第37話 愛の巣……作ります。
俺達はお昼のお別れイベントを済ますと、外に出て自分達の家を作るための空き地を探し始めた。
「どこに家建てるかなぁ……。つうか、これどこにでも建てられるわ……。」
村は空き地だらけである。
選び放題だった。
「どこでもいいニャ、暖炉がある家作るニャ!」
「お? 相棒? 何するんだバーロー??」
「家だよ家! 昼飯食った後に話しただろ……。いつまでもスズカさんの家にお世話になるわけにもいかないからな。」
「ん、スズカさん……いい人。迷惑……ダメ!」
ヒヨリンはいつのまにかスズカさんになついていた。
物心ついた時からおばぁちゃんっこであり、見た目はともかくスズカさんの話し方や雰囲気が亡くなったおばぁちゃん(巫女)のように感じていた。
そして少しだけ歩くと、家を作るのにうってつけの広場にたどり着く。
「よし、ここでいいだろ。おっしゃ! 早速作り始めるわ。」
俺は、スズカさんの家から歩いて5分くらいの場所に家を創造することにした。
今回は野営と違って明確な拠点なので、5LDK豪華なお風呂付をイメージして作り始める。
「はぁはぁ……。流石に素材が豊富と言えど、これはちょっときついな……。」
村の周りには石や木等の自然が豊富であり、木造の家であればさほど難しくはない。
だが今回は、具体的なイメージをして創造していたことから、思いのほか精神力を消費した。
「よし、できた! 後は内装だな。」
「相変わらず凄い能力ね……フン!」
「いい感じニャ! いい感じの家ニャ! 家の中は任せろニャ!」
「ん、外見は立派……。」
「お? お? お?」
あっという間に豪邸ができるという凄い事態にも、誰も驚きはしない。
これまで見て来たシンの能力からすれば、できて当たり前くらいに思っていたからだ。
「おし、ブライアン! 俺はしばらくアズと二人で家作ってるから、マリリンとヒヨリンを村の商店街に連れて行ってくれ! そこで日用品や服とか買って……。あ! 金がないか……つかにんじんか。」
俺は話している途中で、交換するニンジンがないという重要な問題に気づいた。
流石に今回もスズカさんに出してもらうわけにはいかない。
「おう、相棒。心配すんな! 俺っちの活躍で村から報酬もらえるぜバーロー。」
活躍?
報酬?
「どういうことだ、ブライアン?」
「おう、俺っち達はチビやへんなチョンマゲ達と戦っただろ? その報酬だぜバーロー。馬族は目がいいからよ、誰かしら見てるやつがいて……それで……お? なんだ? そういうことだバーロ!!」
俺はダメ元でブライアンに説明を求めると、意外にまともな答えが返ってきて納得する。
つまりあれか。
ブライアンが言っていた自衛隊に所属してるってのは、こういう風にどこかで鬼族と戦闘が起こるとそれを監視する何かがある。
そしてその対価によって、報酬が支払われるってことか……。
なるほど!
意味がわからん!
がしかし、渡りに船だ。
運が向いてきたな……。
これもマリリン達にかかっている光の加護の効果だったりする。
俺は先立つものが手に入る目途がついたため、安心してブライアン達を送りだす事に決める。
「じゃあ、あんまり遅くならないように帰ってきてくれ! 一応馬車作ったから、荷物はそれに乗せてブライアンに引っ張ってもらうといい。」
「期待してろよバーロー!」
「わかったわ……。」
「猫ちゃん……ササミ見つける。だから後でモフらせて……。」
三人はそういうと、商店街に向かうのだった。
俺は買い出しに向かった3人を見送ると、
「よぉし! んじゃやりますかな! 立派な豪邸作るぜバーロー!!」
自然とブライアンがうつってしまった……。
夕方、一悶着はあったものの無事報酬をゲットできたブライアン達は、様々な日用品や食材を買い込んだ二人を乗せて戻ってきた。
そして人面馬の馬車が俺の作った家の前に到着し、2人と1匹(笑)は荷物を家に運び込むために家の中に入る。
3人は……家に入った瞬間、息を飲んだ!
