第19話 吸血鬼の回廊
形はできている。
技術や小手先というものは、もう良い。
リリーの修行はとても単純なものだ。
シャザと打ち合うのみ。
一つ一つに殺気の乗った一撃だが、命を奪うものではない。だとしても、幾度も死を感じることで心が悲鳴を上げる。
吸血鬼の巣穴は静寂の支配する地だ。
始祖の巣穴にこもる吸血鬼たちは、自らが蟲とならぬように精神と肉体の鍛錬を続ける日々を過ごしている。
吸血鬼の回廊に描かれる退廃と美は、過去の戒めである。
光ある土地を追い立てられた吸血鬼。彼らは、東方に起源を持つという邪宗の僧のように修行の日々を送る。
シャザとリリー、修羅が二人の修行は吸血鬼の巣穴に熱を与えていた。
◆
殺人剣とは、人を殺すためのもので忌避すべきという印象がある。
太平の世において、いつしか剣は精神性を持つようになった。
殺人剣とは、守りの剣である。
人が人を殺す理由はどこにあろうか。多くは貧困と恨みである。
恨みは人を鬼に変える。貧困は人を獣に変える。
活人剣は敗者を自らの世界観に絡め取り弟子とするものである。対して、殺人剣は命を絶つことに特化する。
理想を言うならば活人剣に分があるだろう。
リリーの剣、必殺の息吹は殺人剣である。
シャザの剣、不殺の弔流は活人剣である。
息吹とは、人を、魔を殺す業だ。生かされた敗者は恨みの鬼となる。鬼が野に放たれれば、多くの人が傷つくことになる。そして、鬼が復讐を忘れることはない。
敗者を生かすというのは、そういうことだ。いつしか、自らを刺し貫く刃を持つ鬼を生み出すに等しい。
故に、ひとたび剣を抜けば、敵の命を奪わねばならない。それは、自らも、自らの大切な者をも護ることに繋がるからだ。
リリーの師は、その生き方から超然と生きるしかなかった。
子供時代のリリーを助けるために命を賭したのは、その生き方に意味を求めたからかもしれない。
さて、活人剣と殺人剣が混じり合えば、如何なる剣となるか。
打ち合う音が地下の古戦場に響き渡る。
その昔、アメントリルの率いた勇者たちが始祖の吸血鬼と戦ったとされる広いホールでのことだ。
リリーとシャザが打ち合っている。
互いに殺し業をおしげもなく使うが、リリーが打ちのめされている。
倒れては立ち、倒れては立ち。
地下空洞にいると、時間の感覚がなくなる。
倒れ伏して、リリーが息を整えていると、目の前を足のたくさんついた虫が通り過ぎた。
地下に響く風音は反響する。
どれも、今まで見たことも聞いたことのないものばかりだ。
殺す気で打つというのは、普段からできるものではない。そり代わりとして行うのが、壺の上で踊る修行である。
自らを自己暗示で死の淵に追い込むために、壺の上で踊る。
今は、踊らなくともシャザが追い込んでくれる。
幾度も幾度も、死ぬ一撃が寸止めで放たれていた。その一撃の殺意は本物で、何度受けても慣れるものではない。
強さとはなんだろう。
如何なる精緻な剣を身に付けても、ちょっとの油断で格下に抉られてしまうこともある。何も原因は争いだけではない。人間はすぐにちよっとしたことで死ぬ。
シャザはそれをよく知っている。だから、異常なまでに用心深い。
シャザは食べ物から飲み物に至るまで、全てを自分で用意しており、人から出されたものは口にしない。
なぜかと問えば、腹を壊して死ぬこともある。と返事が返ってくる。
食べ物の相性で人は死ぬ。蕎麦の実を食べた旅人が行き倒れている姿は幾度も目にした。
ザビーネはこの過酷な世界でどう生きたのだろうか。夜鷹は辛いだろうと思う。
今までは考えもしなかったことだ。
そうして、また、シャザの戦杖が下腹の前で止まった。
地獄の痛みであろう。
下腹を貫くというのは、子を造らせぬようにするということだ。以前はただ狙われたと思うだけだったが、今は底意地の悪い剣に憎悪が燃える。
