第44話 不死鳥。それから――――

 それは不死鳥フェニックス。 


 文字通り、死なない鳥 ――――いや、正確には違う。


 死んでも、その肉体は灰に変わり、再び蘇るとされている。


 その姿は、全身が炎に包まれている。 まるで太陽が増えたように眩い光。 


 ならば、なぜ? 誰かが疑問を声に出す。


「なぜ……どうして、誰も気づかなかった!」


 光の塊である不死鳥の接近に、どうして誰も気づかなかったのか?


 その疑問に答える者はいない。 誰もわからないのだ。


 その一方――――


 神獣と呼ばれ、高い知能を有すると言われる不死鳥。


 しかし、今の周囲にばら撒かれる叫びには、知性というものを感じさせない。


 まるで怪鳥の奇声の如き咆哮。 なんと荒々しさか?


 威嚇行動。 それは不死鳥が聖者の行進を敵と見なしている証拠。


 冒険者ギルドの護衛以外の人間は混乱を起こす。


(なぜ、神獣が我々を襲うのだ? これは、我らは正しい聖者の行進ではないのか!) 


 聖者候補者は、本物ではないのか? その信仰心の乱れこそ――――


「やれやれ、どうやら本当に敵がいるみたいだな」

 

 トールはさらに前に出る。 誰よりも早く戦闘状態に備えるためだ。


 その後ろにレナが走ってついてくる。 グリアは着替えに手間取っているのか? まだ天幕の中だ。

 

「敵……ですか?」とレナは聞き返す。


「あぁ、ここまで接近を許した方法。それに異常なほどに好戦的――――」


「誰かが、攻撃のために隠して……もしかして、服従テイムされている? そんな……不死鳥を!?」


「あり得ない話じゃない。 聖者候補者を攻撃しようとする者だ。教団関係者で地位の高い者ならば――――不死鳥だって手に入る!」


「――――ッ!」とレナは絶句する。


 教団の実力者が、聖者の可能性がある者が気に食わないからと言って、他人を巻き込んで攻撃を行うという行為が信じられなかったのだ。


不死鳥は顎を開き、火炎を――――


「させませんよ 氷結アイス


 凛とした美しい声。後方から聞こえてくる。


 その声の主は4人の頭目の1人。 北の町のアナスタシア。


 彼女から魔力が発せられ、不死鳥の頭上に巨大な氷の塊が出現する。


「GIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?」


 氷に押し潰され、怪鳥の叫びが木霊こだまする。


 だが、不死鳥は体そのものが無限の業火。 


 氷では無意味。そのはずだが……    


 「では、次に―――― 氷の世界アイス・オブ・ワールド


 吹雪。それも不死鳥の周辺にのみ吹雪が現れた。


 その正体に最初に気づいたのは、レナだ。


 「あれは――――結界魔法ですか!?」


 彼女レナも、同じ結界術士として感じるものがあったのかもしれない。


 不死鳥の業火で溶かされた氷塊。その残りが水蒸気となり、不死鳥の体に纏わりつく。


 さらに新たなる吹雪の出現によって、炎を纏ったはずの不死鳥ですら凍り付かせた。


「不死鳥は死なず……だったら封印するのが正しい討伐方法。 さて、皆さんは不死鳥が何者によって解き放たれたのか? 調査を開始してください」


 彼女の命令に「はい」と背後に待機していた腹心たち。


 封印された不死鳥に素早く近づいて調査を始める。


「凄い結界魔法です。 あれは空間を歪めて、北の吹雪を――――無限に送り込んで凍らせました」


「転送魔法との融合か?」


「えぇ、おそらくは……間違いないかと」


「あら? よく分析できてるわ。貴方も結界術士なのかしら?」


「え!? ア、アナスタシアさん!?」


「そこのトールのせいで、目立たなかったけど……貴方も中々の逸材ね。Aランクと聞いたけど、結界術士なのよね?」


「い、いいえ。私は回復術士と結界術士の兼業なのです」


「あら! 私とお揃いね。 私は結界術士と魔導士の――――」


アナスタシアは、そこで声を止めた。


新たなる敵の出現を感じたからだ。


「どこだ? どこから来る?」とトール。


「あら? 貴方ほどの男でも気配が読み取れないの?」


「むっ? どこまで俺の実力を把握している? ――――いや、そんなことよりも……」


 トールは沈黙して、意識を集中する。


 新たなる敵の気配が正確に読めない。しかし、それを放った人物の殺意は感じられる。


(どこだ? どこから、攻撃を仕掛けてくる――――そこか!)


火矢ファイアアロー


 魔法攻撃を放つ。 しかし、それを弾く敵影。


 その敵影の正体は、不死鳥どころではなかった。


 神獣など、比べものにならないほどの神性を有した存在。


 それは――――天使だった。


 天使が聖者の敵として現れた。 それは――――


 この聖者の行進を揺るがせるほどに――――


「皆さん、落ち着いてください」


 よく通る透き通った声。 それは敵意を見せていた天使すら停止させるほどの効果を有していた。 


 魔法などの効果など持たず、ただの声で戦場を止めてみせたのは――――


 聖者候補であるオーク。 


 聖・オーク


 その人、本人であった。 

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