第11話 元イケメン騎士 カイルの過去 後編
暗闇の森の中、冒険者と少女は入り込む。
すぐに何かが、こちらを見ている。 危うい感情が乗せられた視線。
「少しだけ目を閉じておいてくれるかな?」と優しく少女に言う。
「うん」と恐怖におびえながらも目を閉じる少女。
聞こえて来たのは、威嚇の咆哮。 でも、それはすぐに――――断末魔に変わった。
「もう大丈夫だよ?」
その声で瞳を開く。 すぐに理解する。
冒険者はランプの光が死骸を照らさないように隠している。
でも、血の匂いは隠せない。
「お兄さん……もしかして、凄く強い人?」
再び手を繋いで森の奥へ進む最中に、少女は聞いた。
なんとなく、返事は自信に溢れる――――いかにも冒険者らしい答えが返ってくると思っていた。 しかし、答えは予想とは大きく違った。
「う~ん どうかな?」と自信がないような返答。
「俺は、弱いよ。だから、もっと強くなりたいんだ。今のままじゃ守れない物があるから……」
冒険者は朗らかに笑って見せた。
少女は気づいた。 彼女が物心つく前は戦争があったそうだ。
大人たちが言う戦争というものを、まだ少女はよくわからない。
けれども、ひどく恐ろしい物だという事だけは、ぼんやりとわかっている……つもり。
(きっと、冒険者さんも戦争でひどい目にあったから、なんていうか……強さ? 無茶苦茶な強さで戦争とか壊したいんじゃないかな?)
少女自身もよくわからない冒険者への評価。しかし、それは、遠い未来から見た結果論で言えば正しい。
この時の彼は、既に自身が正しいと思う事をしようとしていた。例え、大罪人となろうとも……
なぜ、彼が歴史の揺り動かさす大事件を起こしたのか? 近しい者の証言では――――
「きっと自分は捕まり処刑されるだろう。 けれども――――納得はできる」
そう、誰に聞かせるでもなく……思いつめたように口にする事が増えていたらしい。
だが、その事件を起こるすのは、数か月後の話だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ここです。ここが薬草が取れる秘密の場所だって……お父さんが……」
森の中心部だろうか? 急に開けた場所。 真夜中でありながらも地面には薬草が生えているのがわかる。
「君は、お母さんに必要な薬草を早く取って」
「う、うん」と急に険しい表情に変わった冒険者が言うように、地面から薬草を引っこ抜く。
その最中、森のさらに奥を睨みつけていた冒険者が呟く。
「流石に、もう間に合わないか。 君、こっちに……」
既に両手に持てるだけの薬草を抱きかかえている。そんな少女に冒険者は手をかざす。
すると――――
「わぁ……綺麗」
少女の周辺は白い光で包まれた。
「これは魔法ですか?」
「ん~ 残念だけど違うよ。 俺に魔法の才能はない。これはドラゴンの力を再現する秘術と言った感じかな」
『ソリット流護衛術 聖龍の加護』
――――そう冒険者が呟いた。
「いいかい? もしも俺が倒れても、この光が君を守ってくれる。 だから、本当に危険だと思ったら、俺を見捨てて森の外まで走って帰るんだよ」
少女は、冒険者の言葉がよくわからなかった。
(こんなにも、こんなにも強い冒険者さんが倒れる? 一体……一体、これから何がおきるの?)
そんな時、足音が聞こえて来た。 それは魔物が出す音とは違い、人の音……
「お、お父さん!」と少女は、現れた人物に向かって駆け出そうとする。
けど、冒険者が制止した。
「待って。君のお父さんは、悪い魔物に憑りつかれている。 心配しないで俺が祓って見せるから!」
剣を抜く冒険者。 確かに、少女の父親は虚ろな視線。娘であるはずの少女にすら目を向けない。
「ソリット流剣術 トール・ソリット……今から振るう破龍の剣」
一気に間合いを詰める。そのまま少女が見ている前で父親に剣を振るった。
「ソリット流剣術 風龍の舞い」
アッサリと袈裟斬りが入り――――少女は悲鳴を上げた。
けど、様子がおかしい。斬られたはずの父親は倒れず、そのまま動かない。
「風龍の舞いによる攻撃は、幻影の刃。 憑りついた者だけを斬る技だ」
父親は倒れない。 しかし、大きな口を開いて――――そこから信じられない物が出て来た。
木だった。 父親の体からあり得ない量の木の根が出ていく。
「やはり、木龍が憑りついていたか。 冬虫夏草なんて比じゃないな」
吐き出された根は周囲の草や木々を巻き込み、さらに巨大化していく。
「お父さん!」と少女の父親も中へ――――
「大丈夫だ。 君のお父さんは必ず救うと俺は誓った」
木々は吸収を止め、その全体図が
尖った丸太のような枝と根。 それが冒険者に向かって――――
全方向から放たれた。
圧殺を狙うような攻撃。しかし、それはトールには届かない。
『ソリット流剣術 破龍の舞い』
それは剛の剣。 鉄の防具を破壊するための剣術。
斧で斬り倒す木こりの如く、攻撃を切り倒し――――薙ぎ払う。
さらに――――
『ソリット流剣術 火龍の舞い』
トールの剣に炎が宿る。魔力や幻影ではない。
刀身に仕込まれた燃料が摩擦によって火がついたのだ。
暗闇を切り裂くようなトールの剣技。 それは徐々に速度を増し、森そのものを焼き尽くす龍のようにすら錯覚する。
「そこだ!」
何を見つけたトールの剣から炎が消える。 そして――――
『ソリット流剣術 風龍の舞い』
見えない何かと切断したのだろう。 木龍は動きを止め、それから剣を走らせると――――
「ほら、お父さんも無事だぞ」と中から少女の父親を救い出したのだ。
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