憎しみで人を斬るな、と師は言った。
剣を高みに登らせるための精神性だと思っていたが、今は違うのだと分かる。
憎しみで振る剣は、狂熱の冷めた後にどれほど重くのしかかるか。師は、自らの味わった地獄をリリーに与えたくなかったのだ。
「さあ、続けましょう」
シャザは息を整えて言った。
「お願いします」
倒れるまで打ち合うだけで強くなれる訳ではない。だが、今はそれだけを行っていた。
これこそが、リリーの望む生まれ変わるための修行であった。
◆
リュリュは帝都に帰るべきところを、吸血鬼の巣穴に滞在していた。
ウドとの問答である。
「そもさん」
「せっぱ」
吸血鬼の聖堂に声が木霊する。
五百年前には赤子の血で満たされていたという大釜の鎮座する穢れた地下の聖堂は、二人の言葉による決闘の場であった。
「昨日まではザビーネ殿の話でしたが、今日は違うことを話しましょう。司祭長リュリュが問います。蛇蝎のウドや、いかにして蛇蝎となりや」
「……物心がついたときには、細作の里にいやした。母親と父親は知りません。そこで産まれた者はみな、番号で呼ばれます。あっしは、七番でした」
「続けなさい」
「何を」
「あなたのそれからです」
「修行ですよ。痛いや苦しいなんてのは、気の持ちようなンです。死んでねえのに死ぬほど痛いなんておかしいでしょう? まあそれに気付けないやつは細作には向いてねえんです。あっしはこの通り背も高くないし骨も大きい訳じゃあねえんで、立ち回りは上手くなりやした。小手先もね、自信はありますよ」
「友はいましたか?」
「はは、そういうのは細作には難しいんでね。それに、三二番までいましたけど、最後には三人しか残らなかったんで。へへ、十二まで生き残れるのは三人ってとこなんですよ。多分、あれは地獄っていうんでしょうねえ。年をくってもずっとそんな調子で、ある時にね、嫌になっちまったんです。もういいや、ってえね。だから、里が滅びた時にスタコラサッサってなもんで」
ウドの語る言葉は投げやりで、最後には早口で捲し立てるような有様となっていた。
「嘘でしょう。何がありましたか」
リュリュは権謀術数の中で生きた女である。
五十年を教会という魑魅魍魎の渦巻く中で生きた女であれば、男の嘘を見抜くなど造作ないことである。
「何もありやしません」
「ここにあるのは、老い先短い婆です。言いなさい」
ウドはわざと大きく舌打ちをした。拗ねたような仕草である。
「裏切ったンですよ、あっしじゃァありません。一緒に生きたヤツなんですがね、ええ、そいつがね、里の場所も何もかも吐きやがった。皆殺しですよ。あっしは派手に死んでみせる術でなんとか逃げ延びましてね。その裏切り者をぶっ殺しちまってからは、雇われ仕事の細作になったンでさァ。大したことねえ話です」
「裏切り者はどんな人ですか」
「男ぶりがよくてね、気に喰わないヤツでしたよ。それが女なんぞに狂いましてね、ハハハ、よくある話です。里がなくなっちまうと汚れ仕事しかできないもンです。汚いことをするってんで蛇蝎のごとく嫌われたってェ訳です」
「その男は、あなたの友でしたか」
「あンなヤツが友であるもんかっ。あいつは、俺を裏切りやがった」
「友だったのですね」
「そんなことはどうでもいいッ。俺はそれから、ただ生きてたンですよ。小金が溜まったんで、気まぐれに惨めなサビーネに技を教えてやったンでさ。興味本位ですよ、どうなるか試してみたかったんでさ」
リュリュは、ウドの頬を張った。
張った手が、熱を持って痛む。
「嘘を言うことはありません」
「嘘じゃねえっ」
「そんな顔をして何を言うのですか。ただ、分かりました。あなたは、産まれた時から大人だったのでしょう。子供でいたことがないのでしょう」
