第24話 スマホの限界
結論から言うと、昨晩聞こえていた除夜の鐘の発生元は、間違いなくこの「場所」だった。
では神社で除夜の鐘が撞かれたのかというと、それも違う。
まさかこんなに、ややこしい状態だったとは――
まず、あの神社。
正式には「熊野田八坂神社」という名称らしい。いや本当は「八坂神社」で、通称が「熊野田八坂神社」ということみたいだ。祀られてるのは素戔嗚尊。これはさっき碑で見たとおりだった。
スマホで調べたので、他にも色々情報が出てくるのだけど、その中に「神社だけど除夜の鐘を撞く、珍しい神社」なんて情報は出てこない。
当然そうなると、昨晩聞こえてきた除夜の鐘はなんだったんだ? ということになるんだけど、これも調べてみれば簡単な話。
ほとんど同じ場所に「
一緒に出てきた情報によると、随分珍しい形態らしくて、何しろ神社の上に――物理的に――寳珠寺が建っていて、今まで僕は存在ごと知らなかった。
本殿を正面に見据えた状態で右手の方を見てみると、確かに向こうに側に繋がっているように見えるスペースがある。RPGとかでプレイヤーから隠すように設計された道。そのぐらいが適切な表現になるんじゃないかな?
いぶきと一緒に、そちらにまで足を伸ばすと本当にRPGでもプレイしているような気分になった。この道に気付いたとしても、寳珠寺は情報通り高い場所にあるので、せいぜいが山道に通じている、ぐらいにしか思わないんじゃないんだろうか?
実際には坂道を登り切ると、確かに建物があって、鐘撞き堂もある。さらに言えば、こちらに直通の石階段も確かに設置されていたんだけど……これも僕は気付いてなかった。
というか気付きたくなかったと言うべきか。凄く急だから。
そんな状態だから、鐘撞き堂も断崖絶壁の上に鎮座しているような状態で、よくもまぁ、こんなところで百八回も鐘を撞けたものだと、逆に感心してしまった。いぶきのせいで「シンデレラフィット」なんて単語が頭の中をよぎったが、それは口にしないでおく。
とにかくそんなわけで、いぶきの思い付きで僕たちは思わぬ「観光」を行うことが出来た。それはきっとラッキーだったのだろう。
改めて確認すると、家からゆっくり歩いても本当に十分ほどの場所であることは間違いないんだよなぁ。それなのに国内でも珍しいとか――
「朋葉さん、スマホに依存しすぎじゃない?」
「依存してるのは、スマホじゃ無くてネット」
それを訂正することに意味があるとは思えなかったが、反射的に。
僕たちは神社を出て、歩きながらバス停に向かっている最中なんだけど……何だか中学の外周をぐるりと回っているみたいだな。何しろ、僕たちはさらに塀を左手になぞるように進んで、バス停を目指しているところなんだから。その過程で、突然出てくる鳥居も発見できたわけだけど、それが慰めになるのかどうか。
その鳥居のおかげで、いぶきの気が少しだけ逸れたけれど、効果はそれだけだった。
移動の間、何だかひたすらに文句を言われている。どうにも理不尽に思えたので、反撃を試みた。
「いぶきもスマホ持ってるんだろ。便利だし。もっと使い方覚えた方が良いんじゃないか?」
僕が満足に使いこなせていないのは、この際置いておく。
「使い方覚えてもねぇ」
そんな僕の反撃に、いぶきは随分シニカルな……というか大人びた笑みを浮かべて見せた。
「――結局、現地まで行かないとわからないこと沢山あったわけでしょ? スマホの情報だけで、あの神社の特別さ加減はわからなかったんだし」
「いや、それは――」
また反射的に反論しかかって、僕はそれを止めた。
いぶきの言うことも、もっともなことだと判断出来たからだ。
確かに「珍しい神社」という情報はあったけれど、どんな風に同じ敷地に建っているのかはわからなかったわけだし。ちなみに、ついでに調べた新大阪の「ロクローおばさん」の店が開いているかどうかもよくわからなかった。
