魔王軍の混乱 そして、勇者が来る
軍遠征において拠点攻めは重要である。
まして魔王の狙いはスックラの首都。
拠点を残せば、のちのち集結され巨大な軍が背後から出現する事になる。
だから、魔王軍は電撃戦を選択したのだが……
(伏兵……スックラ側から見れば奥地に正規兵を投入しただと? 情報が洩れている。裏切り者か?)
魔王が指揮を取らず。思考を続ける。
「魔王様。ご指示を……このまま前後を動かして敵を包囲しましょうか?」
副官は支持を受けるように見せ、自身の意見を進言する。しかし――――
「いや、待て。 我が精鋭は、すぐに崩れぬ。まだ待て」
「し、しかし……」という副官の声を聴かず、魔王は瞳を閉じて思考を深める。
(現時点で電撃戦は失敗。敵は優位に立った? いや……違うな)
魔王は記憶を辿る。 自分が先頭で通ってきた地形。
(道は左右が森……兵が隠れる場所としては好ましい。しかし多くは隠れないはず)
「副官よ! 伏兵は一か所に非ず。周囲……四方に斥候兵を放ち、徐々に戦力を中心に集中させよ。くれぐれも急がせるな。こちらの隙に合わせて、敵が戦力投入してくるぞ」
「はい!」と副官は全軍に指示を飛ばす。
戦場は劇的に動かない。目的は兵力を分散させているであろう発見を優先させる事。
その思惑通り、報告が上がってくる。
「うむ、やはり敵の狙いは伏兵による波状攻撃。しかし、その配置を見破れば効果は薄い」
魔王は勝ちを確信した。
しかし、その表情は憂いが帯びている。
遠征をいう意味では、これ以上の進軍は望めず、軍を引かなければならない時点で失敗しているからだ。
「すぐに敵兵を滅ぼし帰るぞ。帰ると同時に遠征の準備を――――」
だが、その魔王を声をかき消して報告を伝えて来た。
「大変です。背後から敵兵が……その数、およそ5000」
「何……背後? 馬鹿な、どこから出現した」
魔王が驚くのも無理はない。 自軍の後ろは、魔王領だ。
(ならば、自分の領土から5000も反乱者が現れた? そんな馬鹿な……)
「ご進言いたします! 敵は海路を使い、我らの後ろに出現! 敵船の旗印は……マディソン、シユウ国、ブラテンの3か国」
「――――っ! スックラの同盟国を動かしただと……ここで全てを、我を討つか!」
魔王の咆哮めいた叫び。 それに合わせて、3か国の海軍は大砲から魔弾を砲撃させた。
爆音が幾つも重なる。 統率の取れた魔王軍も奇襲に続く爆音に混乱が広がっていく。
その混乱に紛れて、1つの黒い影が魔王軍の中を駆け抜けていく。
その影の正体は――――
「魔王っ!」
影が飛翔する。 それに気づいた魔王は声を荒げる。
「貴様……剣聖カエリ・ソリットの息子か!」
「おう! これは挨拶代わりの――――ソリット流剣術『破龍の舞い』」
戦場に打撃音が響いた。
そして――――
マディソンの船頭に1人の人間が立っている。
無論、船は海上。陸地までは距離がある。しかし、その男は――――
「クロス……出るぞ」
大型の軍船が揺れるほどの脚力で、その男――――勇者クロスは戦場の真ん中まで、文字通り――――飛び込んでいったのだ。
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