第31話 シンvsヤンキー

「おい、そこのヤンキー! 選手交代だ! 俺が相手してやる。かかって来いよ」


「ああん? お前アゴ割れより弱いだろ? 雑魚に興味はねぇんだ。白けたから帰るぜ俺は。」


「なんだお前、見た目の割には随分と臆病なんだな。俺が怖いのか?」


 ヤンキーを挑発するとその言葉は効果覿面だった。


「言うじゃねぇか、この雑魚が! そんなに死にたいならテメェから消し炭にしてやるよ!」


 ヤンキーは直ぐにキレると、いきなり必殺技を放つ。


「跡形もなく消えろや! 地獄の鬼ノックだ!!」


 ヤンキーの周りに無数の火の玉が浮かび上がると、それを金属バットで打ち返し、ひたすら俺目掛けてノックした。


 ブオン! ブオン! ブオン!


 ヤンキーから放たれた火の玉は高速で襲い掛かってくる。

 俺は直ぐにバスケットボールを手元に創造する。

 そしてドリブルを右手と左手に高速でチェンジしながら、反復横跳びのような動きで全ての炎の玉を躱した。


「ドリブルチェンジブースト!!」


「何!?」


 ヤンキーはまさか避けられるとは思ってもおらず、驚く。


「今度は俺の番だな!」

 

 遂に反撃が始まる。


「ダブルドリブースト!!」


  ゴオン!


 両手に現れたバスケットボールを地面後方につくと、その爆発的な反動により前方に移動する。


 音速を超えるスピードは、周りに衝撃波を発生させるほどであり、ヤンキーは捉えることはできない。

 瞬間移動のような動きでヤンキーに接近すると、ヤンキーのアゴ目掛けてボールでアッパーカットをした。


「レイアッパー!!」


 レイアッパーとは、ドリブルで移動した後、レイアップシュートを放つこと。

 つまり鋼鉄のボールでのアッパーカットである。


 鋼鉄の硬度と質量をもったボールを顔面目掛けて下から上に叩きつけるその必殺技は、スピードの加速によるダメージの乗算で、その破壊力は計り知れないものとなった。

 

 如何に火の精霊により守られているヤンキーであっても、そのアゴは木っ端微塵に砕かれ、体を上空に弾き飛ばした。

 普通なら、顔面爆散である。

 

 レイアップにより自分も上空にジャンプした俺は、空中に舞い上がったボールをキャッチすると、意識を失ったヤンキーに対してとどめを刺す。


「アリウープ・トマホーク!」


 シ片手でボールの上部を手のひらでキャッチし、そのまま斧を振り落とすが如く、ヤンキーの頭上に叩きつけようとした。


「シン! ダメ!」


 しかしその時、突然ヒヨリンの叫び声が聞こえる。   

 俺はなんとかギリギリ、必殺技をヤンキーから外すと、ボールはそのまま地面に落下していった。

 それと同時にヤンキーも落下し、地上に落ちるとピクリとも動かなくなる。


 そしてヒヨリンはヤンキーに回復魔法をかけた。


「ウォーターヒーリング。」


 癒しの水がヤンキーの顔を包みこむ。

 既に瀕死となり意識を失っていたヤンキー。

 しかし、見るも無残な顔面が再生されていった。


「ヒヨリン、どうして俺止めたんだ? なんでこいつを助けるんだ?」


 俺は、あれだけ恨んでいた鬼族を助けるヒヨリンにその理由を聞きたかった。


「ん、鬼族は絶対許さない。でもまだ何も話を聞けていない。」


 そう、ヒヨリンにとって情報は知識であり、何よりも優先される。

 こいつを助けたいわけではなく、攫われた者達の手がかりや、自分の村を襲った鬼族に関する情報を優先させただけだった。


「そうか……。そうだったな。俺は熱くなり過ぎてたみたいだ。あのままだったら怒りに任せてコイツを殺してしまい、何も聞けないところだった。ありがとうヒヨリン。」


「ん、シンは悪くない。殺したい気持ちは私も同じ。」


 二人が話をしていると、横になっていたヤンキーは目を覚ます。


「俺は……負けたのか?なんで生きている?」


 ヤンキーは生きている現実に戸惑っている。


「おい、ヤンキー。俺はお前を殺そうと思ったんだがな、ここにいるヒヨリンに止められて今お前は生きている。そして、傷を癒したのも彼女だ、礼ぐらい言えや。」


 呆然としているヤンキーにイライラしながらそう言い放つと、ヤンキーは叫んだ。


「誰が助けろなんていった! ふざけんじゃねぇぞ。負けておめおめと生き残るってか? 殺せ! 生きるも死ぬも俺の自由だ! 俺は誰にも縛られねぇんだよ!」


 ヤンキーがそう言い放つと……俺はキレた!


  ドガ!!