これは僕の検索の仕方が悪いんだろうな。
でもネットで調べる事に、限界があるのは確かなことだ。
「そういうわけだから、朋葉さんは、あの神社の写真撮ってきて」
僕が感心していると、いぶきが何だか妙なことを言いだした。
「何でだ? 初詣――」
「――じゃなくて、背景の参考になるかと思って。だって凄いでしょ!? あのシンデレラフィット感」
随分気に入ったらしい――あの神社も。シンデレラフィットという言葉も。
だがまぁ、理屈はわかる。そのままはもちろん使えないけど背景作画の参考にはなるかも知れない。何しろ、いぶきが落ち着いたら今度こそ本格的な作画作業に移ることになるのだから。
ネームは……一応の完成をみている。
「わかった。ちゃんと許可をとって――階段の辺りは使えそうだな。その鐘撞き堂も建物を別な建物に変えても良いかも知れない」
「あの直通階段も。あれは遠くから見た方がいい気もするけれど」
「ああ確かに」
そのまま使いすぎると、イタリアに日本の風景が混ざり込む形になるから、絶対にボツだけど画像検索してみるのはどうだろう? ……って、早速ネット頼りの考え方になってしまった。
「あとはラストよ。どうするの?」
「そこはもう少し悩ませてくれ。方向性は大体決まってるんだけど、これだ! という感じの絵が思い浮かばない」
「それはね……わかる気もするけど、最後の見開き?」
「うん。やっぱり見開きになるんだろうな。ルッコラは島に帰る感じで良いと思うんだが」
「私もそう思う。そういう動機でアンドレアをふっかけたんだし。それに映里さんのおかげで、ルッコラはイタリアに生きる人達の代表みたいな事になってしまったし」
「代表というか、象徴だな」
果たして、それをネームに頼らず表現することが出来るのかどうか。
いや、ラストページで、
――「ああ、そういうことだったのか」
みたいな納得が読み手の中に生じさせることが出来れば良いんじゃないだろうか。しかしそうなると、ラストページのハードルがますます上がるわけで。
「……それは結局、未来を描くことになると思う」
いきなり、と言っても良いタイミングで、いぶきはそう結論づけた。
僕たちは中学の外周からはもう別れている。今進んでいる道は、一方通行で細くて川沿いという、かなり無茶な道だ。もっとも歩く分にはさほどの問題は無い、というか有り難さはある。むしろこの細い道を行き着いた先に現れる、バス停のスペースの狭さの方が問題になるだろうな。
割と交通量の多い幹線通り沿いにあるのに、あの狭さでは本気で命の危険を感じることが出来るし。
いや僕が気にすべきはそんな
「未来――そう考えるんだな」
僕はとりあえず、そう答えておいた。
完成しているネームから考えると、まず将軍と対峙して、叔父を見送って――そこから、先のアンドレアの姿が思い浮かばない。
一緒に島に帰る……というのが“無難な”終局だとは思うのだけど。
「うん。私は、そうね……やっぱり、そういうことになると思う」
でも島に帰るのも、やっぱりそれは未来にかわりはないわけで。一体、何をどうすれば僕は納得出来るのか。これは多分……まず先に
ルッコラの登場で、確かにアンドレアの視野は広がったわけで――つまりそれは……
「……ごめんだけど、もう少し考えさせてくれ」
「うんわかった。私も背景とか頑張らないとダメだしね。完成まで時間がかかりそう」
つまりその間に、結論を出せと言うことか。
僕は肩をすくめて、了承の意を示した。ここは、いぶきの余裕を持った対応に感謝するしか無い。
……でも結局、バス停では、圧倒的な心の狭さを見せつけられたんだけど。その手の文句は僕に言わないで阪急バスか、さっぱり道路整備しない豊中市に言って欲しい。
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