トール対スックラ正規兵

 スックラの正規兵は屈強だ。 


 過酷な訓練に加え、警備の仕事。 必要とあれば、場外に出現する魔物を討伐する。


 今、鍛錬場にいるのは、それらを終えても、個人的な鍛錬を目的に集まってきた者たち。


 精鋭中の精鋭と言われる猛者たち。


 かつて―――― タイムスリップする前に出会い指導をした彼等…… 


 最初は、剣聖の後継者としてトールを剣術顧問として指導を素直に受けていた。


 確かに感じていた心の壁、心の距離。 


 ただ強さを見せれば、納得するだろうか? そう思ってトールは腕前を見せつけたりもした……


 しかし、今ならわかる。


「新たに君たちを指導する事になったトール・ソリットだ!」


 大きな声を出したわけではない。


 しかし、良く通る声は鍛錬を続けていた兵士たちの手を止めるに十分なくらいには耳に届いたようだ。


「先んじて、この中で俺の力量を見たい者はいるか?」


ざわ…… と一瞬湧き上がる。 だが、すぐに抑える自制心の強さ。


「うん、やっぱり良く訓練されている」と笑みを見せたトール。 そんな様子に何を感じたか? 1人の男が手を上げた。


 デカい男だった。 見覚えは……ある。


 武勲を立て、最終的には百卒長にまで上り詰めた男だ。


「では構えて」とトールは木刀を渡した。 


「素面……防具はなしですか?」と男は憮然とした表情。


 訓練用の木刀は通常よりも硬度は低いが、それでも十分に人を殺せる物だ。


 兵士たちは訓練で怪我を負う事も、負わす事も極端に嫌う。 怪我をすれば鍛錬が惰るからだ。


「大丈夫、怪我はしない。もちろん、怪我をさせる事もないよ」


「……ウッス。そうですか」


 2人を中心にして、周りの兵たちも広がっていく。


 間合い。


 歩数にして――――4歩。互いに示し合せて、2歩進めば剣の届く位置。


 男は、小刻みに前後動く。まるでトールを試すように、誘うような動き。


 時折、仕掛けてくるフェイントにトールは反応しない。


「へぇ……何にも引っかからないスね。そんじゃ……これはどうッスか!」


 間合い? そんな物は関係ないと巨体が飛んだ。


 大股開き、4歩の距離は1歩で無へ。 


 巨体が飛び込んでくる迫力。 意表を突く一撃に常人ならば――――いや、胆力に自信がある者でも慄き、後手に回る。


 少なくとも今まで達人を自称する者たちはそうだった。


 達人は技があってこその達人。ならば力勝負に持ち込めば、勝ちは動かぬ。


 そしてこれからも―――― だが、そうはならなかった。


「きえ……消えた?」


 振り上げた一撃が宙を切る衝撃と共に男は呟いた。


 加えて、次の瞬間に衝撃。


 (蹴られた? 大した威力では――――いや、膝裏? ――――まずい!?)


 飛び込んだ直後に着地する予定の足。 その足が蹴られた瞬間に感覚が失われた。


 膝裏を蹴られた事で踏ん張り――――ブレーキがかけれない。


 着地を失敗した男。 地面を転がり、無様ながらも――――無理やりにも、強引にも立ち上がり――――しかし、トールが待ち構えていた。


「どうだい? 今の技は?」


 

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