シャルロッテとマフ
第33話 あれからのシャルロッテ
帝都は様変わりしましたけれど、わたしは元気です。
手紙を書こうと思ったら、最後に入れたい締めの一文しか思いつかない。
文化教養の授業で読まされる古典文学の作者も、こんな気持ちだったのだろうか。だとしたら、文字を書くことは苦しいばかりで、直接声を届けることの方がずっと楽だ。それに、手っ取り早い。
シャルロッテ・ヴィレアムはふうっと息を吐いて、首をこきりと鳴らした。首を鳴らす度に、亜麻色の髪がさらさらと揺れ動く。
生誕祭の椿事から、ラファリア皇帝陛下の即位、急速な軍拡、亜人種の帝都移住の自由化と、帝都はめぐるましい速さで変わっていった。
仲良くなれそうだったグレーテルも帝都を去り、学院にも活気が無い。
だから、こうしてシャルロッテは文を前にしてうんうんと唸っている。
カフェテリアでそんなことをしていたら、以前は奇異か白い眼で見られたはずだ。だけど、今は恐れるような目があるだけだ。
「やあ、シャルロッテさん、難しい顔だね」
と、声をかけてきたのは、フーゴ・フレンデルだ。
見た目は知的なオークと揶揄される同級生の少年である。
「いつ見ても、でっかいねえ」
人食い姫との決闘は語り草だ。
「鍛錬しているからね。誰かへの文かな?」
人に見られる所で羽ペンと便箋を持っていれば、『見られてもいい文(ふみ)』であると判断するのが貴族だ。
「うん、リリーさんに」
フーゴの顔が引き攣った。
今の状況でサリヴァン家に与するというのは、反体制にいると宣言するようなものだ。
「もう少し慎ましくした方がいい」
「いいんじゃない。ヴィクトールおじ様も、コンラート先生だって謹慎だけだったし」
「あれは、……泳がせて反応を見ているのではないか」
「どうかな。暴れて欲しいから好きにさせてる気がするけど」
「町方のケンカとは違う」
「一緒だよ。立場が変わっても、やることなんて一緒だし」
学院に通うようになって、シャルロッテの実感したことだ。
貴族、平民、亜人。違いはあるけれど、本質は人間でしかない。
「随分と、こわい考え方だよ。それは」
「そうかなあ」
フーゴとも気安い仲になった。
シャルロッテは大きく伸びをして、すっかり冷めた紅茶を飲み干した。
美味しい。以前は凄く高価だったが、今は安く買える。
「こんな美味しいのをリリーさん毎日飲んでたんだよね」
「大貴族が慎ましくするのは罪だよ。今の状況は恐ろしいことだが」
帝国経済は貴族の放蕩がなければ成り立たない。
「お家の御取り潰しってヤツね。ケッセルリンクさんも泣いてたから」
件のケッセルリンクさんは、お家が改易となり学院を去った女生徒だ。彼女のこれからは苦難の連続だろう。
齊天后様のお達しで、国庫を開放しての放蕩と軍拡が始まっていた。
一部税の撤廃、荘園権利の剥奪、反乱を誘うような悪政を敷いている。
「特権が一つ消えるだけで、借財を返せぬようになるものだよ。領地持ちというのね」
「難しいね、雲の上の世界は」
そろそろ昼の時間も終わる。
恐怖、嫌悪、好意、期待、極端な視線にも慣れた。
リリーは恐怖や奇異の対象であったというのに、今では貴族の多くが彼女の帰りを待ち望んでいる。
現体制、ラファリア皇帝陛下と齊天后の暴政を打破できるのはないかと、怪力乱神を求めているのだ。
リリーと仲良しのシャルロッテにも、そんな無責任な期待と敵視の目が集まってくる。
うざってえな、と思う。
授業が終わったら、サリヴァン家の帝都屋敷へ向かう。
マーケットは様変わりしていて、亜人の露天商が増えた。
人間の食べる料理は味付けが濃すぎたり薄すぎたり、虎人や蜥蜴人たちは彼ら用の店で食料を買い込むことが多い。