リュリュはウドの頬に手を伸ばす。
逃れようとしたウドは、足をもつれさせて尻餅をついた。こんな失態が自分にあるはずがない。
問答とは、時に問う側の心までをも貫くことがある。諸刃の剣という言葉があるが、言葉とは柄も鞘も無い剥き身の刃だ。
「あなたに必要なのは、親と友です。わたくしが、あなたの母となりましょう」
リュリュが先に涙を零した。
涙もろくなったものだ。
鉄の女と呼ばれていたというのに。
アメントリルの教義を否定するため、自らの手先である司祭や修道女を幾度も死地に送った。
秘密裏に消された者、二目と見られぬ姿にされた者、同じだけの悪を与え、受けた。どれほどの因業を重ねたか。
彼女たちは、リュリュのために逝った。
きっと、あの者たちを動かしたのは信仰ではない。
母の命ずるままに悪に手を染めて、倒れていった。庇護した女たちの眼差しは、尊敬から母への思慕へと至る。それに気づくことなく、六十歳を過ぎていた。
行き場をなくした女たちを取り纏めているつもりだった。彼女たちは、俗世間から切り離された可哀想な小娘たちは、リュリュに母への愛を捧げていた。ただそれだけのことだったと、今になって分かる。
「なんと罪深いことをわたくしは重ねてきたのか。ウドよ、お前は今日より我が息子です。あなたの悪業はこの母が背負いましょう」
男を抱きしめるなど吐き気がすると思っていたが、我が子であると言っただけで、嫌悪感は霧散していた。
ウドもまた、老いた母に抱かれて、とうに枯れ果てたはずの涙を落とした。
問答は救いの道を見つける行である。
◆
「スザンベイに帰るから、お兄ちゃんも元気でね」
と、吸血鬼の少女は言った。
「誰がお前なんぞの兄だよ。さっさと帰って坊ちゃんと乳繰り合うんだな」
吸血鬼狩りの伊達男は、吸血鬼の少女にそう言った。
見た目は少女だが、港町スザンベイから一人でやって来れる立派な吸血鬼だ。
彼女からすれば散歩のようなものでしかない。
日光を克服した新たな吸血鬼の一人である。
「ふん、あの人のためにわたしは生きてるのよ。あなたには感謝してるけど、坊ちゃんなんて舐めた口は利かないでね。怒っちゃうわよ」
「お前があいつのために人として生きるんならな。敬意を払うよ。人食いの化物になったら、俺を呼べ。人のまま逝かせる」
「イヤなヤツ。スザンベイに来ることがあったら顔を出しなさい」
「ああ、茶ぐらいは出せよ」
「もちろん、とびきりのを用意しておくわ。また会いましょう」
吸血鬼の少女は吸血回廊の闇の中に消えた。
この大地の隅々まで続くとされる地下の回廊は、伊達男もその全容を知らない。
「闇狩りがどうして吸血鬼と仲良くするのですか?」
アヤメは伊達男に呆れた顔で問うた。
吸血鬼は不倶戴天の敵である。始祖の吸血鬼に勝てるとは微塵とも思えないが、闇狩りは闇に堕ちても魔物とは馴合わないものだ。
「ここにいるヤツらは無害だよ。あいつらは虫から人間になろうと必死なのさ。さっきのガキは、その結果出来た新しい吸血鬼なんだがな」
吸血鬼、蚊人間とでも呼ぶか。
彼らは、虫であるが故にあらゆる種族から恐れられ、人間の進歩と共に滅ぼされつつある種だ。
吸血鬼が他種族を支配するという夢想を捨てて、人と交配を繰り返すようになり五百年。世代を重ねた今、かなり人間に近づいた。
伊達男の敵は、その流れに逆らう近親婚を繰り返して古い血を保持している連中である。
「ふん、どこまでいっても蚊人間は蚊人間でしょう」
「ここにいる連中も虫になっちまったヤツの始末はつけてるさ。皮肉なもんだよ、俺の敵から新しい吸血鬼が生まれて、人になりたいと思ってるヤツらは血を吸わずに生きる方法を捜してる」
始祖の吸血鬼は、それが進化なのだと言った。
