第45話 聖者を狙う犯人は誰か?
天使。 説明の必要はあるだろうか?
言わずと知れた神の使いだ。
それが、まるで魔物のように人を襲う事など有史以来あるだろうか?
「認めたくないからと言って天使すら
「そんな事が可能なのですか?」
「……」と沈黙。
トールですら、初めての事。 レナの問いに返せる答えを持たない。
しかし、目の前には実際に天使が人間に敵意を見せ、その魔力を人間に向けようと――――
「皆さん、落ち着いてください」
その声で戦場とも思えた空間が停止する。
一歩、一歩とゆっくりと歩を進めるオークが1人――――少なくとも1匹を呼ぶには不敬であろう。
次代の聖者として相応しい
聖・オークが人を分け、天使の前に立った。
「すまない。人の争い……欲に、貴方のような存在を巻き込んでしまって」
近づけば威圧する天使。
しかし、聖・オークは怯むことなく、それどころか笑みすら浮かべて天使の首筋に触れた。
そこに不可視の何かが存在していた。 聖・オークにはそれが見えているようで、天使の首から外す。 同時に周囲にも、それが何だったのか見えるようになった。
「……首輪?」と誰かが呟く。
おそらく天使を服従させていた首輪なのだろう。それから解き放たれると天使は――――それこそ天使らしい笑みを浮かべて、頭を下げた。
誰が見ても間違うことはない。 それは感謝の現れ。
そして、手を振り天へ戻っていく天使。
それは絵画の、それも宗教画の一枚のように――――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「この中に敵がいる」
そう言うのは、武闘派冒険者のレイ・ガハナだった。
場には4人の頭目。 それぞれに腹心的な部下を連れ、それにトールたちも参加している。
トールが初日に訪ねたメンバーと同じ顔触れ…… 違うのは、そこに聖・オークも加わっている事。
彼は「……」と無言。その場にいた全員から注目を浴びている。
彼等は意見を聞きたのではない。 犯人を突き止め、吊るし上げる許可を求めているのだ。
しかし、聖・オークは
「犯人捜しをしてほしくありません」
反対を許さない強い口調だった。
「だが、あんたの命を狙う敵がいるのは事実だぜ? ソイツが、どこの勢力に紛れ込んでいるのか? 確かめないと危険だぜ?」
「大丈夫です、これは私に神が与えた試練なのですから……」
「ちっ!」とガハナは舌打ちを1つ。それから、
「あんたはそれでいい。けど、俺たちはアンタの護衛が仕事だ。勝手にやらせてもらうぜ」
捨て台詞のように天幕から出て行った。
「さて……それじゃ、今日はお開きにしましよう」とアナスタシアが場を仕切り、解散となった。
「あっ! トールさん、少しお話があります」
「なんですか? アナスタシアさん?」
「そう警戒しないでくださいよ。 少し聞きたい事がありましてね」
「聞きたい事、それは?」
「あの時、天使が現れた時……アナタが感じた殺意は、どこのだれから放たれたものでしたか?」
「あぁ、俺が犯人を知って黙っていると思っているんですね。それは、残念ながらわかりませんでした」
「それ、本当? なるほど、なるほど……殺意なき犯行。てっきり、私は――――」
「なんだ?」
「いえ、アナタが犯人を庇っているとばかり思っていました」
「……俺が、この場所で庇うような奴は限られているだろ?」
言うまでもなくレナとグリアの2人だけ。少なくともトール本人は、そう思っていた。
「いいえ、もう1人いますよ」
「……それは誰だ? 悪いが俺自身、思いつかないが?」
「ふふん、それは秘密よ。それを私が言っちゃうと酷い事になるからね」
「……」と残されたトールはアナスタシアの言葉を考えた。
しかし、何もわからない。
もしかしたら、ただの戯言かもしれない。そう思ってトールもゆっくりと天幕に戻るのだった。
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