露店は雑多な人種が行き交っている。これも、少し前までは見られなかった光景だ。
孵化するちょっと前の卵を茹でて、半分できあがった茹で鳥を食べる蜥蜴人を見た時はうぇっとなったけれど、後ほど興味本位で手を出してみると美味しかった。
「うーん、あれ凄く気になる」
テーブルに竹の筒が置かれた屋台だ。
屋号を示す旗には、にょろりとした長虫が描かれていて、マジか、と思って見ていたら案の定、白くて柔らかそうな虫の幼虫だった。
がっしりとした体格の騎士らしき若い男が、もくもくと昼日中から呑んでいる。
虫を大事そうに一匹ずつつまみながら、焼酎を呑(や)る。表情には出さずとも、美味そうに食べる男を見ていると、ごくりと息を呑みこむことになってしまった。
塀の上を歩く時のような、落ちるかもしれないけどやめられない、あのうずうずした感覚が背中を走る。
お財布を見てみれば、銅貨が少しと銀貨が一枚。虎の子の銀貨であれを買える。
買ったらあの場で食べないと、絶対に後で食べない。
「あ、あのう、それって美味しいですか?」
気が付けば、問いかけてきた。
突然なことに男は驚いた顔をした。学院の制服を着た女子に突然話しかけられたらそれは驚くというものだ。
「……美味しいよ」
「ありがとうございます」
「……」
妙な沈黙が降りた。
こういう時、妖精が通ったとかいうらしいが、近くに妖精はたくさんいる。
正確には邪妖精というらしいが、きらきらとした大きな黒目が特徴の妖精だ。邪悪で可愛らしい見た目をしていて、たまに人を喰うのだとか。今は、帝国の法に従っているらしく人を襲うことはない。
よし、一匹だけ食べてみよう。
店主であるらしい蜥蜴人は黙ってこちらを見ている。
「あ、あの、一匹だけ、一匹だけっていけますか」
「いいよ。銅貨七枚」
高い。
銅貨四枚でそこそこいいものが食べられる。
店主は竹筒の蓋を開けると、長い菜箸で優しく芋虫を取り出す。
職人の手つきだ。柔らかいものをそっと取り出して素早く大きな緑色の葉を敷いた皿に乗せる。くねくねと動く虫に弱った様子はない。元気そのものだ。
皿は、陶器ではなく木製である。
銅貨と引き換えに受け取れば、その皿がほんのりと暖かいことに気付く。皿の冷たさが虫の生気を奪わないようにしているのだろう。高級食材ならばこその気遣いである。
シャルロッテは息が荒くなっていることに今になって気づいた。
こんなものを食べるなんて、どうかしている。
「これは御代はいらない。一緒にやって下さい」
流暢な公用語で蜥蜴人は言った。
差し出されているのは、透き通った酒、焼酎の注がれている杯だ。先客の騎士がやっているものと同じだろうか。
屋台にテーブルは一つしかないため、騎士の隣に座った。
皿の上でのたうつ幼虫。
これを食べるのか。
隣の騎士は箸を上手く使っている。
シャルロッテは箸が苦手だ。何百年も前に異文化と共に持ち込まれ、今ではごく一般的に使われるようになった箸も、平民出は使う機会も少ない。
とりあえず、酒を一口舐めた。
舌が焼けるようで、やっぱり焼酎はお父さんの味だ。まだ早い気がする。
「……尻から食べる。頭は最後だ」
こちらを見ずに、隣の騎士が言う。
「ひゃ、は、はい、ありがとうございます」
箸で優しく、優しくつまむ。潰してはいけない。
唇に蠕動する尻が当たって、全身に鳥肌が立つ。
目を瞑って、尻を噛み千切れば、臭い。臭いけどクリーミーで甘くて、虫としか言いようのない味がする。口の中が地獄だ。
反射的に杯を取り、焼酎を流し込む。喉が熱い。
店主と騎士の四つの瞳がじっと注がれている。
残すのは失礼すぎるし、吐いたらもっと失礼だ。
涙目でまた一口。
まずい。
訳が分からなくなって、また杯を口に運ぶ。焼酎を甘く感じた。
