第17話 大型魔物の正体?
船を漕ぐ。 そんな例えもあるが、
睡魔と戦っていたレナは、体を大きく前後に揺らしていた。
おそらく、意識はないだろう。
最初の内は、
(トールさまに寝言を聞かれないだろうか? 万が一、イビキなんて聞かれたら……乙女のピンチです!)
と警戒を続けるトールとは違った緊張感を持っていたのだが、どうやら睡魔には勝てなかったようだ。
しかし――――
(こ、これは、噂に聞く同衾! いえ、それよりも嫁入り前の女性が男性と同じ屋根の下で一夜を共にするという事!)
そう認識したレナの意識は急激に覚醒していく。
(いいのです! せ、責任さえ取ってくれれば、一夜の過ちも私は!)
チラリとトールの方を盗み見る。 トールは寝袋に包まれながらも、外の様子を窺っている。
(魅力ありませんかね? 私には……)
ため息をつき、再び睡眠を取ろうと瞳を閉じた直後、何者かが近づく音がした。
何者? そもそもここには、レナとトールしかいない。
その意味に気づいたレナは、不安半分、期待半分で緊張で体を硬直させた。
(と、トールさま、本当に! わ、私でいいのですか? もしかして……これは夢?)
ついには夢を疑い始めたレナだったが、近づいてきたトールの気配は現実のものだった。
「起きているか、レナ?」
「ひゃ、ひゃい! 私は起きています!」
「しー」とトールは人差し指を自分の口に当てながら「静かに」と言う。
「えっと? ここには私たち以外、いないので声を出しても大丈夫だと……ハッ! もしかしてトールさまは、あまり乱れない方が好みなのでしょうか?」
「……何を言っている?」とトールは困惑した。 しかし、すぐに寝起きで意識が朦朧としているのだろうと判断した。
「良いか? 外に……近くに何かがいる」
レナもすぐさま、その意味を理解した。
「魔物? 目標の大型魔物でしょうか?」
「わからない。 様子を見てくるが、もしもの時は後ろからの援護を頼む」
「はい」とレナは頷いた。
深夜の野外。吹雪は激しく視界は悪い。
気配を消し、姿を消し――――何がいるのか、探りを入れるトール。
そして、それはいた。
それはまるで山。
山のような肉の塊が動いている。 そして、漂ってくる獣臭。
極寒の地で暮らすために全身を覆う分厚い毛は、一本一本が針のように見える。
そして、口の左右には大きな牙が光ってみる。
その魔物の名前は『ホワイトマンモス』
生命を淘汰した氷河期を生き延びた大型魔物だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「いくぞ」と小声で背後にいるレナに指示を出したトール。
彼女は頷き、立ち上がると魔力を展開する。
『
彼女の魔力が周辺に広がり、世界を作り替えていく。
彼女の本業は回復術師だが、もう1つ……結界術士としての魔法も取得している。
『
まだ10代の女の子と言えるレナがBランク冒険者まで上り詰めれた理由こそ、この結界による強烈な効果だ。
強力な魔物は、
レナの『
彼女が立っている場所を中心に、周辺から雪は消え去り、吹雪は止み、気温は温かさすら感じる。
それどころか、深夜の暗闇だったはずが昼間のように明るくなる。
極寒の大地、その過酷な場所で生きるために、特化したホワイトマンモスの肉体。
しかし、あまりのも違う空間に突然、送り込まれたため、
だが、ホワイトマンモスもすぐに敵による攻撃だと理解する。
そして、敵は目前に人間2人と見極め――――攻撃を開始した。
「PAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」と野生の咆哮と共に突進。
狙いは魔導士でありながら前衛を司るトールだ。
ホワイトマンモスの巨体から繰り出される突進力。 わずかに体が触れるだけで衝撃に巻き込まれ、ちっぽけなトールの体は跳ね上げられるだろう。
だから、素早くトールは走り、その突進の軌道から抜け出す。
突進の勢いを殺し、それでも数歩かけて速度を落としたホワイトマンモスは転進。
ついでと言わんばかりに、長く重い鼻を武器に振り回す。
「――――っ! この!」とトールは回避。
それと同時に、鼻に飛び乗るとホワイトマンモスの頭部に向けて駆け抜けていく。
振り払おうとする動きをものともせず、一気に頭部にたどり着いたトールは、その頭部に向けて――――
『
初期魔法でありながら、極大魔法に匹敵する彼の得意魔法が至近距離――――
いや、零距離で放たれた。
その威力は爆発と見間違うもの。 閃光と爆音が周囲を包み込む。
「……やったか?」と、その効果を確かめようと――――
「まだっ……まだです! トールさま!」とレナの声。
後方支援のため、距離を取っていた彼女には見えるのだ。
ホワイトマンモスの全貌が――――
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