第39話 NICE BODY & NICE PUNCH

 マリリン達がお風呂でワイワイキャピキャピやっている頃。

 キッチンでは……。


「相棒! 聞いてくれ相棒!」


「やかましいわアホ! 今飯作ってんの! 静かにしてくれ!」


 俺が必死に食事の準備をしていると、暇すぎるブライアンがしつこく絡んでくる。


「おらぁ!!」


 遂には、俺の怒りの鉄拳がブライアンの腹筋に突き刺さった。


 ボフ……。


「何すんだ、相棒!」


「何すんだじゃねぇよ。つまみ食いしてんじゃねぇ! それ無くなったら作れねぇだろが!」


 ブライアンは口に入れているニンニクニンジンを吐き出す……。


 しつこく絡むだけならまだいい。

 だが、ブライアンはことあるごとに俺の隙を見て、つまみ食いをするのだった。

 これだけは許せん!

 料理に対する冒涜だ!


「相棒カリカリすんなだぜバーロー、ウマ! これウマ!」


「言ってるそばから……。出てけこのやろぉ! 馬小屋にぶちこむぞこら!」


 俺は我慢の限界だった。

 すると、ブライアンは意外にも大人しくなる。


「すまねぇ相棒、新しい家貰っちまってよ。俺っちうれしくて……。」


「あげてねぇから! ここ、俺の家! お前の家はあっち! あっちの馬小屋!」


 俺はスズカさんの家の方を指した。

 ちょっと失礼であるが許して欲しい。


「かたい事いうなよ相棒!俺っちと相棒の中だぜバーロー。」


 くそ! このやろぉ~。

 こいつの邪魔がなければ料理の隙を見て、こっそり楽園を覗きにいったのに……。


 俺は初の温泉イベントのフラグを立てたくてうずうずしていた。

 俺のイライラはそのせいでもある。

 ブライアンの度重なる妨害により、俺の計画は破綻しているのだった。


 温泉! 美女!

 ときたらどう考えても覗きフラグだろ!

 なんで俺はキッチンで馬面と漫才してなきゃなんねぇんだよ!

 不公平だ!


 ガンガンガン!


 世の中の他のラノベの主人公に不公平感を隠せない俺は、激しく地団駄を踏んでいた。


「おう、ところでよ相棒。マドンナちゃんの事なんだが……。」


 !?


 いきなりブライアンは爆弾をぶっこんできた。


 忘れてた!

 マドンナちゃんの事忘れてたよ!

 やっべ、そうか……。

 今日あそこ行ったんだよな……。


 あそことは、俺達が森に行く前に行った、鞍や手綱を売っている店が並ぶ商店街である。

 あの時俺は、マドンナちゃんの嘘はどうにでもなると思っていたが、大豪邸建設に頭がいっぱいで忘れていたのだった。


「お、おう。どうだった? 戻っていたか?」


 俺は必死にごまかす。


「それがよぉ、戻ってるには戻ってるんだけど、なんか元気ねぇんだバーロー。」


 ブライアンは落ち込みはじめた。

 こんなブライアンは珍しい。


「俺っちがいくら話かけても上の空っていうか、なんかずっと化粧パタパタしてんだよバーロー。」


 馬が化粧だと!

 バカも休み休みいってくれ……。

 なんだそのギャグ漫画は!


 そう思う俺であったが、下手な事が言えないため、ちょいちょい探りを入れる。


「へぇ……い、いい人でも見つかったんかね? それとも余りの恐怖で混乱してるのかな?」


「お? 相棒もやっぱりそう思うか? 俺っちもそう思ってよ、言ったんだよ。結婚しようって。」


「ぶ!!」


 盛大に噴き出した!


 おい!

 なんだそりゃ……。

 いきなりプロポーズかよ!


