第36話 爽やかな朝

 翌朝、外は気持ちがいいくらいに雲一つない晴天だった。

 俺は外に出ると両手を大きく空に伸ばす。


「う~ん! 気持ちのいい朝だ!」


 俺の顔はツヤツヤしていた。

 とてもスッキリ爽やか!

 体調も万全な俺は、簡単な準備体操をして体をほぐしていく。


「お? 相棒! 面白いことしてんなバーロー。」


 ブライアンが起きてきた。


「おはようブライアン! 相変わらずいいアゴしてんな。」


「お? そうか? 相棒、機嫌いいのな。なんかあったかバーロー?」


 流石のブライアンにも俺の機嫌の良さは伝わる。

 幸せを共有というか、自慢したい俺であったが、流石に言うわけにもいかない。


「いや、もうすぐ馬族の村に帰れると思ったら、なんだか嬉しくてな。」


 それもまた事実であった。

 初めて訪れた異世界の村で、短い期間しか経っていないのだが、なんだか懐かしく感じる。

 あの長閑な感じは田舎に行ったみたいで、何故か癒やされるのだ。


「おう、相棒。俺っちもうれしいぜ。」


 ブライアンは鼻を擦りながら、照れた顔で喜んだ。


「後少しの付き合いだけど頼むな! ブライアン!」


「おう、俺っちからも頼むぜ相棒! お? 何を頼むんだバーロー?」


 鬼族の村に行く時は、ブライアンを連れて行くつもりはない。

 これ以上連れまわすのは流石に悪いし、憎しみの対象である鬼族の町にブライアンを連れて行くわけにはいかなかった。

 そんな思いは、当然ブライアンに知る由はない。


 しばらくすると、マリリンとヒヨリンも起きてきて、みんな外に出てきた。


「よし! じゃあみんな出発だ!」


【数時間後】


 時間はお昼前。

 やっと馬族の村についた俺達は、スズカさんの家に向かう。


「へぇ~ここが馬族の村ね、確かに長閑でいいところだわ。」


 マリリンは、ぼ~っと村を眺めながら独り言ちる。


「ん、悪くない。」


 ヒヨリンの村への印象も悪くないようだ。


 そして一軒の藁ぶき屋根の家に到着すると、ブライアンは勢いよく入り口から中に入る。


「おーい、ババァ! 帰ったぞ!」


 ゴン!!


 相も変わらずブライアンは入り口に頭をぶつけた。

 毎回それをやらないと気が済まないのだろうか。

 すると家の奥からスズカさんの声が聞こえてきた。

 

「おやおやまぁまぁ、随分遅かったじゃないか。無事でよかったじゃ……もうすぐ昼食じゃから、さぁさ中に入っておいで。」


 !?


 純粋な馬族を初めてみるマリリンとヒヨリンは、スズカさんを見て絶句する……。


「馬が……しゃべってる!?」


「これが馬族……凄い……。」


 馬族を初めて見た時のインパクトは俺だけでなく、人族ならばみんな同じようだ。


「スズカさん、ただいまです。スズカさんのお弁当やニンジンのお蔭で無事帰ることができました。ありがとうございます!」


「おやおやまぁまぁ……随分立派になったもんじゃのぅ……立ち話もなんじゃ、さぁさ入っとくれ。」


 俺たちは、スズカさんの好意に甘えて家の中に入っていく。


「これが……家なの?」

「ん、馬小屋」


 マリリン達は、あの時の俺と同じリアクションをするも、直ぐに藁の上に座った。

 そしてどんどん運ばれてくる、シンプルかつ多種類なニンジンに舌鼓をうった。


「ほんと、これ美味しいわね!」


「ん、ここのニンジン……好き。」


 昼食を終えた俺達は、早速スズカさんに何があったかを報告した。


「おやおやまぁまぁ、そいつは大変だったねぇ……。そこのお嬢さん達も辛い思いをしたねぇ……。攫われた人が見つかったらここに連れておいで、あたしが面倒見てあげるから心配ないじゃよ。」


 これまでの全てを聞いたスズカさんは、優しく、そして慈愛の篭った声で巫女たちを慰める。

 その優しい言葉に二人は目を潤ませた。


「はい、ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」


 マリリン達は、少しだけ不安が解消した事にホッと胸を撫で下ろした。

 これで、攫われた人達を助けた後に困る事はない。


「それでシン殿はこれからどうするつもりじゃて?」


「スズカさんさえよければ、この近くに家を建てようと思います。自分にとってもここは思い入れが深い場所なので、拠点を構えたいのです。」


 俺にとって、この世界で唯一安心できる場所はここだけである。

 初めて訪れた場所ということもあるが、長閑で、土地は広いし、ニンジンはうまい。

 しかも商業区に行けば、結構色んな物が揃う。

 拠点を構えるならばここしかない。


「それで、旅立つ準備ができたら3日後に鬼族の町に向けて出発しようと思ってます。」


「おやおやまぁまぁ、そんなに早く行ってしまうのかい? もう少しゆっくりしていきなさいな。」


 スズカさんは、少し寂しそうだった……。


「普通の馬族の方に馬車を借りていこうと思うので、少し時間がかかりそうなんです。ブライアンにこれ以上迷惑かけるわけにもいきませんし……。」


「お? 何で馬族の馬車必要なんだ?」


 状況を理解していないブライアンであったが、俺はブライアンの手を取った。


「ブライアン、本当に世話になった! お前のお蔭で俺は生きて帰ってこれたよ。ありがとう、お前は俺の親友だ。」


 俺の目に涙が溜まる。

 感動のお別れの瞬間だ。


「相棒!」


 ブライアンも感動しながら俺をハグする。

 その姿を見ていたマリリンやヒヨリンも、じんわりと目から涙が出てきた。


「まだ少し時間があるから、それまでは一緒だブライアン。」


「おう、任せとけ。ところでシンユウってなんだ? お?」


 …………。


 ぶち壊しだよ馬鹿野郎!


 

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