滅亡に向けて進む古い吸血鬼の中から、人を食物として見ることなく愛を持って交配しようとする者が生まれる。
彼女が人との間に作る子もまた、人と交わるだろう。そして、時間と共に吸血鬼は人間に統合される。
「……シャザが弟子を取ったってなら、俺もそれに倣おう。お前にはああいう修行はいらん。俺の経験と技術、そっくり渡してやる」
にやりと、伊達男は笑った。
伝説の闇狩りが、その全てを伝えると言うのか。
「それはそれは、本気ですか。私たちの戦い方は、人に教えては意味をなくしますよ」
「俺が、その程度で負けると思われたなら心外だな。ま、それよりもだ」
伊達男はアヤメをじろじろと、無遠慮に、見る。
「なんですか」
「殻を破ったな」
「何を仰います」
「分かってるならいい。時間は限られている、教えていくから、最低限だけでも覚えろよ」
「かしこまりました、先生」
「そういうのはケツが痒くなるぜ」
闇の怪物が邪悪であるなら、それを打ち倒すには怪物を上回る邪悪にならねばならない。
だというのに、あらゆる悪と戦い続けた男からは邪悪さを感じない。
不思議だ。
アヤメにとって、リリーのために命を賭したあの瞬間は、全く理解できない狂気の世界である。しかし、あれから、何かが変わってしまった。
リリーが嫌いだ。だが、どうにもアレを仲間だと思ってしまっている。背中を預けて戦うことができると、心が先に理解してしまっていて、そんな自分が分からない。
闇の奥深くで、地獄の旅に向かう仲間たちは新たな産声を上げていた。
◆
リュリュが帝都に戻ったのはそれから一か月後のことだった。
帝都はすっかり様変わりしていた。
空を飛ぶ人面鳥に人々は慣れ、バザールには亜人の店が増えた。そして、戦場の匂いのする者たちが大手を振って歩いている。
虎人の傭兵が槍を担いでそぞろ歩くなど、以前の帝都では考えられなかったことだ。
リュリュは宮廷に上がる前に、装いを変えた。
伝統様式の司祭服である。が、アメントリルの台頭以後につけられるようになった、赤い十字の腕章を付けている。
水晶宮に上がり、皇帝陛下の前で頭を垂れた。
「長らくの不在、お詫び申し上げます」
「よい。面を上げよ」
「巡礼の旅に出たリリー様はお亡くなりになられておりました。このリュリュめが、供養を済ましております」
「そうか。儚いものよな、人の命は」
リュリュはラファリア皇帝を見やる。
飛ばした鳩が届いているならば、真実は見えていよう。しかし、とんでもない男である。十六の腹芸にはとても見えぬ。
『司祭長殿、どうして首を持ち帰らぬ』
齊天后マフが横から口を挟んだ。
なんと不敬な。皇帝陛下の御前で言葉を遮るとは。
この態度、許し難い。と、そう思った者たちも言葉は出さない。この怪物の力は、皇帝陛下の後ろ盾だけに止まらないからだ。
「死した者にそれ以上の責苦を味わわせることはないでしょう。私の言葉が信じられないというのなら、齊天后様もお調べになるとよい。ヴェーダ市民の前で、息の根を止められております」
『……口を慎めよ。教皇の椅子に座りたいのであればな』
「齊天后様こそ、戦をしたいのであれば、教会の威光をお考えになることです」
この瞬間、マフはリリーが生きていることを悟った。
放った目が潰されたのは分かっている。しかし、この女が裏切るとは思っていなかった。
『やはり、人任せではいかんようじゃのう。くふふ、これもまたゲームのようなものか。リュリュ殿、良いものを見せよう』
齊天后マフがその手に持つ輝く杖の石突で、床を突いた。
奇跡の術により光り輝く魔法陣が描かれ、そこから人が現れる。
「なんと」
あまりのことに、リュリュが驚きの声を漏らした。
白銀に輝く教会騎士の鎧。青色の光を放つ槍。黒髪黒目に平たい顔。そして、背中に生えた漆黒の翼。
