第88話 人造竜種のルキウス王に対するレナ・デ・スックラ 

 赤く――――『人造竜種メタニックホワイトドラゴン』の目が光った。


 駆動音。 熱を排出するための蒸気が排出される。


 内部ではこの熱力、蒸気等も『人造竜種』を動かすための燃料となっている。


 その結果、異音。 おどおどしく、周囲に心理的な不安を押し付けてくる。


 巨大な機体は、そこの立つだけで圧力となり、対峙する者から攻めの姿勢を奪い去る。


 だが――――レナは前に出る。


 魔力の打ち合い。 消耗戦は不利と考えて、その巨体に接近戦を――――常軌を脱した選択を行う。


 しかし、それを可能とするレナの剛腕。


 人造竜種の巨体を持ってすら――――


「このっ!」とレナは飛び上がると、一気に人造竜種の頭部に近づく。


「弱点はわかっています!」と杖を振るった。


 レナの考えは正しい。


 従来の白龍が脳から体に命令を発するように――――


 人造竜種を体を動かすためには、コクピットは頭部。そこからルキウス王が電気信号を流さなければならない。


「だから、狙うは接近。 狙うは頭部のみ……です!」


「そう簡単にさせるものか!」とルキウス王は、飛び掛かるレナの追撃にかかる。


 人造竜種の腕を振るう。 その巨体から動きは鈍くなるはずだ。


 しかし、未来予知にも等しいルキウス王の戦術眼は、正確に――――


「――――っ!?」とレナの体を捉えた。


(遅い動作という欠点を消すために私の動きを予想しての攻撃ですか!? でも――――)


「させません!」とレナは自身に向かい来る巨大な腕。 それを真っ向から杖を振るった。


「なッ――――! この巨大な人工竜種を単純な腕力で勝とうというのか!」


 ルキウス王の驚き。 それは実現される。


 力負けした人工竜種が後ろへ下がる。 それに合わせて、レナも再び飛翔。 


「これはおまけです!」と追撃の手を休めない。


「えぇい、まだだ! まだ終わらんよ! 接近戦だって――――」


 人工竜種の鱗が極小の動きを始める。 周囲に衝撃波を起こす範囲攻撃。


「っ!? 持ってください。『華の盾フラワーシールド』」 


 花の形をした魔法防御壁が錬成され、衝撃波を防御。


 だが、完全に衝撃を消すまでにはいかなかった。


「ぐっ――――ダメージが!」と着地と同時に体をぐらつかせるレナ。


 対してルキウス王は、


「悪いが、このまま決着をつけさせてもらうとしよう」


 人造竜種の鱗に新たな変化が起きる。 鱗の複数が抜け落ち――――合体、変形。


「あれは剣? いえ……鈍器ですか?」


 十字架の形状の物体。 それが3つ――――レナに向けて襲いかかってくる。


「でも、遅いですよ? 『茨の罠スオントラップ』」


 捕縛用魔法。 魔法の茨が迫りくる鈍器を絡め取り――――


「いえ、加速しました。遅かったのはワザとですか!? このっ!」 


 2つは止める。 しかし、残りの1つはさらに急加速と停止の繰り返しで捕縛魔法を掻い潜り、レナに向かって――――


「させませんよ?」と接近する鈍器を杖ではじき返した。


 しかし――――


「さらに追加で3機……6機? 9機まで増えますか」


 人工竜種の体から9個の鈍器が発射された。しかも、どれも急加速で停止を繰り返す。


「まるで1つ1つが意識ある生物のような動きですね?」


茨の罠スオントラップ』を駆使しながら、いくつかは撃墜するも、それでも接近を許してしまう。


「この! この! 落ちてください!」と杖による打撃で叩き落してる隙に本体が動く。


 それを察知したレナは一瞬の絶句の直後「――――あの巨体でまさか!」


 人造竜種が反転して、尻尾を振るう。 その巨体から繰り出される尻尾による打撃は災害クラスである。


 ――――いや、そもそも通常攻撃が災害と同等であるのだが……


 それに対して、レナは、


「『花の盾フラワーシールド』を五重にして――――ダメです! それだけじゃ耐えれません!」



 魔法防御壁。


 通常攻撃ならば、1枚の壁でも破壊は不可能のはずだが、人造竜種の一撃は規格外。 常識など通じず、5重に重ねた防御壁を用意に破壊して――――レナを襲う。


「取ったぞ! レナ・デ・スックラよ!」


 人造竜種に乗り込んでいるルキウス王は勝利を確信した声を上げる。


 だが――――


「本気ですかルキウス王?」とレナの声が聞こえてくる。


「確かに、危険な一撃でしたが、この程度で私を打ち取れると思われるのは心外ではありませんか?」


「――――!」とルキウス王は無言で驚く。 必殺の……いや、災害クラスの一撃を防がれた驚き――――ではない。


「いつの間に世界を書き換えた! 認識できない速度で……これか! これがお主の結界魔法か!」


「はい、これが私の世界――――『聖なる領域サンクチュアリ』です」


 レナの結界魔法――――『聖なる領域サンクチュアリ


 明るく、穏やかな世界が広がっている。それでいて他者に対しての強い拒絶。


 ルキウス王は自身を排除されるべき異物だと認識する。


「この俺の自我にも関与してくるか! だが、この世界ごと削り取ってくれる――――


「答えよ世界――――我は全てを手にする覇王なる者――――世界よ示せ! 我が栄光を――――」


 ルキウス王は最強の一撃を放つための詠唱を始めた。

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