第8話 復帰後最初の依頼 少し暗雲
「話はわかりました。 暫くは私の権限で可能な限り、トールさんを守りましょう」
「すまないな。また迷惑をかけて……」
「トールさん、わたしたちは仲間でしょ? 貴方は外から、私は内から冒険者の在り方を変えよう」
「覚えていたのか? その誓い」
「はい、だから私、この年まで独身でギルド長なんてやってます」
「うっ!?」
「その責任は、またいずれ。 ……それともう1つ」
「ま、まだあるのか?」
「トールさん、私の名前を忘れてません? 一度も呼んでないですけど?」
「いや、そんな忘れているわけないだろ? ……リリア」
「はい、よくできました! それじゃ、また何かあったら訪ねてきてくださいね」
「おう! それじゃまたな!」
そう言うとトールは、レナと共に1階へ戻っていった。
入れ替わりに受付嬢がギルド長の元にやってくる。
「ギルド長この案件なのですが……って! どうしました? 床に座り込んで」
「いえいえ、少々……腰が」
「そうですか。てっきり、昔の想い人に再会、名前を呼ばれた衝撃で腰砕けになったのかと……よかった! 勘違いでした」
「……あなた、隠密スキルや千里眼スキルでも持ってました?」
「いえ? 何の事でしょ?」と受付嬢は、キョトンとした表情。
本当にわからない様子だった。
(うちの受付嬢、人を見る目を育て過ぎましたか? 無意識に察するカンが鋭い!)
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「さて、ギルド長の公認もあって、早かったですね。正式な冒険者認定」
「あぁ、本来は1日は必要ははず。もっとも……」とトールは、窓口を見る。
「魔力測定の時にやらかしたのが、いい方向に働いたかもな」
その窓口の奥、魔力を測定する水晶には『検査中 使用厳禁』と紙が張られていた。
「さて、初仕事です! どれが良いですかね?」
掲示板から依頼の紙を見て回るトールとレナ。すると背後から声をかけられる。
「おっと、君が魔力測定で水晶を壊さずに完全に制御したって子かい?」
声をかけてきたのは爽やかなイケメンの騎士。 まるで女の子の理想を具現化した王子様だ。
(いや、見せかけだけじゃなく――――そこそこ装備が良い)
「それにしてもトール・ソリットと同姓同名なんだって? 彼が脱獄した翌日に、ここに来るなんて運が悪いね」とイケメンは指さす。その方向には――――
『
精密な似顔絵が書かれている。
トールは知らなかったか、ここ10年で写真機を言われる物が広がっていたらしい。
「まぁ、君を脱獄犯と勘違いするには、いささか風貌が違い過ぎるが……学のないチンピラが狙ってくるとは限らない。どうだい? 一緒に依頼を受けないか?」
「結構です。トールさまには私がいますから!」とレナは強い口調で断る。
「ん~? レナさん。君は回復術士だろ? 後衛である魔導士とコンビを組んでも無意味じゃないかな?」
「……問題はない。俺は前衛でもそこそこやれる。それに、冒険者生活に慣れるまでは薬草狩りから始めようって決めたばかりなんだ」
「――――そうかい。それじゃ、気が向いたら声をかけてくれ」とイケメン騎士さまは去って行った。
しかし、最後の言葉の直前にその表情が苦々しく歪むのを見逃さなかった。
「レナさま? あの男の評価は?」
「悪いです」とレナはハッキリ言う。
「昔は、そうではなかったのですが……元いた仲間が解散してから、新しい仲間選びに手段を択ばなくなっている……そういう噂が流れています」
「そうか……やはり関わらない方が良いか」とトールは悩む素振り。
(……そういう輩は、総じて
「いや……」とトールは頭を振るい。改めて、掲示板を見る。
先ほど、公言した通りに薬草狩りの依頼を手に取り……
「これに決めよう」と提案した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「あったぞ! うん、これは良い薬草だ」
「……本当にいいのですか?」
「ん? 何がだ?」
「トールさまの復帰ですよ。本来なら華々しく、大きな魔物討伐の依頼でも選べば……」
「俺は脱獄犯だからな。あまり目立ちたくない……と言っても、もう遅いかもしれないが、追手が来た時は地下に潜るか、森で生活するか」
「いいえ、大丈夫です。私が国を再建したら、トールさまは国王になりますから」
「ん? いや、どうしてレナが国を再建したら、俺が国王に――――」
トールの疑問の声は途中で止まった。
何者かの気配。 魔物ではない……人だ。
(聞かれたか? いや、それにしては気配に揺らぎがない。ならば――――)
「何者だ?」とトールは気配の方向に声をかける。
「トールさま?」と不安げなレナを少し背後に下がらせる。
「流石に気づくか。流石、トール・ソリットと同じ名を持つ男だ」
現れたの冒険者ギルドで勧誘してきたイケメン。 ――――いや、それだけではない。
他に3人。 チンピラ風の冒険者……ギルドの前で絡んできた3人組だ。
トールは挑発目的に彼等を指して嘲笑う。
「勧誘してきたのに、いるじゃないか。仲間たちが」
「ふん! 目的が一致しただけの臨時だ。一緒に上へ登る仲間にはなれないさ」
「おいおい、イケメンが馬鹿にしてるぞ? いいのか、お前等?」
3人組に話しを振ると、リーダーらしき男が激高した。ただし、怒りはトールに向かってだ。
「じゃかしい! 新入りが! お前、俺らを舐め過ぎたけんのう! じゃけん、痛めつけちゃるわい!」
怒りからか? 言葉に訛りが強くなっている。
「おいおい、君たちの役割はなんだい? 新人を痛めつけて、わからせるのさ。 是非とも僕の仲間に入れてほしいと哀願するくらいの実力差ってやつを!」
イケメンが一気に間合いをつめ、トールを襲う。
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