第19話 狂われ龍 『粛清たる白 白龍』
失念していた。
冒険者ギルドに指示を出した行政。
冒険者ギルド自体。
そしてトール・ソリットも忘れている事があった。
なぜ、大型魔物 ホワイトマンモスが人里を襲うのか?
誰もその理由を考えていなかった。
今となっては、その理由は明白だ。 襲撃されたのだ。
大型魔物であるホワイトマンモスたちの群れは襲われ、家族が、仲間がバラバラに……あるいは死別した事によって、
大型魔物がどれ程の力を有していたとしても、人里へは彼らにとっての危険水域。
人間という生物は、個々が弱くても、特別な個体……あるいは強烈な群体が存在している。
当然の事だが歴史上、大型魔物が討伐されることなく人間を滅ぼした事など一度たりともない。
人は、この星の支配者である。 だからこそ、魔物は人を襲うだけの理由がある……とされている。 それが事実か、どうかはさておき。
問題は、ホワイトマンモスの群れを攻撃し、壊滅させた存在だ。
それほど、強烈な存在が人類以外にいるとしたら、可能性は2つ。
1つは魔族。 人に近い存在でありながら、巨大な魔力を有す存在たち。
そして、もう1つは――――
「竜種か……それも『粛清たる白
激しい吹雪を受けながら、浮遊し続ける龍が、そこにはいた。
レナは「竜が、なぜ他種への攻撃を?」と疑問を呟く。
「確かに知能の高い竜種は、滅多に他種を攻撃しない。なにか理由があるのか。それとも……」
「それとも?」
「理由がなく闘争という娯楽に狂ったかだ!」
トールは、抜き身の刃を鞘に入れる。 もしもの時、剣撃よりも魔法による攻撃を優先させた。
まるで――――実際に、こちらを観察しているのだろう。
トールは冒険者ギルドでも『
しかし、一度たりとも危なげなく帰還したことなどない。
かつて少女を守りながら
本来の龍種の強さ。その戦力とは?
SSSランク冒険者の仲間を集い、
それでも、何度となく敗北を繰り返し、撤退を繰り返し、仲間を失ってもなお――――
『
彼のカンに等しい経験則が教える。
「どうやら、
「――――ッ!」と緊張で喉を鳴らすレナ。
それから「で、では結界を……」
「いや、ダメだ」
「どうしてですか?」
「竜種なら、単純な
「それほどまでに――――」とレナは絶句した。
結界は、才能がある者だけが身につけれる特殊な魔法である。
まして、レナのように回復術士と結界術士の
結界とは、自身を中心に魔法によって、世界を自分の心情表現に塗り替えていく大魔法。
だから、その中では、結界術士の有利となる。
レナの結界の場合、
閉ざされた城壁のようであり、内部にいる者を優しく――――肉体を強化し、傷を癒す効果がある。
それが亡国の姫であるレナ・デ・スックラの心情風景というのであれば――――いや、今は止めておこう。
「今から俺が魔法で障壁と加護をかける。離れた場所からの治癒に専念を頼んだ 」
コクリとレナが頷くのを確認してトールは、
『ソリット流護衛術 聖龍の加護』
トールが有するドラゴンの力を再現する秘術。
体内に流れる気を操作させ、自身あるいは他者を強化させる技。
加えて、すぐに魔力を発動。 魔法障壁を作った。
『
炎の壁がレナの前に出現。
「魔力を帯びた炎の壁ならば
「ありがとうございます。トールさま……ご武運を」
きっと、馬車を運転していた従者を真似したのだろう。
緊張と恐怖で強張ったトールの体に撓りが戻ってきた。
そして――――彼は上空を見た。 いや、睨みつける。
トールは旋回を続ける白龍に対して、戦闘の覚悟を決めたのだ。
「我が名はトール・ソリット。汝、竜に問うぞ、『粛清たる白
旋回を続けていた白龍が動きを止めた。 知能の高いドラゴンは人語を理解し、自らも人語を流暢に操る。
そして、白龍もまた――――
空中に制止したまま、口を開く。
「人よ。人の子よ。我は龍なり――――ならば、挑もう。人に、魔に、強者に――――我が願い。誰ぞ知る? ただただ、興味がある」
「願い……何を願い、何を知ろうというのか? 竜よ!」
「ただ、純粋に負けを知りたい。 我、ただ望む。 ――――ひたすらに強者との比べ合いを! そして死の間際――――我の心に何が残るかを知りたいのだ」
「――――っ!」と息を飲むトール。
ただ純粋に戦い、敗北による死を望むと言う、その龍の勇ましさ。
(やはり、闘争に狂っているか。ならば――――やる!)
ゆっくりと自身の肉体に魔力を流し、魔を生み出す炉に燃料を入れた。
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