勇者が来りて…… そしてトール対魔王

 各国々の軍艦から打ち出される巨大な魔弾。


 豊富な国家予算と魔力が込められた魔導兵器は凶悪だった。


 地面に着弾した折に見せる威力は言うまでもなく、その後、周囲にばら撒かれる魔力は呪いの如し。


 まるで意思があるように自軍の兵を避け、敵兵にのみ襲い掛かっていく。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?」


 だが、阻止せんと空を舞う魔族もいた。 


 魔王の幕僚。それも武官となる将軍の1人だった。


 直撃すれば並みの魔族ならば、抗う事すらできず消滅する魔弾。


 それを着弾させぬように空中での打ち落としていく。


 「がはっっはははは! これではキリがないわ!」


 将軍は、言葉とは裏腹に笑いながら、魔力を込めた打撃を叩き込んでいく。


 劣勢。しかし、自軍に魔王自ら指示を取る姿に敗北はない。


 そう信じて疑わない士気の高さと信頼の高さが、彼を将軍として相応しい位置に押し上げている。


 だが――――


 「ん? なんじゃ? ありゃ?」


 何か違和感。 撃ち込まれる魔弾の1つに何か妙な気配を感じている。


 目を細めて、それを凝視すると――――


「ぬっ! 人が立っている?」


 魔弾の1つ。 落下してくるソレの上に仁王立ちしている男に気づいた。


「くっ……あっははははははは……」と将軍は無理にでも笑い声を捻りだした。


 魔力量が違うとか、立ち姿から伝わる力量とか、そういう次元の力差ではない。


 立ち向かえば、即死を予感させる戦力差。


 将ならば、撤退を選択する。しかし、将軍は――――将軍である前に武人であった。     


「……魔王さま! 楽しゅうござました。お先に逝かせていただく!」


 将軍は剣を抜き、男へ向かって飛び上がる。


 その姿をいつから見ていたのだろうか? 男は、迫りくる魔族を一瞥すると――――


 何かが煌めいた。


「がっ……まさか、剣の太刀筋すら――――見えぬと――――」


 将軍は、それだけを発すると体が2つに分かれ、地面へ落下していった。


 魔族……それも将軍クラスの相手を瞬殺した男。 男の名前はクロス。


 大国 マディソンの手によって生み出され、育成された勇者クロスだった。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 一方、その頃――――戦場には異音が轟き続ける。


 ソリット流剣術『破龍の舞い』


 トールが放つ武器及び防具破壊の剣技。


 そして、その技を受けるは魔王本人だ。


 無論、魔王が身に纏うは曰く付き防具。 そして剣は世界に二本とない魔剣。


 何より魔王の剣技は、かつて剣聖といわれたカエリ・ソリットに匹敵する腕前。


 トールが放つ攻撃を、受け、弾き、躱し、いなす。


「この――――いつまで続ける!」と終わらぬ剣撃に怒りを表す魔王。


 しかし、攻め続けるトールは――――


「無論、お前が敗れ去るまでだ」


「――――くっ! たわけが!」


 トールの剣が何度も魔王の剣をすり抜け、防具に叩き込まれる。


 しかし、それはトールの剣技が魔王を上回ったわけではない。


 自身の防具を信頼して、トールの攻撃をあえて受け始めたのだ。


 それは、反撃を開始するため――――


「このっ! 悔い改めるがいい!」


 剛剣。威力を重視しながらも連撃を可能とするソリット流の技を受けながらも――――


 魔王は剣を振るう。


 怒涛……嵐の海の如きトールの剣が止まる。


 甲高い金属音が交差し、魔王の剣をトールは受けた。


 だが、剣を防いだだけで攻撃が終了するならば、魔王の剣は魔剣と呼ばれない。


 ゾクリと背筋に冷たい予感が通り抜けて、トールは後ろに下がった。


「ふん、直感だけで避けたか」


 魔王の言葉通り、トールが立っていた場所に風が――――鋭い何かが通る。


「魔力による不可視の剣撃。それも、剣本体に動きに追随するものではなく、持ち主が想像した場所への攻撃」


「ご名答。一撃を見て正鵠を射るか」と魔王は笑う。


そして両者は――――


「――――――――」


「――――――――」


互いに無言になる。 そのタイミング……互いに息の漏れから攻撃に転じる瞬間を読み合い……同時に動いた。


  

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