第3話~出会い~

 罠で飛ばされた僕はS級迷宮と思われるその最深部にいた。迷宮でA級のモンスターが彷徨いているなんて、どう考えてもそうとしか思えないだろう。


 それに僕の目の前には、黒くて異質な雰囲気を放つ扉が固く閉ざされていた。おそらく迷宮主のいる場所だからだろう。


 迷宮に通じるゲートは迷宮主を倒さなければ消えない。時間内にゲートを消せない場合、10年前、初めてモンスターが現れた際のような迷宮崩壊が起こり、迷宮内のモンスターがゲートから、1匹残らず街に放たれるのだ。



「……はは、せめて、迷宮主の姿だけでも……」



 僕は出血と痛みのせいでおかしくなっていた意識の単純な好奇心によって、まともに戦えない体に鞭を打ち、迷宮主のいる部屋の扉を開けた。ぁ、服の1部で足の止血はした。



「……何も、いない……?」



 僕は肩の怪我と片足によりバランスを崩しながらも、ゆっくりと迷宮主の部屋へと入る。しかし、そこには何もいなかった。


 周りを見るも、雑魚モンスターの影すら見えない。天井も、逆に床も何もいない。頭の中は? でいっぱいだったが、壁をつたって部屋の中を探索し始めた。


 聞いたこともないので確率はものすごく低いが、もしかしたら迷宮主は存在せず、宝箱だけが存在するとしたら、その中から傷を治すアイテムか魔道具が手に入るかもしれない。


 特に最初の二つの条件が起こる可能性がありえないレベルで低いが、それでも僕はこの可能性に賭けた。



「てか、なんで迷宮主はいないん……っつ」



 そんなことを口ずさんでいると、急に片足の力が無くなり、僕は地面に倒れた。それでも、僕は地面を這ってでも進んだ。


 どこに向かっているのかなんて分からない。それでも生きているのに、動けるのにその歩みを止めるなんて絶対に嫌だったから……。


 そして何を思ったか、僕は地面で倒れて力尽きるよりも、壁に背中を向けて力尽きた方がかっこいいとバカなことを思ってしまったのだ。



「へっ? う、ぁーーーっ!?!?!?」



 僕はゆっくりと体を起こし、壁へともたれかかる。次の瞬間、もたれかかった壁の一部が簡単にへこみ、頭から隠されていた滑り台を転がり落ちた。



 そこは普通の方法では発見出来なかっただろう。今みたいな偶然がなければ、迷宮崩壊が起きていた可能性もある……。本当、S級迷宮の名前に相応しい場所だよ。


 そんな事を頭の中で考えながら、僕は意図せず迷宮の隠し部屋を見つけることとなった。もしかしたら、迷宮主がいる部屋かもしれないが……。


 隠し部屋と言ったが、まずは一本道の通路が続いていた。迷宮の壁から生える蒼色の魔石群が、光源としての役割を果たしながら光り輝いていた。


 魔石は一般的にモンスターから取れる魔法石よりは価値が低いとされているが、S級迷宮の魔石ともなれば話は別だろう。持って帰れば、一般人では見たこともない金額が手に入る……。

 

 もっとも、もうすぐ死に絶える僕のような存在にはただの綺麗な石にしか見えないんだけどね。


 それよりも、僕は隠し部屋に密かな興奮を隠せなかった。この先に何があるのかを知りたい。その好奇心だけで、先程まであった絶望感は消え去っていた。


 隠し部屋へと続く道を歩き進めると、その奥には石段の上に祭壇のような物が設置されており、そこには小さな瓶が祀るように置かれていた。


 僕はもしかしたら傷を癒す飲み薬の可能性かもと思い、残った片手を伸ばして瓶の封を開く。……固い!? むぉぉぉぉっ!!!!!


 ポンッと瓶の蓋が取れた瞬間、瓶が爆発を起こして粉々に消し飛んだ。その衝撃で僕自身も激しく吹き飛び、壁に背中をぶつける。


 意識を保つのも怪しくなり、視界も本格的にぼやけ始めた。その朦朧とした意識の中で視界に捉えたのは、1人の女性だった。


 白髪、いや白銀の髪がふわりとなびかせながら、彼女は地面に降り立った。体の凹凸はあまり無いが、決してギリギリ貧乳というわけでは無い。


 綺麗、だ……。僕はそんな感想を抱きながら、意識を落とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る