第18話 VSホワイトマンモス さらに―――

「効いていない?」


 トールはレナの方を確認する。


「結界は持続している……魔素マナを使わず、俺の魔法を体の耐久力だけで無効化したのか!」


 驚愕……トールにも隙が生まれる。 辛うじて接近する何かに気づく。


つの!? 自由自在に伸縮するのか!」


 トールの位置はホワイトマンモスの頭部。 そこでも角の突きが届く。


 回避。 体を捻り、頭部から離脱する。   


 「――――っ! 自分の頭に角が届くのかよ!」


 直地した瞬間。 ホワイトマンモスの鼻が振られる。


 『火矢ファイアアロー


 薙ぎ払うように振られた鼻による打撃。 トールは回避と同時に魔法を放った。 


 遠心力をつけた攻撃の最中に魔法を受けて食らい、ホワイトマンモスは大きくバランスを崩す。


「効いてる……完全に攻撃が通らないわけじゃないのか?」


一気に間合いを詰める。 その巨体……足元に潜り込む。


 『火矢ファイアアロー


 下から巨象の腹部に火炎を放つ。 その巨体が浮き上がるほどの威力を込めたつもりだったが――――


 「やったか? ――――いや!」


 肉――――いや毛が燃える異臭を放ちながら、ホワイトマンモスは足を上げ――――


 トールを踏みつぶそうと攻撃を仕掛けてくる。


 当たれば、即死の攻撃。    


 大地が揺れる。 地面が平坦になるほどの連続攻撃。


 「ひぇ~ 死ぬって! 死ぬ!」とトールは言葉とは裏腹に笑っている。


(咎人時代でも、危険な魔物狩りに狩り出された時とは違う。全ての戦闘が自由だ。だから……今から全力で行く!)


 トールは仕込む杖から、白刃を煌かした。


(魔法の効果が薄いのは体を覆う剛毛。金属のような毛の塊が魔法の逸らし……あるいは威力を現象させている。だったら――――)


 トールは剣を振るう。


 『ソリット流剣術 破龍の舞い』


 武器破壊……そして、防具破壊に主軸をおいた剛剣の技。


 ダメージを入れる狙いではなく――――


 「まずは、その剛毛を刈り込ませてもらうぞ!」


 一本、一本が金属のような毛。 針のようなそれは、トールの剣によって切り取れていく。 そして――――


「それじゃ、当然……効くだろう? 『火矢ファイアアロー』」


 爆発。


 トールのそれは、生物が生身で耐えれる威力ではない。 


 ついに巨象の足が吹き飛ぶ。 


 この世界に魔物を食す者は奇人とされるが、その香ばしい肉が焼ける匂いは、魔物食の趣味のないトールですら、食欲を刺激させられた。


 「ん~ 一度、専門家に教えてもらって魔物調理に挑戦してみるか」


 そんな、本気か冗談かわからない事を言いながら――――


 「次は正攻法で試させてもらう」


 トールは――――『ソリット流剣術 獄炎龍の舞い』


 その剣技は業火の如く激しい。されども、その剣速は切れ味を加速させる。


 巨体から鮮血、深紅の花びらのように舞い散っていく。


 そして――――飛翔。


 一気に飛び上がったトールは、


 「せいゃ!」と気合を入れ、


 ホワイトマンモスの頭部に一撃を与える。


 手ごたえは十分……しかし、生命を奪いきるまではいかない。


 「BAOOOOOOOOUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」


 断末魔のような咆哮。 トールを振り払うように暴れまくる。


 ホワイトマンモス――――死の間際に近づくほど、膂力が跳ね上がっていくのを感じる。


 両者に距離が生まれると、角による刺突が繰り出される。


 「うん、もしも人に生まれれば良く剣士になっていただろう」


 剣による刺突を封じるのはトールの得意技。 


 グリフォン戦でも見せた技だった。


 突きに対して、剣が耐えれるギリギリで剣を引く。その動作を一瞬で100も行えば突きの衝撃を限りなく無に近づくのだ。


 「だが、剣技では俺に通じぬ――――『煉獄龍 攻勢の一撃』」


 お返しとばかりにトールの刺突。だが、その技は高速の――――否。


 神速に到達しえる刺突。


 深々と、ホワイトマンモスの頭部にトールの剣が突き刺さる。


 絶命……普通は命が途切れる。


 しかし、規格外の体力を持つホワイトマンモスは、まだ動き続け――――


 「背を向けて逃走? そんなバカな」


 その行動にトールは驚く。 魔物が戦うのは本能だ。


 死が近づけば、死が近づくほど獰猛に――――攻撃的に動き回るのが魔物が持つ闘争本能。


 そして、大きな怪我を負った魔物は、逃げても助からない。 


 だから、逃げる意味がない。 それが魔物の行動原理。


 「ならば――――なぜ?」


 よたよたと逃げようとするホワイトマンモスを後ろを追うと――――


 「なん……だと!? ――――ッ! レナ! こちらに近づくな。距離を取れ!」


 すでに決着がついたと認識して結界を解いていたレナ。 彼女はトールの近くまで来ていたが、彼の言葉に慌てて離れていく。


 そこには地獄が広がっていた。 


 ホワイトマンモスの家族だろうか?


 5体のホワイトマンモスが死んでいた――――否。


 正確には、殺されていたのだ。


 「誰が……いや、何が5体もの大型魔物を殺した?」


 トールと戦っていた個体が家族の元に近づくとゆっくりと力尽きていく。


 それを確認して、トールはそれらの遺体に近づいて――――その時だった。


 「地震? いや……これは――――この威圧プレッシャーは!」


 トールは空を見る。 吹雪の中、上空にはソイツが飛んでいた。

 


 


 

 

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