第7話 冒険者ギルドのギルド長
「トール……トール・ソリット?」
予想外。 ギルドに来て、すぐさま正体を言い当てられたトール。
その声は、他の冒険者たちの数人に聞こえたようだが、彼等は怪訝な顔をしている。
「ギルド長……今、あの少年を……」
「あぁ、しかし、どういうこった?」
彼らの会話から、彼女は━━━━
トールの正体を見破ったのは冒険者ギルドのギルド長だとわかった。
加えて冒険者たちは、目前の少年が逃亡者であるトール・ソリットと結びつかない。
だから、なぜギルド長は少年をそう呼んだのか? 疑問符を浮かべている。
ギルド長当人はと言うと、驚きと混乱。 すぐさま、他の言葉を発せられない様子……
だから、逆に言えば――――
切り抜けられる。
そう判断したトールは片膝を地面につき仰々しく頭を下げた。
「ご無沙汰しています。かの逃亡者 トール・ソリットと同郷……ソリット村から来たトール。 同姓同名となるためご迷惑をおかけします」
「え? ……そ、そうでしたわね。 貴方、私の部屋に来なさい」
「はい」とトールは彼女へをついていく。
当然、レナも一緒に……彼女は神妙な面持ち。
背後では、
「なんだ、やっぱり別人か」
「当然だろ? トール・ソリットって剣豪の部類だろ? あのガキは魔導士だぜ?」
「だが、このタイミングで同じ名前の奴がやらかすなんてツキのないやつだ」
HAHAHA……と陽気な笑い声が聞こえて来た。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
―――ギルド長室―――
「あらためて久しぶりだね。まさかギルド長になってたなんて……凄い出世だ」
「えぇ、全く……気づけば苦労の絶えない立場になってましたよ。……って! いえ、違います! トールさん! なにしてるんですか!」
「何って冒険者に復帰しようと思って」
「と、トールさんは逃亡犯なんですよ! 自首……は止めときましょう。 とにかく姿を隠さないと!」
「いや、逃亡犯だとしても先立つ物がない。働かねば!」
「勤労意欲が高すぎです! 働かなくてもトールさんなら何とかなるでしょ! 最悪、私の家で匿っても……」
そんな2人の様子に「……あの」と手を上げるレナ。
「2人はお知り合いなのですか? それも、親密な印象をお受けしましたが?」
「親密って、少し堅い言葉を使うわね、貴方」とギルド長は少し冷静さを取り戻したようだ。
トールは、そんなギルド長を指さし「まぁ、戦友みたいな感じだ」と説明を始める。
「俺が冒険者になった頃に、ギルドの受付嬢として入って来たのがコイツ。同じ新人同士で励まし合いながら……いろいろあった」
「そう、いろいろあったわね」とギルド長は感慨深く思い出したようで、
「主に、貴方が依頼の範疇を超えて暴走する後始末が私の役目みたいになってたけれどね」
「むっ……それは、すまなかった」
「いいわよ。昔の話だわ……って復帰するのよね!? うっ……先代のギルド長が胃を痛めていた気持ちが、もう理解したわ」
それから、ギルド長はレナの方を見て――――
「そう言えば貴方は、もちろんトールの正体を知っているのよね?」
「は、はい!」
「貴方、名前は?」
「レナです! 名字は……ありません」
この時代、名字がないという事は珍しくない。
だから、彼女は正体を隠すために本名であるレナ・デ・スックラと姓まで名乗る事はない。
「そう……貴方が、レナさん。若手でも有能だと聞いています。頑張ってくださいね……それは、そうと……」
「は、はい?」とレナは、不穏な空気を感じた。
「あなたの方はトールさんとはどういったご関係なのかしら? ずいぶんとご親密な印象だけれども?」
ピシッ!と空気が凍り付く音がした。
しかし、レナは気にしている様子もなく、どこか頬を赤く染めて、
「はい、トールさまとは……将来を誓い合った仲です」
「はい!?」とギルド長。
「ん? んんん?」とトール。
「トールさん、ちょっとコッチに来てください」とギルド長は部屋の外に誘導する。
トールも外に出ると、
「ど、ど、どういう事ですか! 私というものがありながら! それにあの子、まだ未成年です! この国の法は未成年との交際は禁止されている行為ですよ!」
「待て、何かの間違いだ!」
「何かの間違いがあったって認めましたか!?」
「そんな事は言ってない。誤解だ!」
「誤解ですか、誤解…… ごかい…… ご、ご、五回も、そのような行為を!」
「もう黙ってろ!」
ガチャと言い合いを終えた2人が戻ってきた。
「えっと、レナさん? 私たちは勘違いしてしまったかもしれませんが…… トールさんと将来を誓ったとは、どういう意味ですか?」
「はい、結婚を誓いました!」
「はい! 死刑! ちょっと刑務所に通報してくるわ」
「待て待て待て……それは洒落にならない! レナ! お前もどうして、そんな事を?」
「どうして? トールさまは憶えていませんか?」
「えっと……どの話でしょうか?」となぜか敬語になるトール。
「初めて会った日、私を強く抱きしめて……そなたを守り続ける……と」
「……」とトールは無言になった。
初めて会った日。 レナを脱獄させるために大立ち回りした。
そこで確かに言ったセリフであるが……
(そういう意味じゃねぇ!)
トールな心の中で絶叫した。 思い出すのは、まさに戦場そのまま。
次から次へレナを奪還に迫りくる兵士、冒険者、傭兵たち。
(その流れで、攻撃を庇うために抱きしめたのであって! 守るって言ったのも! そういう意味であって!)
頭を抱えるトール。 不意にギルド長を目が合うと――――
「
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