元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!

チョーカー

第1話 咎人 トール・ソリット

 異臭が漂う地下室。 暗闇の中、通路を灯す蝋燭の光だけが揺らいで見える。


 カッカッカッ……と規則正しい足音が5つ。廊下から聞こえてくる。


 「番号1502 トール・ソリット……生きているな。出ろ!」


 「うっ……うぅぅ……」と、いきなり室内を照らされ、咎人は呻き声を上げる。


 やせ細った四肢。 伸びた髪と髭…… 


 その風貌は老人のように見えるが、彼――――


 トール・ソリットは20代後半。


 若き体が、枯れ木のようになるまで、過酷な幽閉生活を送っている。


 しかし、鍵を開けて牢の中に入ってくる武装した男たちは、油断を見せない。


「では、外出用拘束着のつけろ」


「はい」と男たちが取り出したのは首輪だった。 むろん、ただの首輪ではない。


 脱走や反逆を企てた咎人をいつでも始末できるように高い魔力が流れている。


 もしも咎人が、看守に逆らえば魔法の獄炎が肉体を焼き尽くすだろう。


 「終わりました。 鎖の拘束も解いています」


 「うむ……お出かけの時間だ。その前に――――」


 看守の上司と思われる男がトールに向けて手をかざす。


 「その恰好で貴族さまの近くに連れて行くわけにはいかぬわな。……間違って死ぬなよ」


 男は下種な笑みを浮かべると魔法を行使する。 


 『水球アクアボール


 その手から放たれたの大量の水。


 大量の水圧を浴び、悲鳴を上げるトールだったが、逆効果。 それは彼等の嗜虐心を掻き立てる燃料でしかない。


 「ほらほら、1週間ぶりの洗濯はどうだ? さぞかし気持ちいいだろ? 聞こえぬぞ! 感謝の声がな!」


 周りの看守も止めるどころか蔑笑を浮かべていた。


 牢獄に送られる以前のトールはSSSランクの冒険者だったと看守たちは知っている。


 自分よりも遥かに強者を虐げる。 それは弱者にとって最上の愉悦となる。


 「ほら、新品の服を用意した。さっさと袖を通せ。地上に出たら飯だ。仕事ができるように最低限の飯を用意している。這いつくばって食えよ」


 よたよたとトールは立ち上がり、言われた通りに服を着て看守たちの後を歩く。


 不意に後ろを振り向き、自分のいた部屋を見るも「おい、早く歩け!」と看守に殴られ、急がされる。


 そんな彼が、何を思っているのか? それは――――


(今日で、ここも最後だ。 俺は二度と戻ってこない)


そんな闘志ににもよく似た決意が目に宿っている事に看守たちは誰も気づかない。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 魔物狩りモンスターハント


 魔王亡き後、それでも地上で闊歩する魔物は滅ぼすべき存在だ。


 それを行うのは地域を統治する貴族の仕事。 しかし、それは長い年月をかけて娯楽のようになっている。


 現に、馬車を改造した戦車に乗る貴族の傍らには、彼の娘が付いている。


 そんな彼女はトールに気づいて近寄ってくる。


「あら、貴方……まだ生きていたの?」


 まだ14、15くらい。


 幼さの残る少女は貴族令嬢と言うよりも女騎士と言う方が似合って見える。  


 そんな彼女にトールは「……」と沈黙を返す。 


 トールの身分で彼女に話しかけるわけにはいかない。 もし話しかければ、どんな処罰が行われるか?


 少女は知っておきながらも――――


「無視ですか? 咎人の立場でいい度胸ね。 魔物狩りは始まったら……覚えておきなさい」


 看守たちと同じ嗜虐的な笑みを浮かべている。


 彼女の名前はグリア・フォン・ブレイク。 つまり、ここら周辺を収めるブレイク男爵の1人娘となる。

   

 ・・・


 ・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・


 「さぁ、行け! 咎人ども! ドラゴンでも狩って見せたなら恩賞は自由の身をくれてやる!」


 ブレイク男爵の号令――――いや、号令と言うにはいささか下品ではあるが、その檄によって咎人たちは一斉に動く。


 進軍する目的地は魔物が潜む森。 


 咎人たちは、およそ100人。 全員が剣を手に、防具を布の服。裸足のまま駆け出していく。


 男爵のいう事は本当だ。 大物の魔物を1匹倒すだけで刑期は1年減らされる。


 目の色を変える男たちの中、トールはゆっくりと歩いている。


 (――――久々に持った剣。 やはり重いな。ずいぶんと体がなまっている)


 素振り。ただ片手で剣を振るだけの簡素な動き。 しかし、その動きは見る者が見ればわかる。


 ブレイク男爵と娘のグリアは不快そうトールを見つめ、


 咎人の中でも名前が知られる剛の者もトールに注目する。


 そんな中――――誰かが叫んだ。


「グリフォンだ! グリフォンが出たぞ!」


 獅子の肉体に鷲の顔。 それでいて、そのサイズは一般的な獅子を大きく上回る。


 その鈎爪は鉄の鎧すら容易に切り裂く。 優秀な冒険者なら5人編成で挑み、それでも勝てるかどうかの強敵。


 誰かがグリフォンに突きを放った。 しかし、皮を斬るだけで、それ以上は分厚い肉に阻まれて致命傷には、ほど遠い。


 ギロリと最初に手を出した咎人を睨みつける。 


 怪鳥の如く鳴き声。 それと同時に鈎爪が咎人に向けられ、突き立てられた。


 その男も、最初にグリフォンに攻撃を行う胆力……きっと相当な腕前だったのだろう。


 防御が間に合い剣で受け止める。


 しかし、男は信じられない表情を浮かべ――――事切れた。


 受け止めたはずの剣が叩き折られ、男の体と突き破ったのだ。


 再び、怪鳥の鳴き声を上げると、手当たり次第に周囲の咎人たちを蹴散らせていく。


 「ふん、やはり咎人ではグリフォンは倒せぬか。 正規兵、矢を放て。咎人どもの被害は考えるな」


 「――――いえ、お待ちください。あれを!」とグリアが止める。


 彼女が指さす先、トールがグリフォンの前に立っていた。


 

 

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