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――百円おばさん、というのをご存知だろうか。
『ちびま○子ちゃん』の単行本にも話が載ってるので、結構有名かもしれない。静岡の都市伝説だとか、時には怪談扱いされたりもする。
要するにこういう話だ。道端で突然、見知らぬおばさんが近寄ってきて、「百円ちょうだい」とか「百円貸してくれない?」とか声を掛けてくる。あげれば損だし、拒否したらしたで、おばさんは舌打ちや捨て台詞を残していくものだから、はなはだ不快で、迷惑だ、と。そして、そのおばさんの存在は、数世代に渡って目撃されていると言う――
「ねえ、百円ちょうだい」
目の前の少女が、俺を見上げて再び言った。
身長は120センチくらいか。おかっぱで、黒いワンピースに小さなポシェットを肩から提げている。小学一、二年のように思われるが、その顔つきはどこか大人びていて、俺は見下されているような気さえした。
「……ちょうだい、って……? お嬢さん、これは俺の金だよ」
俺は顔を引きつらせながらそう言った。すると、少女は鼻から軽く息をついた後、こんな風に言ったのだ。
「なぁんだ。やっぱり……。その感じじゃ、勝てなかったのね。ま、当然よね。カジノのゲームなんて、客が負けるようにできてるんだもの」
俺は途中までは勝ってたんだよ……!
「でもおじさん、どうせ何千円もドブに捨てたんなら、哀れな少女に百円くれたって変わらないんじゃない? ね、百円ちょうだい?」
俺は舌打ちをした。それから左手でスマホを出し、グーグルを開きながら少女に言った。
「あのね、俺は調べた事があるんだ。そうやって人の善意に付け込んで小金をせびるのは、『
そういう事。それこそが、『百円おばさん』の正体だ。しかし少女は悪びれもせず言った。
「犯罪は『立派』じゃあないわよね」
「っ揚げ足取るなっ……! 小遣いもらってんだろ? 恥ずかしくないのかよ。親の顔が見てみたいね。金ってのは本来働いて手にするもんなんだよっ。欲しけりゃ親の手伝いでもしろ!」
俺はまくし立てた。興奮気味の俺の顔を、少女は一度、殺意でも込めるかのように睨みつけたが、間もなく鼻で笑って、こう言った。
「金ってのは本来働いて、ね。バカみたい。……フン……。いいわ。バカは私ね。ギャンブル中毒の負け犬に、何頼んだところでムダだったわ」
少女はわざとらしく溜め息をつくと、くるりときびすを返した。俺は歯ぎしりをしながら、右手に百円玉、左手にスマホを、これでもかとばかりに握りしめていた。
が、その時。不意に俺の脳裏に、ある考えが浮かんできたのだ。俺は急いで左手のスマホを操作すると、右手を開いて百円玉を見つめ、ほくそ笑んでから、声を上げた。
「お嬢さん! 俺と一つ、ゲームでもしないか?」
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