第46 敵の正体。 それは聖なる――――

 それから翌日、何事もなく徒歩での移動は続いた。


 中央都市内部に入っているとは言え、徒歩……それも数百人の集団となれば進行速度も速くはない。


 聖者候補を慕う老人や子供に合わせて歩く。 目的地である大聖堂前広場まで、残り2日というところだろうか。 


 周辺は整理された道と街並みに変わっている。


 もちろん、何もなければの話……


「それで、どうなっている?」


「あら? トールさん、どうなっているとは、何の話でしょうか?」とアナスタシア。


「貴方が封印した不死鳥の事です」


「やはり、その可能性を考えましたか?」


「……その可能性とは?」


「あれが本物の不死鳥か? あれが、本物の天使だったのか?」


アナスタシアは笑みで答える。しかし、それは……


「あまり、ここでは大きな声で言わない方がいい。 あれが偽物だったとしたら……」


「えぇ、聖・オークさんの仕込みとなりますね」


「いや、だから大きな声で信奉者を刺激するような事は……まぁ良い。そもそも、敵が不死鳥や天使を服従テイムするような存在よりは、現実的だ」


「えぇ、ギルドから雇われた私たち頭目の証言なら、信憑性の高い情報として広がるでしょうから」


「聖者として正式に認められるためのパフォーマンスか……では、不死鳥が本物だった場合は?」


「不死鳥を服従させる。 私たち北の者が秘密裏に行うのは不可能ですね。寒い場所に不死鳥は現れないわけですから……だとすれば?」


「南の町 レイ・ガナハ……いや、捕獲や運搬などを考えたら、金銭を優先させる西の町 フランカ・エチカか?」


「冒険者の名誉よりも利益を優先させる御仁ですからね。あり得ない話ではありませんね。しかし――――とりあえず、ご覧ください」


 アナスタシアに進められ彼女たちの徒党パーティが使っている天幕に誘われる。


 そこには氷漬けになり封印されている不死鳥。 しかし、様子がおかしい。


「調査するために封印をギリギリまで弱めています。ご注意を」


「あぁ」とトールは近づいて観察をする。 そして――――


「どうやら、本物の不死鳥のようだな」


「なるほど、私だけではなくトールさんも同じ見解なら間違いないでしょうね」


「なら……エチカが不死鳥を持ち込んだ?」


「まだ証拠とまでは言えませんね。これは憶測です」


「そうか……証拠が必要か」


「もしかして、無理やり証拠を作ろうとしていませんか?」


「……」とトールは沈黙した。


「黙るのは、図星をつかれた証拠ですよ」


「そうだな。もう少し考えてみよう」


 会話を終わらせて天幕の外に出る。 しかし、その瞬間――――


「殺意!? ……いや、何かが違う。初めて感じる種類の圧力」


 トールは、その方向を見る。 空気が揺れている。


 目に見えない圧力が空間に影響を与えている。


「一体……何者だ? これが、刺客か?」


 この時、トールは勘違いしていた。 この相手は刺客などではなかった。


 聖・オークの命をつけ狙い、暗殺を行おうとしていた張本人。


 つまり――――


「うん、私が200年前に捕まえた不死鳥も天使も放たれてしまったか。少しだけ残念ですね」


 それはトールたちが犯人だろ思っていたエチカではなかった。 


 その人物は、単独で不死鳥も天使も服従させる力をもつ。


 2000年に10人しか生まれない聖者。 


 そう表現されると前回、聖者がいたのは数百年前と勘違いする人も多いだろう。


 ――――いや、実際に数百年前の人物であるが、前回の聖者は極端に寿命が長かった。


 その年齢、実に――――


(たしか、350才……だが、まるで20代の女性のような容姿だ)


 そうトールは評した。


「なぜ……聖者が新たな聖者候補を攻撃する。後任者が人間ではないからか?」


「人間ではない? あぁ、そう言えばオークだとか聞きましたね」


 クスクスと笑う彼。笑い終えると――――


「いえ、何百年と生きれば人間としての感情が希薄になりますので……挨拶にしては少しだけ、はしゃいでしまってね」


「――――だったら、この敵意はなんだ?」


「試練ですよ。前任者からの試練。ただ、それだけの事よ」


「――――ッ!」


「ふむ、貴方も面白い星の下に生まれてますね。立ちふさがりますか? 無駄ですよ」


「なッ!?」とトールは腹部へ衝撃を受ける。


「私は聖者。貴方は罪人……相性は最悪と言ってもいいでしょね? ――――ほう?それでも立ち上がりますか?」


「あぁ、俺は冒険者だからな。 依頼があれば勝てない敵にだって向かって行くさ」


「面白い。では、私の名前は――――聖・ヨハネ2世」


「俺の名前は、トール・ソリット――――」


 互いに名乗り合い。


「「いざ、尋常に勝負!」」


 それを合図として同時に前に出た。

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