「へっへぇ~……。、でどうだったんだよ? おい! この色男!」


 とりあえず、俺は話を合わせる。

 しかし、ブライアンは哀愁を漂わせた顔で言った。


「振られちまったよ……バーロ。好きな人ができたからあなたとは結婚できないってよ……バーロー。」


 そうか。

 なんか今日のブライアンはいつもとテンションが違うと思ったらそういうことか……。

 必死にやせ我慢してたんだな。

 なんかそう思うと可哀そうに見えてきたな。

 少し慰めてやるか……。


「そっか……。ブライアンの良さをわからないなんて、マドンナちゃんも見る目ないな。元気だせよ! 馬娘なんて星の数程いるさ!」


 すると、ブライアンは目を潤ませた。


「相棒……相棒だけだぜ! 俺っちの事をわかってくれるのはよ! バーロー!」


 あたりさわりのないよく聞く慰めの言葉は、どうやら単純なブライアンには深く刺さったようだ。


「ところでマドンナちゃんが好きな人ってどんな馬なんだろな……?」


 馬族の顔の違いのわからない俺は、他の馬族がどんな相手を好きになるのか若干興味が湧いた。


「それがよ。よくわかんねぇんだ……。なんか最近村に現れた人族らしくてよ。」


 ん?

 この村に人族はたまに訪れるのか?

 へぇ~会ってみたいな。

 色々聞けるかも。


 俺はマリリン達以外(長老は抜かす)にこの世界で人にあった事はなかった。

 それゆえに、もしかしたら自分の知らないこの世界の事を色々聞けるかもと思い、その人に会ってみたくなった。


「んで、どんな人なのよ? そいつ。」


「なんか……白いシャツ姿で短いパンツ履いてて、ちょうど相棒が持ってるような玉を持ってたってよ。」


 へぇ~Tシャツねぇ……。

 そういえばこの世界では珍しいのかもな。

 あとボールかぁ……。

 ボールねぇ〜……。


 !?


 つうか、どう考えてもそれ俺だろ!

 ふざけんなよ!

 俺のハーレムに馬面ヒロインが入り込む余地はねぇ!


 どうやらブライアンが話している謎の男の正体は俺であることが判明した。

 だがブライアンは気づいていないらしい……。


「まっ……まぁ……も……もしみかけたら教えてくれよ。俺も興味あるからさ。でも俺はさ、そんなブライアンを振った女のことよりも、もっと素敵な馬娘を探す事の方が大事だと思うぜ! ブライアンは良いアゴもってんだからさ! 元気だせよ! らしくねぇぜバーロー!」


 俺は必死で胡麻化しながらもブライアンを慰める。

 慰められたブライアンは次第に元気を取り戻した。


「らしくねぇか……。確かに俺っちらしくなかったぜバーロー! 何回振られても、俺はマドンナちゃんを諦めねぇぜバーロー! 相棒のお蔭で元気でたぜ! 俺っち、もう一回マドンナちゃんに会って、プロポーズしてくるぜバーロー!!」


「そうだな……。って! え? ちょ! まじで? 落ち着けブライアン! ブライアーーン!」


 そのままブライアンは家から走って出て行った。

 1時間後には顔面に蹄の跡を付けて、戻ってくるのは言うまでもない。


「つうか、あいつ全然俺の話聞いてねぇ! まぁいい……。これで邪魔者は去った。これがラストチャンスだ!」


 シンはブライアンという最大の障害物が立ち去った事で本来の計画(のぞき)を遂行しようとした。

ーーがその時……。


「あぁーー! 猫ちゃんだ! どこにいたの? 一緒にお風呂もう一回入ろ?」


 ヒヨリンの声が聞こえた……。


「なんだってぇぇ!!」


 俺は既に時が遅かったことを悟ると、つい大きい声を出してしまった。

 すると、マリリンが走ってキッチンに駆け込んできた。


「どうしたの! 大丈夫! シン!!」


 マリリンは濡れた髪のまま、大きめのタオルケットに身を包んだだけの無防備な恰好でキッチンに駆け付けた!


 そして俺が、キッチンに入ってきたマリリンを見た瞬間……。


 パサっ!


「すまない! なんでもないんだ! 大丈……ぶ……ブッ!」


 なんと駆け込んできた拍子に、マリリンのダイナマイトボディを唯一包んでくれていたバスタオルが落ちたのだった。


「なによ! もう! まぁ何もないならいいわ!」


 マリリンは俺が無事な事に安心すると、タオルが落ちた事に気付く。


「あ……。」


 ナイスバディ!


 俺がそう心で呟き、その映像を脳内のワームカードに記録していくと……。


「キャーー!! 見ないで!!」


 ドガッ!!


 マリリンの本気のパンチが俺の顔面にクリーンヒットする。


 ナイスパンチ……。


 そして俺はそのまま気を失ったのであった……。


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