シン王子の部屋と仕掛けられた呪詛

「やぁ! よくきたねトールくん、もう話は聞いているよ。さぁ部屋に入って! 入って!」


 シユウのシンは盛大にトールを歓迎した。 だが、シンの従者……おそらくボディガードも兼ねているのだろう。あまり、いい感情は持っていない様子だった。


 「暫く、君の護衛をさせてもらう。トール・ソリットだ」


 トールは仕来り通りの挨拶をする。この件は、学園内の出来事では済まなくなっている。


 学園が生徒に過ぎないトールに依頼をするという形式は、あまりよろしくない。


 ……そう言った教員の意見によって、学園は冒険者ギルドを通して、トール個人へ名指しの依頼という形になっているからだ。


「そんな畏まらなくてもいいじゃないか。僕と君の仲ではないか!」


 カラカラと笑うシン王子。


 そのまま椅子に座るように勧め、従者におもてなしの準備を促した。


「さて、護衛と言う事は、この部屋の同居人になるわけだね」


「はい、暫くは同室というわけで……いや、待てよ」


「?」


「失礼します」とトールは席を立った。そのまま、自分が座っていた椅子を持ち上げた。


「えっと……トールくん? なにを?」


「殺気を感じました。 この椅子に……呪詛が込められています」


「呪詛!?」


 声を上げたのはシン王子だけではない。護衛である従者たちも顔色を変えて懐から杖を取り出した。


「解呪は可能ですか?」


 トールの問いに強面の従者は慎重に椅子に魔力を流して――――


「いや、手持ちの装備では難しい。 それにコチラが気づいた事は術者に伝わっているはず。貴方は王子を連れて早く避難を――――」


「そうか、それじゃ仕方ないか」とトールは言い終えるよりも早く、椅子を従者から奪いとる。


「何をするつもりだ!」


「こうするんだよ!」とトールは椅子を窓に向かい、投擲。


 窓ガラスは王族護衛のため、とてつもなく分厚い対魔法使用。


 しかし、トールの膂力は窓を簡単にわって見せた。 


 呪詛の影響か? 高強度の窓と衝突しても破壊されない椅子は外へ――――


「結局……これが一番早い。『火矢ファイアボール』」


 赤い閃光。 唸る轟音すら置き去りにして――――


 呪詛で守れたはずの椅子を完全に消滅させてみせた。


「助かったのか?」とシン王子は事の成り行きを呆然と見ている事しかできなかった。


 その声で我に返った従者は、


「……は! 呪詛の影響は? 消滅している? 術者に逆流している……のか?」


 椅子が投げ捨てられた方向に杖を振り、魔力を読み取っていく。


「呪詛は完全に払われている。一瞬で膨大な魔力を浴びて、術式が乱れた……こんな方法を使うなんて……貴様!?」


 従者の1人はトールへ掴みかかる。


「何を考えている。こんな危険な事を! シン王子に、もしもの事が合ったらどうするつもりだ!」


「よせ! トールは僕を助けようとしただけだ。そして、結果として救って見せた」


 シン王子は制止する。しかし、それでも収まらない従者。だが――――


「悪いな。俺は呪詛の払い方はアレしか知らない。それに失敗したことがないので」


「――――っ!」と従者はそれ以上、何も言わなかった。


(この男、本当にさっきの方法で呪詛の解除を……これがSSS級冒険者か)


「あり得ん! 貴様はあり得ん事を仕出かした! しかし、貴様のおかげで全員が無事でいる……その事は感謝する」


 深々と頭を下げた従者。意表を突かれるトールに対して、


「私の名前は、エドワード……エドと呼んでくれ」と握手を求めた。


「あぁ、知ってると思うが、俺の名前はトール・ソリットだ。暫くお世話になる」


 差し出された腕に答えるトールだったがエドは……


「ところで、これはこれ……それは、それ……一発殴らせろ!」


 トールへ飛び掛かっていった。 喧嘩というにはじゃれ合いのような殴り合い。


 もちろん手加減はしているが、競技スポーツ的でその力量を互いに確かめ合うような作業であったが……


 シン王子は目を丸くして2人の殴り合いを見守るしかできなかった。


   

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