第87話 王族問答 スックラ王室の秘術?

 爆発。


 大気を震わせ、大地を鳴らす。


 それは、神の杖と見なされる落雷すらも凌駕する怪音である。


 赤と白の閃光が混じり合い、混沌とした衝撃は一瞬の拮抗も虚しく勝敗を決した。


 眩い光は消え去り、現状が露わになる。


 表するならば穴。 大穴が生まれている。


 その中心に倒れている白い影――――白龍ジュニアだった。


 三重存在に至っていたはずの体は、元に戻り従来の竜種の肉体。


 それが倒れ――――立ち上がっていく様子はなかった。


「うむ、この威力か」とルキウス王は確認するように呟きく。それから、


「電気信号に変換させた魔力の消費量。 竜種が生み出す魔力と大気から取り込んだ魔力量をもって行われた『真・赤炎封魔焔』の『息吹化現象』」


 そう、すぐさま現状把握を行った。 


「……この短時間で俺の魔力の1割も削り取ったか……」


 1割……魔力量の1割消費のよる成果としては、大きすぎるのではないか?


 そう思うかもしれない。 しかし、僅かな起動時間と1発の魔力行使による消費量と考えれば――――


「およそ実戦向きではない。所詮は試作品か。だが――――」 

 

岩場に変わった地形に1つ。敵影が浮かんでいる。


「連戦に耐えれぬ物ではないぞ。――――穿て『赤い息吹レッドブレス』」


 本日2撃目。紅の閃光が音を置き去りにして――――


 遅れた轟音が星そのものを揺らす。


「やったか? いや――――ッ!? この程度では落ちぬか」


 直撃を受けたはず……白龍ジュニアですら耐えきれない一撃を受けて……その者は人の形で留まっている。

 

「うむ、考えてしまうな」とルキウス王は影を前に笑う。


「世が世ならば――――もしも魔王討伐戦争よりも前にお主がいたら――――もしも、その時も冒険者として生きていたらお主は何ランク冒険者になっていただろうか?」


 冒険者ランク。 その実、最上位はAランクと言われている。


 ならば、トール・ソリットなどSSSランク冒険者とは?


 実は名誉称号である。


 戦争において、武勲を立てた冒険者に対して貴族のように領土、土地を与えるのが難しかった時代。


 名誉として――――無論、上位冒険者として報酬も別にあったのだが――――Sランク冒険者、SSランク冒険者、そしてSSSランクと生まれたのだ。


 ならば逆に問おう……


 戦争も終結した、この時代……最強クラスの冒険者は何か?


 無論――――


 Aランク冒険者 レナ・デ・スックラ


 今、ルキウス王が乗る機体、『人造竜種メタニックホワイトドラゴン』と対峙しているのは、間違いなく最強クラスの冒険者である。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


(先ほどの一撃。 結界と魔法防御壁を使用しても1度で破壊されました。魔力消費量から魔法戦は不利。だったら!)


 レナは接近戦を選択。 すぐさま、間合いを縮めようと地を蹴ろうとしたが――――


「待て!」


 その声は絶妙だった。 僅かにタイミングがズレれば、レナは無視して攻撃を開始していただろう。 遅くても、おそらくは同じだ。


 地を駆ける直前、脚に力を込めようとした瞬間だったために攻撃のタイミングが崩されてレナの足が止まったのだ。


「――――なんですか? ルキウス王?」


「……うむ、王族同士、1度は膝と膝を付き合わせて話さなければなるまいと思っていた」


「――――」とレナは無言で答える。ここで「話す事はありません」と断る選択肢はない。


 それは例え、戦いの最中であってでも……だ。


 ルキウスはブラテン国の王。


 レナはスックラ国の姫。


 スックラは魔王軍進軍に無血開城。 隷国となり、魔王軍の支援を行った。


 それは国を滅ぼさないための苦渋の選択だった。

 

 だが、戦後――――魔王討伐された後、スックラは人類の裏切り者とされた。


 その結果、ブラテン国を含めた4か国でスックラは滅ぼされる事になったのだ。


「私は滅ぼされた国の姫であります。だから、貴方の言葉に応じなければなりません」


「本来は逆であろう。貴方の国を滅ぼした俺だからこそ、貴方の言葉に応じなければならぬ」


「いえ、私には今、機会を与えられています。貴方に怨嗟ではなく、前に――――後ろは振り向きません」


「だが、不可解。 それならば、トールの支援に徹すればよかろう。奴が天下を取り、夫婦にでもなれば自然とスックラは其方ソナタの元に戻ろう」


「失礼ながら、それは愚問かと……」


「何ッ!?」


「国に関わる出来事を前に、自ら死地に踏み込ぬ者に王の資格はなし――――それがスックラ王室の教え」


「なるほど、世界に知られた修羅の王族。話してみれば、益々の疑問だ。なぜ魔王なんぞに無血開城なんぞを……いや、後ろは振り向かないのだったな」


「この問答は、これで終わりでしょうか?」


「いいや、最後の1つだけ……これは絶対に問わなければならない事があった」


「それは何でしょうか?」


「お主が有する怪力。 さらに兼業者ダブルワーカー――――これらお主の力は、本当に天から与えられた才なのか?」


「……何がおっしゃいたいのかわかりませんが?」


「スックラ王室に伝わる秘術――――さらに魔王軍に隷属することで得た力がお主に振る舞われているのではないか?」


「自分ではわからないですが……もし、そうなら私に勝って調べてみたらいいのではないでしょうか?」


「ほう、その言葉……負けた後に覆すなよ。お主、スックラの秘術を丸裸してやろうぞ!」


「――――女性に対して丸裸にするという表現は、どうかと思いますよ?」


「それはそうだ。非礼を詫びよう――――では、改めて……」


「いざ、尋常に勝負――――ですね?」


「応! 行かせてもらうぞ」


 ルキウス王の声に合わせて、『人造竜種メタニックホワイトドラゴン』の目が光った



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る