突然の攻撃は
「ご覧なさって! あれは、シユウ国の第三王子、シンさまですわ」
「隣には、次期スックラ国王のトールさまよ!」
「わ、私は一歩後ろに控えるように仕えてらっしゃる護衛のエドさまが……」
そんな声が聞こえて来た。 黄色い声援ってやつだ。
「……王族、それもシユウ国の王子となれば廊下を歩くだけで、ここまで騒がれるのものなのか?」
ため息交じりに呟くトール。 離れた位置から女子生徒から熱視線を受けるとは思ってもみなかった。正直言って、
(これはやり難い。護衛のためとは言え、ここまで注目を浴びるのは初めて――――いや、拿捕された時以来か?)
そんな嫌な記憶が蘇り、顔が少し歪んだ。
「我が国でもシン王子は人気がありますからね」とクスっと笑いながらエドは耳打ちをした。 明らかに嫌がっているトールへの追い打ち、嫌がらせのチャンスと思ったのかもしれない。
「いや、お前も凄い人気じゃないか?」
「僕はシン王子の引き立て役ですし……まぁ、慣れましたよ」
「そういうものなのか、しかし……」と女生徒たちの声に耳を澄ます。
「シン様とトール様が同室となった事は、スックラがシユウ国の保護下に入ったという事なのかしら?」
「いえ、逆じゃないかしら? スックラ国王が内定しているトールさまに対して、シンさまは第三王子。のちの王権争奪戦を見越して外部の王室関係者とのパイプに力を入れているのでしょ?」
「私が聞いた話では、シンさまに暗殺計画が……そこで冒険者でもあるトールさまが内密に護衛として学園から依頼された……とか」
時々、聞き過ごせない話が聞こえてくる。 明らかに事実が漏洩しているのが……
「おい、情報が洩れてるぞ。それも生徒が普通に噂話として盛り上がっている」
「えぇ、知っていますよ。どうやら、学園側が意図的に情報を流したみたいですね」
「?」
「ふっふっふ……不思議ですか? もしも、テロリストとやらが我が王子の誘拐計画を企んでいるとしても、これで手を出しづらくなると思いませんか?」
「……あぁ、今、生徒たちに流れている情報は学園から漏れたものか? 捕まえられたテロリストから漏れたものか? ……あるいは」
「はい、自陣に裏切り者がいるのではないか? そういう疑心暗鬼にさせるための情報誘導と言ったところでしょ」
「なるほど……」と今も本人を目の前で噂を流している女生徒を見た。
「きゃ! トールさまと目が合いましたわ!」
「トールさまと言えば、あの噂は本当かしら?」
「実はレナさまと婚姻が決まりながらも、他のに想い人がいてその人を追って学園に来たとか」
「聞きましたわ。なんでもグリア新理事とは許嫁だったとか……」
「では、三角関係……でも」
「でも? なんですの?」
「私が聞いた噂では、すでにトールさまとシンさまが同室なのは……」
「え!? そんな! 本命はエドさまではないの!」
トールはわからなかった。彼女たちが話している内容……いや、意味はわかる。
しかし、それを頭が理解を拒むのだ……
強烈な寒気。まるで未知の魔物と会った時のよう。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「なんだか、妙な疲れが……」
シンの部屋に戻ったトールはベッドに腰かけながら呟いた。
「王族なら慣れますよ。思春期の女性から好奇の視線を向けられるのは」
そんなトールとエドのやり取りを見ていたシン王子は――――
「随分と仲がよくなったなぁ。やはり、殴り合いは信頼を深めるということか」
「いや、待てシン王子。その拳はなんだ? 構えるな」
「はっはっ……冗談だ。 いや、仲が良い事は素晴らしい事だが、つい揶揄ってしまったのだ」
「まったく――――いや、待て!」とトールはベッドから飛び起きた。
そのまま、ベッド付近に無造作に置かれた防具に手を伸ばす。
「殺気が来る。 すでに俺たちは攻撃されている」
「な!」とシン王子とエドの反応。 そして、その直後――――
世界は一転した。
さきまでそこはシン王子の部屋だった……はず。
しかし、空間の色は黒へ。 そして足元から急激に草木が育つ。
瞬時に世界は塗り替えられた。 まるで世界は自然が溢れるジャングルのように――――
「これは、草木が? ジャングル? 一体、何が」とエド。 彼は訓練されたように無意識にシン王子を庇うよう動いていた。
なにが起きたのか? それはトールの口から明かされた。
「おそらく……これは結界魔法」
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