レオ
なあジャヴェール。君にママのことを訊かれた時、本当のことを話せなかったんだ。嘘はついていないよ。神様の前だから。でも、本当はもう僕のママはいないんだ。僕を産んだ後、すぐに病気が悪化して、3歳になる前に死んでしまったのさ。
何で話さなかったのかって?それは、君にそんな話をすると泣いてしまいそうだったからさ。僕は、君の前でもう泣きたくなかったんだ。
去年のことを思い出すよ。そう、あれはクラスのキャンプ費が紛失した時。君が僕を守ってくれた時だ。
誰かが言ったんだ。「レオのカバンを調べなよ。あいつだけ親がいなくてキャンプに行けないから盗ったんじゃないか」って。
実際キャンプにはジャヴェールも行かないんだけれど、ジャヴェールは強くて頭がいいから、彼をからかう人は誰もいない。僕は強くないし賢くないし、孤児院にいるから、こうして見下されるんだ。
クラスのみんながわあわあと騒ぎだした。担任のアラン先生は「みんな、騒ぐんじゃない。盗ったやつはきっと後で名乗り出るはずだ。」と言って、僕の方を見た。つまり、先生も僕を疑っているのだとわかった。なんてことはない。こんなことはいつものことだ。そう思いながらも僕はつい涙が出そうになった。
すると君は、突如立ち上がり、怒るでもなく騒ぐでもなくこう言った。
「皆さん、騒がないでください。わあわあと、まるで動物園みたいだ。」
その言葉にみんなはギョッとして、ジャヴェールの言葉に聞き入った。
「レオはキャンプに行けないのではなく、行かないのです。彼はキャンプより本を読むのが好きなだけです。じゃあ、そのお金を使って本をたくさん買いたかったのか?それも違います。僕も同じ孤児院ですから。あそこは決まったお小遣い以上のものを持っていないかっていつも部屋や持ち物を調べるんです。どこかでモノを盗んだりしないようにね。皆さんがレオを疑うのは、彼が孤児院にいるからですか?つまり、親がそばにいないからですか?しかし、子供は親を選べないのです。彼の母親がどうであっても、彼自身には何の関係もない。アラン先生、以前授業の中で『子供が親を選んでいるという説もある』とおっしゃいましたね。ここでそれについても僕の考えでは否定したいと思います。なぜなら僕の母親は顔も見たことないアバズレ放浪女です。誰が好んでそんな女に宿りますか?僕は母を選んでいない。レオも同じく母を選んでいません。僕自身はアバズレ女から生まれていますが、勉強も一番できるし、規律も一番守っています。わかりますか?孤児院だから、親がいないからキャンプ費を盗った、なんて理由は成立しないんです。僕がそうしないのと同じく、レオにも泥棒をする理由がない。」
君が言うことが正しいかどうかもわからなかったけれど、あまりにもつらつらと話すから、みんな唖然としていたよね。そして君は、
「ですが、皆さんが納得するために僕がレオのカバンやポケットを調べましょう。レオ、いいかい?」
そう言って、僕のカバンやポケットをみんなの前で調べた。
もちろん、何も出てこなかったけれど、仏頂面の君にあちこち調べられているのがなんだかこそばゆくて、恥ずかしくて、でも優しくて・・・僕はまた泣きそうになったんだ。
もちろん何も出なくて、あげくにキャンプ費は先生同士の連絡ミスで、とっくに回収されていたことが放課後にわかったんだ。
驚いたのは次の日だ。
アラン先生が
「いやいや、みんなすまなかった。キャリー先生がすでに回収していたのを聞いてなくてね。まったく困ったもんだな。みんなも連絡はきちんとするんだぞ。いやぁ困ったもんだ。じゃあ、授業を始めよう。」と言うと君は、
「ちょっと待ってください。それはキャリー先生にすべての責任があるということですか?」
とみんなの前で訊ねた。
「・・・い、いや、そうとは言っていないだろう。ただ、お金を回収するならばきちんと連絡するべきだと。」
「これは僕の推測ですが、キャリー先生はお金の回収袋が放置されていたから、紛失してはいけないと回収したのではないですか?そして、それならばすぐにアラン先生に言うはずです。つまり、アラン先生が回収袋を放置していたのを、キャリー先生が見つけて心配で保管し、それを伝えようにもアラン先生はその場にいなかったのではないですか?つまり、回収袋のことを忘れてそのまま別の教室の授業に行った。ああ、すみません、僕の推測と言ったのは本当でして、その推測を確認したくて、先ほどその話を直接関わった先生6人から話を聞いてきたところなのですが、それは事実ですか?」
「き・・・君は何のつもりだ!私を馬鹿にしているのか!」
「そんなつもりはありません。僕は規律のために確認したいのです。それが事実であれば、アラン先生は学校の規律に背いて、みんなにキャリー先生の連絡ミスだと嘘を伝えたことになります。」
「・・・ジャヴェール、何が言いたい?」
「僕は教会でいつも神様に誓っています。自分に不都合な事実があっても決して嘘はつかないと。先生はどうですか?」
「・・・ま、まあ、嘘と言えばそうとも取れるかもしれないな。」
「ではまず、レオに謝るべきではないでしょうか?」
「なんだと?!」
「先生はレオがクラスの皆から犯人だと誤解されている時にも、愚かな彼らを制しなかった。それどころか、盗ったなら名乗り出るだろうと言ってレオの方を見た。あれではまるでレオが犯人だと言ったのと変わらない。先生、学校と言う場所は、先生が間違ったことをしても、それが正しいことのようにされてしまうところなのです。だからこそ、そうすべきではない。先生が今自分に不都合な事実を隠す嘘をついたのなら、まずはレオに謝るべきです。そしてキャリー先生にも。」
クラスメイトを「動物園」とか「愚かな彼ら」とか平気で言う君に、僕はさすがにギョッとするのだけれど、先生に対してもまったくひるまないその姿は、先生よりも怖かったよ。
アラン先生は少しの間、君を睨みつけていた。
「・・・君は裁判官にでもなったつもりか?」
「いいえ。僕は自分の中の正義を通して、意見を述べているだけです。そうするかしないかは先生が決めることです。ただ、規律に違反していた生徒はみんな罰を受けます。この前は授業に遅れただけで教室の外に立たされている生徒もいましたが・・・先生は授業がありますので、教室の外に立っておくわけにもいかないでしょう。」
僕は思わず吹き出しそうになったが、ジャヴェールの顔は大まじめだ。
「ジャヴェール、君は・・・いや・・・うん。わかった。レオ・・・その、すまなかった。」
「いえ、平気です。」
まるでクラスのみんながジャヴェールに叱られたように静まり返っていた。
「今日は・・・自習にする。」
そう言ってアラン先生は教室を出た。
なあジャヴェール、今も君のあの仏頂面を思い出すよ。そんな君は僕らよりとうに大人なのかと思っていたけれど、僕と2人でいる時の君の目は、まるで赤ん坊のように澄んでいるんだ。
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