「あっ」
しまった、杯が空だ。
「……気にしなくていい」
騎士が自分の徳利から焼酎を注いでくれた。
「あ、ありがとうございますぅ」
さあ、あとは頭だ。
胴体がなくなってもまだ動いている。
どんな味だろうか、最後に食べるんだし今までよりは美味しいはずだ。
今から食べる相手と目が合う。
口に放り込むと、更なる虫臭さ。
虫としか言いようがないとんでもない味だ。しかも、ちょっと硬い。苦い。コリコリする悪夢。
もう無理。
杯の中身で口を洗うように、一気に流し込む。
「ごちそうさまでしたっ」
騎士は小さく頷いて、また自分の食事に戻る。実に美味しそうに食べる。
ああ、また取り返しのつかないことをした。
自己嫌悪に陥る中で、視界がぐらぐらする。
「あの、ありがとうございました、色々と……」
「別にいい」
騎士はどこまでもぶっきらぼうだ。
よく見たら、なかなかいい男である。
暗い茶色い髪の毛と青い瞳。少し気難しそうで、寡黙なのが似合う渋い男前だ。眉間の皺は想像できても、笑顔は想像できないタイプである。
頭を下げて席を立てば、足元がふわふわする。
強いお酒は苦手だ。
ふらついていたせいか、前から来た人とぶつかってしまった。
「おっと、危ないぜ。お嬢ちゃん」
「あ、ごめんなさい」
ああ、また失敗した。
とりあえず、少し歩いて酔い覚ます。それから、差し入れの材料を買おう。
くさくさした気分だからといって、変な冒険はするものじゃない。
マーケットを往こうとしたシャルロッテの耳に、背後から悲鳴が飛び込む。
「なにしやがんだっ、放せ」
先ほどぶつかった男が、先客の騎士に腕を捻り上げられている。
「そこのお女中、こいつがキミの財布をすった」
「えっ、うそ」
財布は革紐付きでしっかり懐に、無い。
ぷらんと断ち切られた紐だけが制服の裏地に繋がっている。
酔っていたとはいえ、見事な
「受け取りなさい」
騎士は財布を投げる。緩やかな放物線を描いてシャルロッテの手に財布は収まった。古着の切れ端、中でも華やかな柄を繋ぎ合わせて母が造ってくれた財布だ。
「ありがとうございます」
「詰所に連れていくから、キミも来てくれ」
「あ、はい」
こればかりは帝国臣民の義務だ。急いでいるからといって、このスリを放り出したらマーケットの店主たちに足をへし折られる。それは少し可哀想だ。
昔からの倣いとして、お上に突き出されない泥棒は両足をへし折られる。アメントリルの辞めさせた古い悪習のはずだけれど、こういった刑罰の伝統はなかなか消えない。
ざわざわとしている通行人の奇異の視線にさらされながら、マーケットを通り過ぎて兵士の詰所へ。
誰が被害者かは一目瞭然ではあるものの、酔っている所はあまり見られたくない。別に飲酒は悪ではないのだけれど、昼日中からマーケットで虫を肴に焼酎を舐めていたというのは知られたくない。バレたら聖女候補は剥奪だろうか。
「それもいいかな」
平和な時は浮かれていたけれど、今は重すぎて放り出したい。
リリーのように戦う道もあったのかもしれない。例えば、教会に出向いてアメントリルの巫女として齊天后を
雲の上、天上人たちで大切なことは決まる。そんなの当たり前だ。
友達の力になりたかった。
肩書だけは立派なのに、その肩書はリリーの帝都追放にはなんの役にも立たなかった。手紙を書いたって届くはずがない。
みんな噂している。
人食い姫は巡礼の途中で死ぬはずだと。不名誉司祭とされたアヤメも、二人とも殺し屋に殺される。帝都を出てからの消息は知れない。
届くはずの無い手紙の文面に何を悩んでいるのだろう。
わたしはこんなに馬鹿なことができるくらいに、元気で、毎日普通に暮らしているのに、なんにもできやしない。
「うっ、く、うう」
