第2話 グリフォンとの戦い。そして脱走
グリフォンの威嚇。
「GAGAGAGIYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
その咆哮が聞く者の耳を揺らす。
しかし、対峙するトールには動揺の色は見えない。
(あの鈎爪……この配られた剣の強度では受け止めれない。それに今の俺の体力ならば――――)
「ソリット流剣術 水龍の舞い」
トールの足さばき。
体に上下のブレが消え、地面を滑るように――――水に流れるように移動する。
対するグリフォンは、そんな事は関係ないと主張するかのように
「GUGIYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
と咆哮により威嚇と同時に飛び掛かる。
その動きは荒々しくも速い。 大型猫科動物のしなやかさ、猛禽類の素早さと鈎爪の鋭さが加わり、一流の冒険者でも容易に回避は不能。
――――そのはずだった。
当たらない。 一撃、二撃と振るわれる鈎爪は宙を切る。
グリフォンは苛立ちを隠せない。 ついには第三の武器である
放たれたのは、まさに渾身の一撃。
「なるほど。確かに、なまくらの剣など……いや、上物の剣でも粉砕する威力を有しているな」とトールは呟く。
しかし――――
それでもトールは剣で受け止めた。
なまくらのはず、それも剣の腹……刃の部分ではなく脆いとされる平な部分で受け止めた。
極小の動き。
真っ直ぐ伸ばした腕。剣が衝撃で砕ける直前で僅かに腕を引く。
再び限界を向かえた剣が砕けるよりも早く引く。
嘴による刺突を受け止める動作の最中。それを瞬時に、100回は繰り返せば、剣に伝わる衝撃は皆無となる。
達人技……いや、神技と言って良いだろう。
「ふぅ……」と呼吸により、体から動きの硬さを取り払う。
そして――――
「今度は、こちらの攻撃だ」
緩やかな動きから、放たれたトールの突き技。
先ほどグリフォンと戦っていた勇士同様、トールが、どれほどの技を持っていたとしても切れ味が増すわけではない。
しかし、それだ。 さきほどの勇士が傷つけた僅かな傷跡。
トールは、そこに精密な技で突く。
一度ではダメージにならない。 並みの剣撃なら弾く、強靭な皮と肉。
だが、ダメージは溜まっていくものだ。
何度も、何度も、何度も、同じ個所を突けば、いずれはグリフォンの体を貫く。
無論、グリフォンだって黙って殺されるつもりはない。
素早く動き、鈎爪と嘴の連続攻撃。
攻撃は最大の防御。 戦闘のために生まれた魔物は、本能として知っている。
絶え間ない攻撃を行う事でトールの攻撃を防ごうとしているのだ。
さらに何か狙いがあるのか――――
グリフォンの切り札がトールの頭部を狙う。
不規則で鞭のように撓る何か。 それはグリフォンの尻尾だ。
グリフォンの肉体は獅子。 本来、獅子の尻尾と言うのは……可愛らしさすらあるが、武器として使用した時、レンガ2つを砕く威力があるそうだ。
まして、グリフォンの体は従来の獅子よりもかなり大きい。
尻尾の威力も――――人の頭部くらいなら容易く砕くだろう。
だが、そうはならなかった。
「ソリット流剣術 獄炎龍の舞い」
トールはカンターを狙い剣を振るった。
なまくらの剣。 切れ味など、あってないような物。
そのはずが――――何かが宙を舞う。
赤い鮮血をまき散らしながら、切断された尻尾が高く上がり、落下していった。
「これでとどめだ。 煉獄龍 攻勢の一撃」
火が付いたよう見える苛烈な一撃。 それはついにグリフォンの胴を貫いて見せた。
「GUGUGAGAGAGAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?」
それは
一瞬耐えるように見えたが……よろめき倒れ――――
そして絶命したグリフォン。
様子を窺っていた咎人たちはもちろん、男爵を護衛する正規兵ですら絶賛の声を上げる。
しかし1人だけ、ブレイク男爵だけは「……」と無言で顔を顰めている。
「お父様……ここは、お見事と声をかける所ですわ」
娘、グリアに話かけられ、ブレイク男爵も強張った顔をほぐす。
「お、おぉ! そうである。 咎人よ……見事であった! 大義であるぞ! 他の者も続け!」
士気の上がった咎人たちは、次々と森の中へ勇ましく進んで行った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
トールは空を見る。 いつの間にか太陽の位置は大きく動き、山に姿を消そうとしている。
「そろそろ、頃合いか……」
彼は自身を拘束する首輪に手を伸ばした。確かめるように手触り……いや、実際に確認しているのだ。
「構造は……協力者の事前情報どおりか。これならやれる!」
無理に引きちぎろうとすれば、内臓された魔力が一気に噴き出て装備した咎人の命を奪う。
それは、トールだって理解していたはずだ。 ならば、これは自殺なのか?
――――否。 断じて否だ。
今もトールには不屈とも言える闘志の炎が瞳に宿り、強く強く揺れている。
牢の外にいる協力者は、首輪の製作者を探し出し、その脆弱性を調べていた。
それによると、首輪には誤爆を起こさぬように安全装置が備わっている。
そこに魔力を流し込み、安全装置が誤作動を起こす。 しかし、許された時間は1秒にも満たない。
だが――――
「ふん!」とトールは首輪を引きちぎった。
トールは業火に身を焼かれる事はなかった。
「なんとか、生き残ったか。さて――――」
彼はニヤリと笑う。 心なしか、やせ細っていた彼の顔や肉体に厚みが戻って見える。
彼の剣の流派 『ソリット流剣術』には、肉体をコントロールする術があるのだ。
それを使い、体が酷く衰えた――――それでいて反逆の意思のない咎人を演じていたのだ。
しかし、今の彼は――――
「これが自由か」と呟き、天を仰いだ。
首輪と鎖で繋がれていた彼は、絶望した咎人像だったが、
しかし、本来の彼は――――
いや、トール・ソリットはそのまま日が沈みゆく森を走り抜け脱走を開始した。
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