「すっごーーい! 何これ!? 超豪華じゃないのよ!」
一番最初にマリリンが興奮した声をあげる。
「ここで……猫ちゃんと暮らす……。」
ヒヨリンは夢のモフモフライフを想像する。
そしてブライアンは……
「お? ここが俺っちの家か、いい感じだぜバーロー。」
と、いつの間にか自分の家にしている。
3人が家の中に入ってくると、俺は貴族の豪邸にあるような赤い絨毯に敷き詰められた緩やかなカーブの階段からゆっくり降りていった。
「はっはっは! 凄いだろ! 気合入れて作ったぜ! それと……ブライアン! 君の家は向こうの馬小屋だ、お引き取り願おう!」
色々協力してくれたブライアンに対してあんまりな言い方だったが、別に本気ではない。
冗談である。
まぁ半分は本気だったが……。
「お? 相棒! 俺の物は俺の物、相棒の物は俺の物だぜバーロー!」
「お前はどこのジャイアンだ!」
俺のツッコミが炸裂した。
やはり、ジャイアンにはお引き取り願おう。
「まぁいいや、部屋は2階に5部屋あるから好きに使ってくれ、それぞれの部屋にはベットやタンスがある。みんな荷物を置いてきてくれ。」
俺がそう言うと、各々が買い込んだ物を自分の部屋を決めてから運び込んだ。
「おい、お前はいいんだよブライアン! つか、お前……虫もってくんじゃねぇ!」
「お? 硬いことはなしだぜバーロー!」
……。
あんにゃろう、ゴキブリ出たら真っ先に追い出してやるからな!
まぁそんな事もありましたが、とりあえず今回俺がイメージしたのは、北欧の大豪邸。
昔見たアニメを元に、内装を作り込んだ。
リビングには大きな白色で統一された暖炉。
豪華なテーブルにソファ。
そしてワインはないがワインセラー。
完璧である。
しかし、一番のお気に入りは、大きな浴室に設置した大理石の浴場であった。
見た目も豪華だが、そのシステムがやばい。
地下まで掘り起こし、源泉を見つけてから天然の温泉を引っ張ってきたのだ。
ちなみに屋内の大浴場から通路を新たに建設し、外にはヒノキでできた露天風呂もある。
ついでにその源泉を使って、トイレにはウォッシュレットも完備だ。
各部屋にもシャワーとトイレも設置し、準備は万端である。
正に職人であった。
時折、2階の部屋からはマリリンとヒヨリンの「キャーキャー」驚く声が聞こえてくるほどの完成度だ。
全員が準備を済ませている間に、俺はブライアンに買ってくるように頼んでおいた食材を使って、料理し始める。
俺は料理が好きだ。
1年間だけであるが、小料理屋の厨房でアルバイトもさせてもらっている。
その経験が生かされる時が来た!
「みんな! 準備が終わったら下に来てくれ!」
俺は大声でみんなを呼ぶと、しばらくして全員がリビングに集まってきた。
特に女性陣の顔は、未だに興奮が隠しきれず、目がキラキラしている。
「これから俺は夕食の準備にかかる! なので、マリリンとヒヨリンは、お風呂にでも入っててくれ。ブライアンは……帰れ!」
俺がそういうと、マリリンは、俺とギクシャクしている事を忘れて大喜びではしゃぎだした。
「本当に!? お風呂あるの! やったーー!」
そんなマリリンの姿を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた俺は更に追い打ちをかける。
「浴場の外から露天風呂にも行けるぜ! 石鹸も用意してあるから自由に使ってくれ。」
俺がキメ顔で自信満々に言うと、マリリンは予想外の行動に出る。
「さいっこう! シン、大好き!」
テンションが上がり過ぎておかしくなったマリリンはシンに抱き着く。
「え? え? おう。喜んでくれてよかったよ。」
これまでだったら喜んで自分の部屋に駆け込みたくなる俺。
だが、流石にこれには困惑した。
あれ? 普通に戻ってない?
よっしゃ!
遂に名誉挽回きたーー!
最初は困惑していた俺であったが、じわじわと喜びが溢れてくる。
がしかし、ハッとマリリンは我に返り、急にまたきまづい顔に戻った。
「お風呂いくわ……。」
とテンション低めに言って、浴場に向かう。
なんやねん!
どっちやねん!
すると、ヒヨリンがそっと俺に近づくと
「大丈夫、もうそろそろ……忘れる。」
そんな意味深なセリフだけ吐いて、そのままマリリンに続いて浴場に向かった。
そして浴場の方からは、今までで一番大きな歓声が響き渡っている。
ふ、まぁよい。
これで俺の計画はうまくいった。
ふっふっふ。
実をいうと、お風呂場にはのぞき穴をちゃっかり設置していたのだった。
のぞきは漢のロマンである。
だがしかし犯罪でもある……。
実際には、アズによって俺の企み(のぞき穴)は既に塞がられていたのだが、俺には知る由もなかった…
「待ってろよ!!温泉イベント!!」
何も知らない俺は、夢にまで見た異世界温泉イベントに気合を入れる。
そして……忘れちゃいけないブライアン。
「おう、来たぜバーロー!」
帰れと言われたブライアンは、一度家を出ると、一秒で戻ってくるのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます