第86話 顕現!? ルキウス王の切り札

 多重世界論。


 この世界は複数の世界が同時に存在しているが、我々は認識できない。


 そういう説があるのだ。 


 ならば、目前で起きた白龍ジュニアの変質――――そう言う事だ。


 ここではない世界から3つの白龍ジュニアが同時に出現して、それぞれが影響を与え合っている。


 その戦力は3倍――――いや、それ以上の増量を与えている。


 だが、3倍に膨れ上がっている肉体であるが頭が3つ――――


 肉体は頭からの制御から離れての――――暴走。


 白龍ジュニアは顎を開く。 当然、3つの顎だ。


 大気に漂う魔力が渦巻くように口内に吸収されていく。


 三重の竜種が放つ息吹。 


 その効果は? その威力は?


 果たして、誰が想像できようか?


 対するルキウス王は、対抗するための詠唱を始める。


 「答えよ世界――――我は全てを手にする覇王なる者――――世界よ示せ! 我が栄光を――――」


 『真・赤炎封魔焔』


 紅い閃光がルキウス王の魔力として放たれる。


 そう……紅い閃光としか肉眼で捉えられない光の魔法攻撃。


 対して――――


竜の息吹ドラゴンブレス


 白い閃光が放たれた。


 ぶつかり合い、交じり合う。


 赤と白。 二色の閃光が混じり合い――――そして爆発。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・



 三重の自我。


 白龍ジュニアは、体は暴走しながらも、どこか精神は冷静だった。


 ――――いや、正確には馴染み始めている。


 3つの精神は1つへ統合されていく。


 周囲を見渡す。 南の島だった痕跡は残っていない。


(むき出しの岩や土……そう言えば、戦っていた。 相手は、あの金色の男はどうなったのか?) 


 生命の気配は――――いた。


 今も土煙が漂う中、蠢く虫のように動く生物。


 それがルキウス王だった。


 建国王から継承された鎧は破壊されている。 黄金の剣も折れている。


 武器も鎧もなく――――ルキウス王は笑っていた。


 絶望を前に王ですら気が狂ったのか?


 ――――否。 断じて否。


「俺が、この俺が追い詰められる……こんな愉快な事はないだろう」


(なんだ? この人間は? 絶望していない。ここまで追い詰められて――――何がある?)


「応! 応とも! 通じるぞ、その困惑! ならば見せようぞ、俺の――――我が切り札!」


 ルキウスは空に向かった手をかざす。 そして――――


「こい! メタニックホワイトドラゴン!」


 空高く、何かが光――――地上に向けて落下していく。


 それは、この国を代表する科学者――――マッドサイエンスが作り上げた王専用機。


 金属でできた魔物。 金属できた竜種だ。


 『人造竜種メタニックホワイトドラゴン


 サイズも、形も竜種を再現されている。


 既にルキウス王は姿を消していた。転送魔法だろうか?


 それを前に白龍ジュニアは困惑する。


(これは――――この感覚は―――― 母上!?)


 その通りだ。 人造竜種は、死んだ竜種を利用して作られている。


 素体として使われているのは白龍ジュニアの母親。


 かつて、トールが戦い、そして倒した白龍の遺体を回収。

 

 竜種が死に、その細胞まで死に至るよりも早く保存。


 その体を、細胞を利用して――――生きながら、機械と化した竜種。


 それが『人造竜種』なのだ!


「まさか、卑怯とは言うまいな! これぞ俺が、勝ち抜くための――――この戦いだけではない! 我が国の代表者として勝ち抜くための切り札よ!」


 コクピット――――そこに座るルキウス王の魔力に反応して人造竜種は動き始める。


 そして、その初弾こそ――――


「さぁ、放ってこい! 共に『息吹』の打ち合いを俺は所望するぞ!」


『息吹』


 人類でも最高峰と言えるルキウスの魔力が引き金トリガーとなり、竜種しか放てぬ『息吹』が再現される。


 それは従来、白龍が放つ白い息吹とは異なり――――『赤い息吹レッドブレス』だった。

 

 

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