スコティ学園の職員会議

 薄暗い部屋。 円卓を囲む人数は20人ほど。

 誰かが口を開く。


「それでは緊急職員会議を始めましょう」


 部屋にいた全員がスコティ学園の教員たちだった。


「我がスコティ学園に侵入者が現れた」


「我らが生徒を誘拐しようとしたとか……」


「許せぬな」


「あぁ、許せぬとも」


「捕らえた者はどうなった?」


「……死んださ」


「責め殺したのか?」


「まさか、無駄な拷問なんかしないさ。自死だよ。歯に毒を仕込んでやがった」


「なら、どうする? 誰が敵だ?」


「愚問だろ? 全てが敵だ。この世のテロリストたちを殲滅しよう。ちょうど良い機会ではないか」


「待ってくれ」とグリアが会議を止めた。


「今、重要なのは攻撃ではなく防御ではないか? つまり……」


「狙われている生徒の護衛を優先すると?」


「そう! それだ」とグリアは誰かの声に賛同する。しかし――――


「あり得ませんな、理事長マイマスター」と教員の1人が立ち上がる。


 その人物は、本来ならトールたちの担任の予定だったが、グリアの乱心とも言える行為に圧倒されていた男だった。


 どこか気弱そうな男……だったはず。 しかし、今はその面影がない。


 無表情……いや、よく見れば若干の笑み。 その姿は幽鬼のように揺らめいて見える。


「――――」とその不気味さに言葉を失うグリア。しかし、男は気にした様子もなく話を続ける。


「我らスコティ学園は、多くの王族や貴族の教育機関。ゆえに中立を絶対とし、敵対する者に絶対の武力を持って立ち向かってきました。ゆえに守りという選択肢は――――」


「あっ、俺……いえ、自分発言しても良いすか?」


 そう言って教員の発言を遮ったのはトールだった。


 横に並んで座っているレナは「いけません、トール様。今は大切な話の最中ですよ」と止めるが「良いから、良いから」とトールは席を立った。 



「なんですか? トール君には目撃者として職員会議に出席してもらっているだけで発言権はありません。 近々、王位継承される身だとしても我々は特別扱いをしません。そういう教育機関ですので」


 しかし、トールは空気を読まない。 手にした紙を机の上に置き、広げた。


「これも見てほしいのだけど?」


「地下路の地図。これが何か? もはや爆破されて地下路は通じていません。 敵が地下路を使って外から侵入を企んでいたのでしょうが、結果としては阻止できました。もう、誘拐を警戒する必要は……」


「いや、そう思っていたんだけど、ここを見てほしいですよね」


「……普通の通路ですね。少なくとも地図の表記では」


「実際は、違ってましたよ。ここは塞がれて、代わりに迂回路ができてました」


「むっ、これは…… 過去の地下路と違っている。ならば、手が加えられているのか?」


「おそらく、隠し部屋……この地図に書かれていない通路がたくさんあると思いますよ」


 ざわ…… ざわ……


      ざわ…… ざわ……


 2人を中心に騒めきが大きくなっていく。


「つまり、この封鎖された出入口以外にも入り口が複数ある。まだ地下に潜んでいる者たちがいる」


「トール君、この地図が実際の地下路と違う箇所を書きこめますか?」


「もちろん」とトールは直接、地図に書き始めた。


「なるほど、敵は潜んでいる可能性が高い場所……ある程度の想像はできますね」


「役に立ったならよかった」


「なるほど、なるほど……ところでトールくん。お暇ですか?」


「はい?」


「地下に潜む敵の位置もわかりました。また別動隊による敵の本拠地への攻撃も行います」


「地下の敵への攻撃か、敵の本拠地への攻撃……それに俺も参加してほしいと?」


「いいえ、全く違いますよ」


「むっ……?」


「君に頼みたいのは護衛です」


「護衛?」


「敵の狙いがシユウの王子なら、君も知らない相手ではないでしょ? 貴方には、彼の護衛を頼みたいのです」


「知らない相手ではない? 何の事だ?」と首を捻るトール。


「トールさま、トールさま。シユウの王子と言うなら今朝、お会いした第三王子であるシユウのシンさまの事です」


「あぁ」とトールは今朝のトラブルを思い出した。


「俺が彼の護衛を? 大丈夫か? 俺は彼に嫌われていたと思うが?」


「う~ん、その点は大丈夫ではないでしょうか? むしろ最終的には好かれていたようにお見受けしました」


「そうか?」とトールはシンの護衛を請け負う事になった。



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