アメントリルの率いた勇者、その一人。
伝説に語られる七聖人が一人、黒の戦乙女カグツチの姿をそのまま再現した者がそこに現れていた。
「マフ、なんの用?」
『リリーの首を持ってきておくれ、カグツチよ』
「オーケイ。それが命令でいいのね」
『ほほほ、それが済めばまた眠らしてやろうぞ』
カグツチは、侮蔑的な笑みを浮かべると、来た時と同じように姿を消した。
「アメントリルの率いた勇者を模したのですか」
『いいや、あれは本人じゃ。今は妾の手にあるがな。ユリアンと死神にの、墓所を捜させたのよ』
「屍から、蘇らせたとでもいうのですか」
『命令を終えれば土に還る木偶じゃが、魔法前衛職であれば間違いはあるまいて』
リュリュはその場で神に祈った。
マフの手を借りるなど、魂を悪魔に売り渡すに等しい。死者を自在に操るなど、おぞましい地獄の御業だ。
「なるほどな、墓を荒らして蘇らせたか」
皇帝陛下の怜悧な声。瞳に、怒気が篭っていた。
『木偶にすぎんよ。お前たちと同じな』
不敬であると言って斬ることができれば、どれほど幸せか。
今は手も足も出せない。
ラファリアは水晶宮から見える空を見た。
人間のこととは関係なく、青い空に雲が流れている。
未だ、心は折れず。
◆
修行にかけた時間は一か月にも満たない時間だった。
吸血回廊を北へ真っ直ぐに五日進めば、地上への出口に辿りつく。
打ち壊された廃墟の隠し扉へ続いており、そこから地上へ出て西へ四日進むことで、帝国辺境の入り口とされるセザリアの港へ出られる。
そこから先へは、海路で脳男とやらを目指すことになる。
「世話になりました」
リリーが言えば、シャザは笑みを浮かべだ。
「必要なことは教えました。胸を張って行きなさい」
吸血鬼の回廊でも別れの挨拶は済ませている。
黒々とした闇に支配される吸血回廊であれば、マフが追跡に使う人面鳥の目も誤魔化せる。
見送りは、シャザと伊達男の二人のみ。
リュリュは一足先に帝都へ戻っている。
ウドは首から下げた金の聖印に祈りを捧げていた。それは、リュリュの持ち物だった聖印である。別れ際に、これがあれば女の僧院が力になってくれると言っていた。
「似合わないことをしますね」
と、アヤメが茶化すと、ウドは照れ笑いを浮かべた。以前の彼なら、何か気の利いた皮肉で返していただろう。
ミラールを地下まで連れてきて、ここで荷物を括りつけているのは、新たに雇い入れた馬子のルースである。物狂いだが、馬に関しては一流の男だ。
死出の旅となるのに、ミラールを任せるという条件に食いついた。
この回廊での出会いとは反対に、静かな別れとなった。
言葉で贈れるものはもう無く、この先の旅もまた地獄。ただ見送るのみ。
「師よ、また会いましょう」
「はい、いつかまた」
闇の中へ消えていく一行を見送ったシャザは、伊達男と共に踵を返した。
シャザの美しい顔に、こわいものが混じる。
「剣呑だな」
「ええ、今から、わたくしたちも自らの因縁に決着をつけねばなりません」
始祖の吸血鬼は、リリーを試せとシャザと伊達男に命じた。人のために剣を振ることをしない二人を動かすだけの報酬がそこにあった。
報酬とは、金銀に加えて伊達男の父である吸血鬼の所在である。
「この場合は、シャザ姉さんか、それとも兄貴と呼ぶべきか」
「難しい問題ですよ、それは」
伊達男の父の名は、ユリアン・バール。そして、シャザの前世の母を誑かした男もまた、ユリアン・バール。
帝都の貴族学院で三百年も享楽を続ける女衒と揶揄されていた吸血鬼だ。そして、今は齊天后マフの手先として、墓荒らしのユリアンと呼ばれていた。
因果の糸車は、くるくると廻り巡る。
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