トールの10年計画

 胸元に突きつけた木刀。 それを無造作に掴むと男はトールを睨みつけた。


「……なんスっか? 今の技?」


「どう見えた?」


「消えて見えたスよ。魔法とか幻覚の部類すか?」


「いいや、ただの技術さ。大きく飛び込んでくるのはわかったからね」とトールは続ける。


「フェイントで視線誘導して、そっちの動きに合わせて前に飛んだ」


「前に……だから、いつの間にか背後にいたんスね」


「へぇ~」と感心した表情を見せた。


 兵士が求めている技術はコレだ。 


 彼等の日常は、死に近い。 だから、彼等が求めてる技は――――


 凄まじい鍛錬に身に着けた怪力を下地にした技ではない。


 1つの技を何年に及ぶ反復によって身に着ける神技のような技ではない。


 今日から使える単純な技。


 彼らは剣の達人を目指していない。 死地で生き残るための技。


(……前回の俺は、それが理解できていなかった)


 そう思い出し、感傷に浸りかけていたトールだった。


「おもしれぇ技スッ……教わっても?」


 破顔一笑 手を差し出してくる。


「もちろん」と差し出された手を握り返したトールだった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 まずは地盤固めとして剣術顧問としての役割を優先させたトール。


「次は――――」と緊張した様子で扉を開く。


 そこは王の間。 不思議と神聖が空気が、開けた空間から流れてくる感覚。


「就任式依頼ですね、トール・ソリット」


 そこには当然、彼女がいる。 先代王女 レナ・デ・スックラ。


「はい、おかげさまで。兵の皆もよく鍛錬に着いて来てくれています」 


「それはよかった……それで、今日は? なにやら人材に関わる話とは聞いていますが?」


「実は推挙したい人物が2人います」


「推挙ですか? それは補佐をつけたいという意味ですか?」


「いいえ、少し特殊な人材なので……えっと、研究者としてですね」


 これにはレナ王女も小首を傾げた。


「軍事補強の人なのですよね?」


「えぇ、必ずお役に立てるかと……」


「ん~ いいですわよ。すぐに手配させましょう」


「ありがとうございます」


 ――――そして2日後――――


「やれやれ、どんな奴がワシを異国で王室勤めに推挙したのかと思えば、アンタかい」


 その男は老人だった。 


 いや、以前に会った時は10年後の世界 


 ――――確か、レナとグリアが冒険者ギルドで依頼を受けた時だ。


 その時より老人の白髪に黒いものが混じっていた。


 通称 科学者。10年後にはブラテンの冒険者ギルドに所属しており、人工的魔物の研究に没頭していた男……マッドサイエンティストだ。


 トールが冒険者として旅をしていた時代にも出会っていた。


 そして、もう1人―――― その男はトールの背後に立っていた。


 男は暗殺者だった。その男は手にした刃物をトールへ突き刺す。 ――――そのはずだった。


「むっ! これを避けますか? あり得ない」


「いきなり命を取りに来ますか? 相変わらずだ、ハイド神父」




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