目の前が歪んでぼやけるので、歯を食いしばっていたら、しゃくりあげるものがあって、声が出る。
「おい、泣かないでくれよ。俺が悪かったから」
スリのオッサンが慌て始める。だったら最初からスリなんかするな馬鹿。
「ううっ、ちがっ、んんん」
ついには泣きべそをかいてしまって、もう何がなんだか分からない。
天下の往来で何をしているのか。この恥さらしのシャルロッテは、こんな子供だから、友達を助けることもできやしない。そんな風に、自分のことを悪く思う。
「お女中、使われよ」
「ひゃい」
騎士が差し出したのはハンケチではなく手拭だった。きちんと折り畳まれていて、几帳面な性格が出ている。
あんまりに泣きすぎて鼻が詰まっていて、鼻をかむ。あ、借りてるのに凄いことしちゃった。
詰所につくと、兵士たちは親切に話を聞いてくれた。
泣いた少女にスリのオッサン、それに騎士と兵士。みんな、なんとはなしに混乱している。
片付くころにはすっかり日が暮れていた。
詰所を出て、騎士はシャルロッテを学院の寮まで送ってくれると申し出た。断ったが、「一人で帰すと、私の評判が悪くなる」の一言に押し負けた。
「まあ、その、元気を出してくれ」
相乗りした馬の後ろで、シャルロッテは騎士の戸惑うような声を聞いた。
「あ、いえ、ご迷惑をかけてしまって、あの、洗って返します」
「別にいい」
冷たく聞こえるが、気遣いを含めて、きっと本心から言っているのだろう。
大きな背中だ。ほんのりと汗の、男の匂いがする。
鎧を着る人の背中は大きくなる。リリーの背中はここまで大きくなかったな、と思い出して、またも鼻の奥がツンとし始めた。
「酒で悲しみは消えない。気をつけなさい」
「はい、お酒は強くないんで、気をつけます」
なんだか格好のいいことを言う。
ポクポクと馬はゆっくりと、人の歩み寄りも早く歩く。
馬上から見る帝都の街並みは、見慣れているのに違った姿を見せてくれる。
「暑くなりましたね」
「夏だからな」
「お酒、好きなんですか」
「嫌いではない」
「あの虫、美味しいですか」
「……私は好きだ。焼酎とよく合う」
とりとめもないことを話す。
しばらくして寮の前に着いて、騎士は手早くシャルロッテを馬から降ろす。なんだか事務的で、もう少し姫君のように丁寧に扱ってほしくなった。
「では、な」
別れの言葉も、簡素だ。
「あの、お名前を」
少しだけ、騎士は逡巡した。
「ジーン、ジーン・バニアスだ。しがない騎士だよ」
「今度、洗って返しにいきます」
「別にいい」
「どこにいけば会えますか」
虫を美味そうに食べる男が、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「城の騎士に名前を出して預けてくれればいい」
おや、意外に位の高い人らしい。
「はい、そうさせて頂きます」
最後だけは、学院で習った淑女の礼で頭を下げる。
「失礼する」
「ごきげんよう、ジーン・バニアス様」
これで合っていただろうか。
面目が保たれているといいな、とシャルロッテは思う。
次は、もう少し良いところを、聖女らしい淑女ぶりをみせたい。
◆
礼服に身を包むジーン・バニアスが水晶宮を足早に行く。
第三皇子、いや、今は皇帝陛下に取り入った簒奪の立役者。
準子爵でありながら近衛騎士長の肩書を得た野心家は、その肩書に相応しい畏怖と蔑視を集めて進む。
水晶宮の奥深く、最も厳重な警戒のなされた
屈強な騎士が扉を開けば、邪妖精たちに出迎えられて奥に通される。
「お呼びですか、齊天后様」
豪奢な揺り椅子に座るのは、真紅のドレスに身を包むされこうべ。
片膝をつき
『ひひ、見ておったぞ。邪妖精に身を捧げたお前が、騎士の真似事とはな』
