決戦が始まる

 エルフの霊薬。 それはハイド神父にとって無視できぬ物。


 元はエルフが疲労回復に使っていた薬だ。


 しかし、長寿である彼等が、自身の体に癒しを追求した薬。

 それを人に使用した時に効果が劇的に変化する。


 若返りの薬へと……


 その事実に気づいた人間たちは、エルフたちが薬の秘密を奪おうとした。


 やがて、それは人とエルフの王国を巻き込んだ戦争にまで発展する。


 長き続く人とエルフ争いが休戦となったのは新たに共通の敵である魔族の進軍だと言う事を考えれば皮肉である。


 そして、亜人連合軍に参加したエルフたちは壊滅状態である。


 おそらく、今後の歴史でエルフの霊薬は完全に失われた……そう誰もがそう信じた。


(それが、僅かな量とはいえ、私の目の前に――――)


 ハイド神父は無意識に喉を鳴らした。


(若返りの効果? そんな物に執着するのは愚か者だ。これは歴史上価値を考えれば、世界の宝……それを量産しろだと!)


「ど、どうやって?」とハイド神父は動揺を押さえこみ声に出す。


「はい?」


「どうやって、量産を考えているのですか?」


「こちらの博士は……」とトールは部屋の隅に避難していた博士の紹介をしようとして言葉を止めた。それから


「えっと……?」


「?」とハイドは訝しがるも、すぐに理由がわかった。


「なんじゃいトール。お前、ワシをここまで呼び出しておいて名前を知らなんだか?」


「……すいません」


「ワシの名前はナクタ―じゃよ。ナクタ―・ロイルじゃ」


「えっと、こちらはナクタ―博士、こちらはハイド神父です」


「お主もハイド神父は危なっかしい奴じゃな。じゃが……ワシとチームを組むならそのくらいの気骨がないとな!」


 こうして、トールはエルフの霊薬を蘇らせ、大量生産を目指した。


 真の目的は軍部補強である。そのため……


 「スックラはエルフの霊薬を保有しており、その大量生産に着手している」と噂を流した。


 国内外の富豪、有力者に資金提供を促す。


 さらに残党として各地に潜んでいるエルフたちに救援。 その後、エルフたちを中心としたスックラの遊撃部隊を秘密裏に設立。


 全ては急速に執り行われた。


 理由は――――魔王の復帰が近いからだ。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 トールの古い記憶。 


 過去の戦争では、復帰した魔王は奇襲攻撃を行う。


 スックラと魔王領を繋ぐ陸路を魔王軍は高速移動。


 複数の関所、複数の城を落とし、僅か3日でスックラ本城目前まで魔王軍本体を出現させる電撃戦を行うのだ。


 その戦いで、負傷した現王女 レナ・デ・スックラは王位を娘に譲り、王弟に実権

を渡して息を引き取る。


 それがスックラ滅亡の引き金になるとは知らず…… 


「だから今日……魔王軍の電撃戦を潰す」


 すでに魔王の攻撃を知るトールは、エルフ遊撃隊を伏兵として潜ませ――――スックラ軍の一部を動かしていた。


 決戦が始まる

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