魔石を回収しろ!」


「あ、はい!」



 僕の背中を叩いたのはD級探索者の松原まつばらさんだった。睨むような鋭い目つきで叱責を飛ばし、僕は逃げるように倒されたモンスターの死体を解体して魔石を取り出す。



「それにしても、さすがは藤森ふじもりさんですね!」


「当然さ、私はC級探索者。君たちとは格が違うのさ」



 先ほど《炎槍》と言う名の魔法を使った藤森さんと呼ばれた人物と、僕の背中を叩いた松原さんが話をしていた。その間、僕はひたすら2人の倒したモンスターの解体をしていたが……。


 ちくしょう、今は僕だって最弱のF級探索者だけど、絶対にもっと強くなってやる! 僕はそう決心をした。


 ある日、世界中で一斉に現れた異世界へ繋がるゲートが発生した。その中にはモンスターと呼ばれる異形の姿を持った生物たちが存在し、時には人の形をした他種族も発見された。


 奴らは基本的に迷宮と呼ばれるゲートの中に閉じこめられているが、やがて時間が経てばゲートは消え、制限の消えたモンスターたちが街へと溢れ出した。


 それらは兵器を持った人間の力ではとても及ばす、人類はモンスターたちによって絶滅するだろうと、そう思われた時、1人の人間が立ち上がった。


 その人間は圧倒的な力を発揮し、ゲートから現れたモンスターたちを殲滅した。


 以降、世界中でその人間のような力を宿した人間が現れ始める。人々はこれを発現と呼んだ。


 人々は彼らをゲート内を探索、攻略することから、探索者と呼んだ。


 探索者は炎や氷を出すなどの能力、圧倒的な身体能力、切断された傷をも即座に癒す治癒力など、様々な異能を発現された。


 F級探索者、篠崎空しのざきそら19歳。身長は175cmほどで顔も中の上……というのもおこがましいかな? そんなレベル。


 と、クラスに何人もいそうで大した特徴もない僕も、一応選ばれたうちの1人だ。でも、能力は単純に身体能力が強化される、それだけ……。


 能力が発現すれば探索者には基本的になれる。しかし能力にも人類同様、明確な才能などの差がある。例えば、どんな能力発現をしても身体能力の上昇は必ず起こる。


 逆に言えばそれ以外になんの能力も持たない僕みたいなのは落ちこぼれ、F級探索者と最弱の位置に置かれる。


 無論、身体能力にも上がり幅が存在するので、身体能力だけで上にいく人間も存在するが、大抵は先程上げた異能を持ち合わせている場合がほとんどだ。


 さらに言えば僕の身体能力は全然高くない。まぁ、だからF級探索者なんだけど……。



「篠崎、まだ終わらねぇのか!?」



 松原さんが再び叱責を飛ばしてくる。だが、これでも僕は探索者歴3ヶ月にしては結構速い方なんだ。松原さんはそれを分かって言っている、意地悪な人だ。



「す、すみません! ……終わりました!」


「遅せぇんだよ、ったく……」



 松原さんが舌打ちをしながら悪態をつく。我慢だ、我慢。僕にはやらなきゃいけないことがあるんだから……。


 それに彼らも決して根っからの悪ではない。なんと言っても低等級だった僕を、彼らはスカウトしてくれたのだ。


 3ヶ月だけの特別契約とは言え、その恩に報いるためにも、しばらくはこの扱いにも慣れなければ……。



「松原さん、あまり篠崎さんを怒ってはいけませんよ。彼も一応、私たちのパーティメンバーの荷物持ち兼解体係として役に立っているではありませんか。Fランク冒険者なんですから仕方がないですよ……ププッ」



 そう考えていると、藤森さんがご自慢の髪をサラリとたなびかせながら、まるで僕を庇うような口調で見下してきた。



「クハッ、その通りですね藤森さん。良かったな篠崎、藤森さんに感謝しとけよ!」



 松原さんもそれに乗っかり、侮るような目で僕を見てくる。しかし彼らのストレス発散はそれで済んだのか、しばらくの間意地悪は何もされなかった。


 だが、この後僕はそんなことなどどうでも良いくらい酷い目に遭うことになるが、そのことをまだ僕は知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る