「わが身は帝国への忠誠そのものにございます」
利用し利用され。それだけの関係だ。
『あの女の素性を知らぬとでもいうか』
齊天后様は機嫌がよろしくないようだ。
彼女は時折、歳の往った女のように意地悪を言う。
「シャルロッテ・ヴィレアムと申しておりました」
どんな厭味が待っているかと思いきや、齊天后は殺気を漲らせた。
『貴様が何やら抱えておるのは知っておる。妾に害をなさぬのならと思っておったが、何かをするつもりであるならば』
ジーンは、今の齊天后にはどうやっても敵わないことを理解している。これまでは綱渡りで、今は薄氷を踏むようなものだ。氷の地面が、怒りの炎で割れようとしている。
「帝国を民主主義とやらで侵す未来の悪女と同一か、確かめたまでにございます」
切り札を一枚捨てるハメになった。
『ギヒッ、お前も妾と同じか。それともラファリアの小童と同じか』
されこうべの眼窩に狂気の炎が宿る。
「……答える義理はないかと」
『妾とお前、進む道が同じならよいな』
「帝国が壮健であるのなら、志は同じと考えております」
『つまらぬ男じゃ。……それに、信用できんようになった。絶え間ない戦の世界、よもや、裏切りはしまいな?』
「帝国を立ち直らせるために、齊天后マフ様を世に解き放ったのです」
齊天后マフは、ジーンの瞳の中で燃え盛る狂気にも似た輝きを確かめる。自らと同じであるからこそ、共感を得ることができる。それは、狂っているから理解できる歪な共感であった。
『まあよい。あの妖精は共通の敵でもある。シャルロッテか、主人公シャルロッテ。くふ、ははは、天使のような女の子か。穢れの鳥を使って見ておったぞ、お前は隠しキャラかなにかかの。まあどうでもよいが』
齊天后マフは骨の指で、虚空から一冊の本を呼び出す。
炎と共に現れたというのに、焦げることもない本を開いて、それを読みこむ。眼窩の炎は瞳の代わりだが、その視線を読むのは難しい。
『ああ、そうか、今は夏じゃから、イベントもあるな。妖精めを誘き出す絶好の機会ではある。妾も動くぞ』
「……水晶宮の守りはいかがされる」
『こうすればよい』
暴風の如き魔力の高まりが、びりびりと空気を震わせる。
ジーンは息を呑んだ。
揺り椅子の齊天后。その影が泡立ち、人の形をしたものが這い出してくる。
長く艶やかな黒髪は影の中でも美しさを損なわない。きらきらと輝く紫の瞳に、狂気の炎。顔立ちは整っていて、まるで深窓の令嬢のよう。それが、逆に不気味だ。
影から現れ出でたのは、一糸まとわぬ裸身の少女である。
シャルロッテと比べて幼いと分かる体つきに、齊天后マフと同じ邪念と絶望の宿る瞳。不吉が形をなしたような少女であった。
「ジーン、学院の制服を用意して。あと、適当な身分も」
その声はマフのものと同じ。微かに幼さを感じるという程度には少女のものに聞こえる不自然な声である。
「分身のようなものですか」
「はは、
「本体様は、動かせるので」
『この体になってから、三つの分割思考ができるようになった。造作ないことよ』
化け物め。
人のことを言えた義理ではないか。そう思って、ジーンは自嘲的に笑んだ。
「極秘にとのことでしたら、私の妹ということにでもしますか」
「それはいいわね、お兄ちゃん」
怖気が走る。
『我が分け身を宜しく頼むぞ、あにうえ殿』
「帝国のために」
片膝をついて、少女マフの手にくちづけを。
確定した全ての未来を否定し、帝国を、愛する祖国に誇り高い未来を。
そのためになら、人を捨てることも、戦も、簒奪も、厭わない。
ジーンは骨の髄まで、はしごの形をした神経までも騎士である。
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