 思いっきり、回復したばかりのヤンキーの顔面をぶん殴る。


「甘えた事ぬかしてんじゃねぇぞ、くそガキが! てめぇは俺に負けたんだ! 負けたら従うのが鬼族なんじゃねぇのか? ああん? てめぇでてめぇが言ってる事を否定するんだったら、それは自由でもなんでもねぇ、ただのガキだ!」


「くそ……だけどな……俺は……ぶっ!!」


 今度はヤンキーの顔を足で踏みつける。


「うるせぇんだよバカ、力ずくで聞いてみろっていったのはてめぇだろ。お前は既に俺の舎弟だ! 気合入れて俺に従えや!」


 俺の口調は昨日の村での怒りからなのか、それともヤンキーに触発されたのか、いずれにしても俺らしくない荒々しい口調になっており、正に番長と言った感じだった。


 しかし、漢と書いて「おとこ」を目指し、最強を求めていたヤンキーの心にはその言葉が響いてしまった……。

 そしてヤンキーはその場で土下座をする。


「押忍! 兄貴! おれぁ、これから一生兄貴についていきやす! 兄貴の下で漢を学ばせてくだせぇ! おねげぇしやす!」


 ヤンキーは、気合の入った声でお願いした。


「おう、わかった。男磨くためには、まずは感謝の心がなきゃいけねぇ。てめぇみたいな喧嘩好きのバカを助けてくれたヒヨリンにちゃんと感謝するんだな!」


「姉御! 助けて頂きありがとうございました! この御恩は一生をかけて返していきやす!」


「ん、それはどうでもいい。それより、早く知ってること全部教えて。」


 ヒヨリンはヤンキーの気合の入った謝罪を流すと、情報提供を催促する。


「へい、わかりやした! まずは俺の名前は仁義の「仁」一文字でジンっていいやす!」


「ん、名前どうでもいい。早く攫われた人の居場所と村を襲った鬼族について教える。」


 ヒヨリンは、若干いら立ってくる。


「す、すいやせん! まず襲われたって村は、最近見つかった人族の村で間違いないですか?」


「そう、私はその村の巫女。」


「わかりやした、最初にその村に向かった鬼族は、俺の舎弟で長安ってもんす。あいつは町長から命じられ、最近見つかった人族への交渉を任されていたんっす。俺は喧嘩にしか興味ねぇんで、詳しいことはわからねぇんですが、昨日、長安がボコられたって聞いて、強い奴と喧嘩できると思ってここまできやした。」


「ん、次どうでもいい話したら、男の証を潰す。」


 ヒヨリン、怖!!


 金の玉を無意識に押さえてしまった。


「すすす、すいやせん! 後で長安に会わせますんで直接聞いていただけるといいっす。次にその村を襲った奴らは、多分ですが羅刹族っす。あいつらはこの近くに町はないんですが、コロシアム荒しをしてて、俺の町に来てたんす。だからその時に噂を聞いて、人族を拉致して拠点に持ち帰えろうとしたんだと思います。」


「羅刹族……聞いた事ある。前回のオニンピックの覇者を出した種族。」


「へい、そうです。姉御詳しいっすね!」


 ヒヨリンの手がジンの股間に向けられた。

 仁は焦って股間をガードするが如く、再び土下座をして謝罪する。


「すすすすいません、姉御。なんでもないっす。確証はないけど、町に戻ればわかると思いやす。自分が知ってるのはこの位しかありやせん! すいやせん! だけど知ってるなら言う必要もないかもしれやせんが、攫われた人は諦めるしかねぇっす」


「なにいってんのよ! ふざけたこと言わないで!」


 今度はマリリンが怒った。


「ん、理由は?」


「ありがとうごぜぇやす! まず一つはあいつらには定まった町がねぇんです。色んな町のコロシアムに参加しては乗っ取って代表で出てやす。だから、広大な鬼族の国で居場所を突き止めるのは難しいっす。見つけたとしても、すぐに移動している可能性もあるっす。」


「次に、あいつらはとんでもなくつええっす。俺も直接戦ったことはないんすが、前回のオニンピックに俺は出場してたんで、試合を見たけど……多分、兄貴でも無理っす。」


「最後にあいつらが優勝した時に決めたルールで、羅刹族だけは略奪も全て自由。例え羅刹族に殺されても、羅刹族を殺すことはご法度になってやす。あいつらからあいつらの物を奪い返すには、オニンピックで優勝してルールを変えるしかねぇっす。」


「なんでそんな下らない事に、関係のない人族が従わなければならないのよ! 関係ないわ、そんなの!」


 マリリンがそういうと、ジンは据わった声で


「くだらない事?」


「何よ! 下らないじゃない、そんなもの!」


「こんなこと言いたくはありやせんが、鬼族舐めてやしやせんか? 鬼族のルールは絶対、つまり、鬼族全てを滅ぼすことができるんでやんすか?」


と仁が言うと、マリリンは言葉を失う。


「なぁ仁よ、俺達はなんとしてでも攫われた人を助けたい。最悪、鬼族全てを滅ぼしてでもだ! でもな、そんなことは今の俺達には無理だっつうのは当然理解してるし、お前が俺達を不快にさせるとわかっていて俺達の身を案じて言ってくれているのもわかってる。」


「兄貴……一生ついていきやす……。」


 仁は目頭が熱くなる。


「なら協力してくれ。今すぐは無理でも何か方法はあるはずだ。一緒に考えてくれないか?」


「わかりやした、俺の命に代えても協力させていただきやす! 兄貴!!」


 ジンは涙を流して叫ぶ。

 そこへ、アズの飄々とした感じの声が響く。


「シンがオニンピックでて優勝すればいいニャ。」


 は??


「……とりあえず言っていいか? そもそもさっきからオニンピックって何……?」

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